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GKとして積極的にビルドアップに関与するヤニナ・ライツィヒ :: P2W002 :: WSL Watch #005

今回は'P2W = person to watch(注目したい人)'の第2弾、レスター・シティのヤニナ・ライツィヒを。

ボックス外でのプレイが印象的なGK

とりあえず、シーズン開幕当初の試合はなるべくたくさん観るようにしてたんだけど、その中で目を引いた選手の1人がレスター・シティのGK、ヤニナ・ライツィヒ(Janina Leitzig)。予備知識が全然ない状態で観てて、後でいろいろ調べたら思ってた以上に興味深い選手だったんだけど、すぐに気になったのはビルドアップ時のボックス外での保持への関わり方で。簡単に言っちゃうと「男だと最近はわりといるけど、女でもこんなに大胆にビルドアップに関わるGKがいるんだな」「女性のGKでこのタイプは初めて観たな」って感じ。シンプルに、ボールに触るエリアが広くて回数も多い。それも、通常にGKと比べるとかなり極端に。

保持型のチームが自陣の低い位置、ゾーン1なんて呼ばれてるエリアでビルドアップにGKを組み込むことはそれほど珍しくなくなってると思うけど、多くの場合はあくまでもCBよりは後ろのゴールに近い位置、ボックスから出るか出ないかくらいの高さでCBの斜め後ろの位置に立ってサポートするようなケースが多い。ただ、中には最終ラインのDFと同じ高さまで出て、まるでCBみたいに振る舞うタイプのGK、例えばマンチェスター・シティのメンズ・チームのエデルソン(Ederson)とかシュテファン・オルテガ(Stefan Ortega)とか、日本だとサガン鳥栖の朴一圭とか藤枝MYFCの北村海チディなんかがそうだと思うけど、通常のフォーメーションは4-3-3なのに保持時はまるで4-4-3になってるような大胆なポジショニングでプレイしちゃうタイプが稀にいるんだけど、ヤニナ・ライツィヒもまさにそうで。ヒートマップを見れるサイト(例えば、SofaScoreとか)なんかで確認するとボックス外の色の濃さがちょっとおかしいことになってる。もちろん、あくまでもチームの戦術としてリスクを承知でそういうプレイが求められてることが大前提だし、相手との力関係によってはそういうプレイがあまりできない試合もあるんだけど、それでも、こういうタイプの女性GKってのはかなり新鮮だったんで。

WSL残留の立役者

ヤニナ・ライツィヒは昨シーズンの1月の移籍ウィンドウでバイエルン・ミュンヘンからローンでレスター・シティに加入したドイツ人のGK。シーズン後半に即戦力として活躍して、今シーズンから完全移籍になったんだけど、改めていろいろな記事とかを確認してみたら、ビルドアップが得意なタイプのGKとかって話以前に守備の能力が突出してて、「ライツィヒが加入してくれたから何とかWSLに残留できた」ってレベルの話だったっぽくて。いろんなメディアの今シーズンのプレビュー的なコンテンツでも、「ライツィヒの完全移籍が最大の補強」みたいに言われてることがすごく多いし。

バイエルン・ミュンヘンでの序列がどうだったかは把握できてないから移籍の経緯はよくわからないし、(詳しくは知らないけどドイツはGKの層が厚そうだから)代表キャップはまだないみたいだけど、24歳で184cmってスペックは魅力的。今シーズンのレスター・シティがわりとリスク上等なプレイモデルを採用してるからピンチもわりと多い影響もあるんだろうけど、たしかに毎試合何回かナイス・セーブがある印象だし。逆に言えば、ビルドアップへの関わりも含めて野心的なプレイモデルを選択できてるのはヤニナ・ライツィヒの存在があってこそってことなのかも。

'ミラクル・レスター'を思い出させる?

せっかくなんで、最後にレスター・シティの昨シーズンから今シーズンの流れについての基本的な情報を。レスター・シティは"WSL Watch #003"でグッド・サプライズとして挙げてチームでもあるし、実は今シーズンのレスター・シティって、ちょっと'ミラクル・レスター'を思い出させる感じだったりもするんで。

'ミラクル・レスター'ってのは、もちろん15/16シーズンのプレミアリーグで世間の下馬評を覆してまさかの優勝しちゃったレスター・シティのメンズ・チームのことで、元日本代表FWの岡崎慎司もその一員だったことで日本でもお馴染み。現地のブックメイカーが「ネッシーが発見される」「エルヴィス・プレスリーが実は生きてる」レベルのオッズを付けてたことでも話題になったり、'おとぎ話'なんて呼ばれたりもした、文字通り奇跡的な偉業。ただ、今シーズンのレスター・シティのウィメンズ・チームが'ミラクル・レスター'を思い出させるのは優勝のことじゃなくて。実は優勝した前のシーズンはリーグ終盤まで最下位だったのにラスト9試合を7勝1分1敗で駆け抜けて見事に残留を果たしたことも'ミラクル・レスターのプロローグ'って言えるくらい十分に奇跡的だったんだけど、昨シーズンのレスター・シティのウィメンズ・チームもそれくらいの惨状で。開幕してからまさかの11連敗、つまり1回り目の対戦を全敗して勝点0でクリスマスを迎えたっていう状況で、"WSL Watch #001"でも指摘したように22節しかないWSLで開幕11連敗ってのはかなり絶望的な数字。それでも監督を変えたり1月の移籍ウィンドウで補強したりしながらウィンター・ブレイク以降のシーズン後半戦では5勝1分5敗で勝点16を稼いで何とか残留を果たしたんだけど、そこがちょっと'ミラクル・レスターのプロローグ'を彷彿とさせるな、と。もちろん、今シーズンの成績次第では'ミラクル・レスターの再現'ってことになるんだろうし、序盤は好調だから可能性がまったくないとは言えないけど、とりあえず、奇跡の残留の次のシーズンってだけで、ちょっと楽しみになっちゃったりして。

そんな流れで迎えた今シーズンなんで、"WSL Watch #001"で触れた上位・中位・下位の分類で言うとレスター・シティはもちろん下位って位置付けで、シーズン・オフの選手編成では16人アウトで9人インだったんで、チームを完全に作り直したって言えるんじゃないかな。監督は昨シーズン途中に就任して残留に導いたウィリー・カーク(Willie Kirk)。45歳のスコットランド人で、もともと昨シーズンの頭からディレクター・オブ・フットボールの職に就いてて、前任監督を解任したタイミングで内部人事で監督になったんだけど、その前にはエヴァートンの監督、マンチェスター・ユナイテッドのアシスタント・コーチ、ブリストル・シティの監督なんかもやってるんで、WSLでの経験は十分って感じなのかな。基本的には、ヤニナ・ライツィヒの能力も組み込んだ保持型のプレイモデルを志向してて、正直なところ、観ててけっこう危なっかしいところもないことはないんだけど、FIFAウィメンズ・ワールドカップにも出てた24歳のカナダ代表FWのディアン・ローズ(Deanne Rose)みたいな魅力的な新戦力もいるし、昨シーズン終盤の巻き返しで手応えを得たスタイルに新加入選手を上手く融合させて、昨シーズンからは大きく生まれ変わったレスター・シティを見せてくれるんじゃないかって期待してたりする。

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