見出し画像

【第22回JWCSラジオ リンク記事】カバに迫る危機 牙が狙われて密猟が?

並木美砂子( JWCS理事・帝京科学大学教授 )

2023年5月31日配信のJWCSラジオ「生きもの地球ツアー」第22回「カバは赤い汗をかくって本当?」のリンク記事です。

かつて日本にもカバがいた!?

カバは、現在、アフリカ大陸のサハラ以南に暮らす草食動物です。その祖先は約5500万年前(始新世)のアジアで登場したアンコタテリウム(炭獣とも呼ばれます)で、やがてアフリカ大陸にも進出しました。2004年5月に兵庫県三田市で発見された下あごなどの化石が「サンダタンジュウ(三田炭獣)」と命名されましたが、日本を含むアジアにカバの祖先が広く分布していたのです。

3つの胃袋の役割

草食動物の中には嚙み戻し(反芻)をするため3~4つの胃袋をもっている種類がたくさんいますが、カバは反芻はしないけれど、役割の違う3つの胃袋をもっています。まず口でたくさん噛んで唾液をまぜあわせ、1番目の胃にその草のかたまりをためておき、2番目で適度な量の草を送るための調整をし、3番目で消化酵素が分泌されます。大きな身体を維持するのに必要な栄養やエネルギーをすべて植物から得るために、消化システムを進化させてきたのです。水草も利用するため水中ですごす時間は大変長く、分厚い脂肪層は浮力の助けとなり、2トンを超える大きなオスも暮らしていけます。

赤い汗の役割

やや粘性のある分泌物が皮膚から出ており、強い日差しから身を守ったり皮膚の病気から守っているという説もあります。正確には「汗」ではないのですが、分泌直後は透明で数分後にはやがて赤色に、数時間後に茶色になります。この粘液は紫外線から身を守るだけでなく、強いアルカリ性( pH8.5〜10.5 )のため抗菌効果も確認されている(1)ほか、蚊よけの効果も確かめられています(2)。

カバと人間

ところで、カバと聞くと、あの大きな口をガバッとあけ、太い牙を見せてくる様子を思い浮かべるかと思いますが、陸上の草食動物で、あのように大きな犬歯を持つ種類はカバ以外いないようです(ゾウの牙は門歯)。この牙はなわばりを守るため、あるいは、肉食獣を追い払うために相手に見せつけるために使うのですが、いざとなったらこれで突き刺します。
この大きな牙、最近は象牙の代替品として売られるようになり、密猟の脅威がたかまっています。イギリス政府は、象牙の輸入禁止に続き、シャチやセイウチ、カバの牙の輸入禁止も決めています。(3)
一方では、なわばりに入った観光客がカバに襲われることがあるのみならず、漁業者や農業者が襲われることもあります。水路を頼りに暮らしているため、カバの群れと遭遇せざるを得ないことも一因です。また、水質の汚染によりカバたちが生息可能な河川が少なくなってしまったことも、人との遭遇を増加させ、それが被害につながる一因ではないかとも言われています。(4)

保護のために必要なこと

IUCNによると個体数は過去20年間で推定50%減少し、「脆弱(VU)」と評価されています(2017)(5)。その理由は戦争、干ばつなど、人間の暮らしを脅かしている原因とも深く関連があります。アフリカ、と言ってしまえば遠くの世界のように聞こえるかもしれませんが、気候変動を食い止めるためのとりくみや、野生動物由来の製品に対する関心を広げるなど、私たちに今できることにとりくみたいと思います。(最後に、カバにはミニカバ(またはコビトカバ)という種類もいますが、その種については本稿では紹介していません。)

■参考サイト
(1)https://www.nature.com/articles/429363a
(2)https://www.kao.com/global/en/research-development/innovation/dengue/mosquito-repellent-research/hippo-secretions
(3)https://sustainablejapan.jp/2021/03/15/uk-ivory-trade-ban/60019
(4)https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fcosc.2022.954722/full
(5)https://www.iucnredlist.org/species/10103/18567364
https://www.hippoworlds.com/hippopotamus-conservation/
https://www.awf.org/wildlife-conservation/hippopotamus
https://animaliafacts.com/what-zoos-have-hippos/
https://www.britannica.com/animal/hippopotamus-mammal-species

当会は寄付や会費で運営する認定NPO法人です。活動へのご支援をお願いします。