【世界の野生生物保全】世界の野生生物違法取引の現状
野生生物の保全を考える上で重要な情報がインターネット上で公開されていますが、その多くは英語です。そこで今回は野生生物の違法輸送に関する興味深い資料を取り上げ日本語で要約しました。正確に知りたい方は、元の資料をご覧ください。
Runway to Extinction
このレポートは野生生物や野生生物の製品を、生息地・生産地から消費地に空路で違法に輸送する密売者の運営について洞察を加えることを目的としている。密輸活動の最近の動向、そしてこれらの違法取引を可能にしている経路や輸送方法に重きを置いて報告する。
本記事ではその中の総括、次回記事ではアジアについての報告を翻訳し記載
[総括]
世界経路マップ(資料内図1参照)から、3年の間で野生生物の空路輸送が世界中のすべての地域で繰り返し行われていることがわかる。未だに野生生物違法取引は、メキシコ、ヨーロッパ、アラブ首長国連邦、カタール、アフリカ南部・東部、そして東・東南アジアの、特定の国や地域でわずかに集中している。実際に、明らかになっている野生生物の違法取引において中国は2016年から2018年の間に240件と、第2位のベトナムと比べ200%以上に関わっている。中国につぎ、ベトナム(78件)、タイ(57件)、インドネシア(56件)、南アフリカ(56件)、メキシコ(51件)、アラブ首長国連邦(44件)、マレーシア(40件)、ケニア(33件)、コンゴ(32件)が順に名を連ねる(資料内表1参照)。
野生生物違法取引の多くがアジアの国で行われる理由は、野生生物やその製品の需要が高いことなどさまざまである。他の国については、生物の多様性の高さや野生生物の違法取引に対する高い認識、または優れた情報開示プロトコルを持つというような傾向が見られる。
資料内の図2では2016年から2018年の違法取引の差し押さえ件数、及び差し押さえが最も多かった18カ国の取引内訳を示している。いくつかの国で特定の野生生物を密輸する傾向があるものの(例えば中国は象牙、メキシコは海洋生物、南アフリカとモザンビークはサイの角、インドは爬虫類)、それぞれの国はさまざまなタイプの野生生物・製品を密売している。
2016年から2018年に12件以上差し押さえがあった空港のデータ(資料内図3参照)により、中国での集中的な差し押さえ件数がわかる。香港空港だけでも、他の空港よりもおおよそ2倍の差し押さえが行われ、他にも新白雲国際空港や上海浦東国際空港がリストに入っている。このような中国の顕著さは過去数年でさらに増している。中国における差し押さえ件数の増加傾向は、差し押さえについての優れた報告や野生生物密輸への高い認識、改善された規制プロトコル、または密輸活動レベルの増加が原因だろう。またこれらの差し押さえの多い空港のほとんどで、象牙やサイの角、またはセンザンコウの差し押さえが多く、アフリカやアジアの空港で行われていたものがほとんどだった。
この違法な野生生物輸送を食い止めるためには、航空産業を通してどのように野生生物が密輸されるかを知ることが、言うまでもなく必要である。差し押さえデータにより、長年同様の野生生物密輸方法に頼ったネットワークがあり、そのネットワーク間で繰り返し同様の密輸方法を利用して特定の種や野生生物製品を密輸していることがわかった。特定の地域を移動していることについての把握は、税関や取締りが空港で取り締まるべき野生生物の密輸手段の的を絞ることを容易にする。
2016年から2018年の間は、空路での野生生物密輸に預け荷物を利用するのが主流であった。これまでは生牙のまま輸送されることが多かったが、差し押さえを防ぐため生息地で製品に加工されるようになっている。このことから預け荷物内の象牙そのものの差し押さえは減少し、機内持ち込みの荷物の中で加工済みの野生生物製品が差し押さえられることが多くなるだろう。実際に、中国での加工済み象牙製品が頻繁に密輸されており、その割合は2016年で象牙の差し押さえのうち28%だったのに対し2018年では78%であった。
郵便による密輸の差し押さえは少ないが(資料内図4参照)、増加傾向にある。おそらく、郵便の規制認識や審査プロトコルの改善、報告強化が理由として挙げられる。
非効率的な密輸方法は差し押さえがされやすく、つまりこれらの解析にデータとして含まれているが、最も効率的な方法はおそらく識別されていないだろう。また、差し押さえされる密輸方法は最近の関税審査の成功が反映される可能性もある。例えば、機内持ち込み荷物における差し押さえ数は関税審査方法の効率性から高くなる可能性があるのに対し、貨物運送における差し押さえ数は非効率的な関税審査手続きのため少なくなっているのだろう。
図の参照や詳細情報はこちら。