【第8回JWCSラジオ リンク記事】自然撹乱と人為的撹乱の違い
3月30日に配信されたJWCSラジオ《生きもの地球ツアー》の第8回放送、
『なぜ保全のために生息地をかく乱させるの?』
聞いていただけましたでしょうか。
本記事は、第八回放送とのリンク記事です。まだお聞きになられていない方は、ぜひお聞きください。本記事では、自然環境の中で起きている撹乱について、より詳しくお話ししていきます。
ラジオでは、自然撹乱(Disturbance)が多様な種が生息するために必要であることを紹介しました。これは、1978年にJ. H. Connellという生態学者が提唱した、「岩礁生態系における種の多様性は中規模の自然撹乱により維持される」という「中規模撹乱仮説(Intermediate disturbance hypothesis: IDH)」がもとになっています[1,2]。特に岩礁生態系や河川生態系などは、潮の満ち引きや増水、氾濫などの非生物学的な自然撹乱のホットスポットであるため、この「ある程度」の自然撹乱に適応してきた種の生息地となっています[2,3]。
IDHのアイデアは、自然撹乱と種間の競争を引き合いに出してよく説明されます。
「自然撹乱の規模が小さすぎると、撹乱の影響よりも種間の競争によってある生息環境の種の構造が決定されるため、結果的に種間競争に強い種のみが残ってしまい、種の多様性が低下する。
また、自然撹乱の規模が大きすぎると、その撹乱に耐えることのできる限られた種のみが残り、同様に多様性が低下してしまう。
このことから、種間競争を妨害し、かつ、大きすぎない中規模な撹乱が、種の多様性を豊かにする」
と、説明されています[1,2,4]。
IDHが提唱された後、岩礁だけでなく様々な生態系で自然撹乱と種の多様性の関係、IDHが理論上、または自然環境で実際に支持されるかどうか、さまざまな生態系で調査・研究が行われてきました。
現在のところ、IDHは自然撹乱の頻度やレベルが小さい安定した環境という限られた条件下で支持されている研究はあるものの[2]、この仮説は棄却されるべきであろうと述べる研究者もいます[5]。
これまでの調査の結果だけを見ると、中規模な自然撹乱という一つの要因だけが種の多様性を決定するというのは、さまざまな生態系で共通するものではないようです。
もちろんそれは、自然撹乱の頻度や規模だけでなく、種の多様性を決める要因は他にも多くあるからです。例えば、その環境のもつ資源量(例えばある種の餌資源)や、外来生物の侵入や人間活動などを含む人為的な影響が含まれるでしょう。
人為的撹乱は、人為的活動により自然環境がさまざまなレベルで改変することをいいます。人が川に入ることから河川工事、ダム建設まで、数えきれないほどあります。
人為的撹乱のうち、特に界面活性剤などの汚染による人為的撹乱は、英語では「Disruption」とされ、自然撹乱の「Disturbance」とは区別されています[6]。例えば、界面活性剤の化学構造が藻類の群集の形成に関わる成分の化学構造が似ているために、群集の形成に大きな影響を与えることも報告されています[6]。
外来生物の侵入は、餌資源や生息地の競争、または捕食や感染症などを通じてその地域の種の多様性に大きく影響を与えます。特に、その侵入の回数が多ければそれだけ、外来生物の遺伝的な多様性が上がるため、その侵入が成功し定着してしまいます[7]。その結果、その地域の在来種が外来生物との競争に負けたり捕食されたりして減ってしまい、元の生態系には自然回復しない例も多く見られます。
このような外来生物の侵入・定着により個体数を減らした在来生物を守るための方法として、外来生物を排除をすべきかどうかについては、JWCSラジオ第13回にてお話ししています!
外来生物の持ち込み以外の人為的撹乱の例として、ダム建設があります。ダム建設は、河川の水の流量変動を平坦化してしまうので、自然撹乱の頻度の減少やレベルの低下が引き起こされます。それにより、外来生物の侵入を容易にしたり、安定した環境を好む生物だけが増えたりと、種の多様性が低下します[2]。
ダム建設を行った上で元の自然撹乱の状況に人工的に完全に回復するのは困難ですが、種の多様性の維持や回復を行う次善策として、河川の流量管理があります[2]。可能な限り、ダム建設前の自然な流量パターンや自然撹乱パターン、そしてその役割を回復し、本来の環境に近づけるようにする方法です。例えば、大雨などによる河川の増水パターンを真似たダムからの水の放流などが行われています[8,9]。
このように、人間活動により影響を受け制限されている自然撹乱の復活を目指し、環境を回復させる方法が多く研究され、実践されています。みなさんの身近で行われている取り組みはありますか?
【まとめ】
今回は、自然撹乱及び人為的撹乱と、種の多様性の関係について書いていきました。IDHの研究からもわかるように、生態系や地域によって、必要な撹乱レベルや頻度が異なります。このことから、地域単位の研究活動により、地域特有の保全活動が必要になっていきます。河川もみんな同じように見えても、生息する生物種や自然撹乱の影響感受性、人間活動のレベルなど大きく異なります。このようなことを、自然環境や野生生物を観察する時に思い出していただけたらうれしいです
【引用】
[1] 大串隆之, ed., さまざまな共生―生物種間の多様な相互作用, 平凡社, 1992.
[2] 川那部浩哉, 河川生態学, 講談社, 2013.
[3] 種生物学会, 孝司村中, 史子石濱, eds., 外来生物の生態学 進化する脅威とその対策, 文一総合出版, 2010.
[4] A. Randall Hughes, J.E. Byrnes, D.L. Kimbro, J.J. Stachowicz, Reciprocal relationships and potential feedbacks between biodiversity and disturbance, Ecol. Lett. 10 (2007) 849–864. https://doi.org/10.1111/j.1461-0248.2007.01075.x.
[5] J.W. Fox, The intermediate disturbance hypothesis should be abandoned, Trends Ecol. Evol. 28 (2013) 86–92. https://doi.org/10.1016/j.tree.2012.08.014.
[6] 日本生態学会, ed., 淡水生態学のフロンティア, 共立出版, 2012.
[7] S. Lavergne, J. Molofsky, Increased genetic variation and evolutionary potential drive the success of an invasive grass, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 104 (2007) 3883–3888. https://doi.org/10.1073/pnas.0607324104.
[8] 末吉正尚, 小野田幸生, 森照貴, 宮川幸雄, 中村圭吾, ダム下流生態系の再生を目指して ~ 流況 ・ 土砂と河川生物の関係性 ~, 土木技術資料. 60 (2018) 18–23. https://www.pwrc.or.jp/thesis_shouroku/thesis_pdf/1811-P018-023_sueyoshi+.pdf.
[9] 小部貴宣, 浅見和弘, 大杉奉功, 浦上将人, 伊藤尚敬, 三春ダムにおけるフラッシュ放流によるダム下流河川の環境改善について, 応用生態工学. 8 (2005) 15–34. https://doi.org/10.3825/ece.8.15.
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