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【第4回JWCSラジオ リンク記事】 クジラ類の種と分類


11月22日に配信されたJWCSラジオ《生きもの地球ツアー》の第四回放送、
『日本でクジラって見られるの?』


聞いていただけましたでしょうか。

 本記事は、第四回放送とのリンク記事です。まだお聞きになられていない方は、ぜひお聞きください。このブログでは、ラジオでお話ししたクジラ・イルカについて、さらにお話ししていきたいと思います。


 ラジオ内で笹森さん(酪農学園大学特任准教授・日本クジライルカウォッチング協議会会長)に、イルカもクジラの仲間で、大まかにいうとイルカとは小さいクジラのことを指すことを教えていただきました。この大きさの基準は、大人になっても体の長さが4mを超えないことだそうです。さらに、クジラは歯が生えているハクジラと、歯ではなくひげが生えているヒゲクジラのどちらかに分類されます。

ハクジラとヒゲクジラ


 IUCN(自然保護連合)のレッドリストIWC(国際捕鯨委員会)のホームページで確認できる中で、現在生きていると認識されている鯨類の種はおおよそ90種です。この種の数は、IUCNやIWCの団体や研究者によっても異なります。その理由として、一生を水中で暮らし広大な範囲を移動するので、遺伝的・形態的に分類する研究が難しいことが挙げられます。そのため最近でも、新種が発見されたり、これまで同じ種と扱われていた種が実は異なる種であると判明したり、今日も鯨類の分類は種単位で議論されている最中なのです。

 例えば、最近新種と判明した種は、2003年のツノシマクジラ [1]、 クロツチクジラ [2]、 2019年のライスクジラ [3]です。ちなみに、新種として判明したクロツチクジラの英名は、新種発見の鍵となった情報提供者の佐藤さんの名前にちなんで、Sato’s beaked whaleとなりました [4]。
 また、マイルカ科マイルカ属には1994年当時はマイルカ(Delphinus delphis)とハセイルカ(Delphinus capensis)2種に分けられていましたが、調査研究によって、これらの種は同じ種で、個体群間内の多様性が豊富であるということが分かりました。このため現在は、マイルカ属はマイルカの一種に統一されています [5]。このように、種数はこれらの理由で増減を繰り返してきています。

 現在は、鯨類の約4分の1が絶滅危惧種です。コビトイルカが2020年に「準絶滅危惧」から「絶滅危惧」にアップリストしたことで、淡水に生息するイルカ全4種(ヨウスコウカワイルカ・アマゾンカワイルカ・ラプラタカワイルカ・インドカワイルカ)が絶滅危惧種となりました (注:ヨウスコウカワイルカは2017年IUCNにより「CR (Possibly Extinct): CR (おそらく絶滅)」と評価)[6]。
 これまでIUCNのレッドリストでデータ不足として保全状況を評価できなかった多くの種が、この数年で評価されてきました。しかし、まだ9種がデータ不足で評価されていないことや、個体数の変化についてはほとんどの種が「不明」とされるなど、調査やサンプリングが難しいのが伺えます。

鯨類の保全状況と種数


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 水中に棲んでいるといっても、種ごとに生息環境は大きく異なります。最も広大な生息環境である遠洋に棲む種もいれば、北極圏と南極海の氷海に棲む種、濁っていて餌が豊富な河川に棲む種、また捕食者であるシャチから安全で休息場となる熱帯の海域に棲む種、海流が穏やかで子育て場にもなる潟と、その生息環境は多様です。さらに、繁殖する海域と採食する海域を季節で棲み分ける種もいます [7]。

 ラジオ内でも話題となりましたが、約90種もの世界の鯨類種のうち、日本沿岸に来ることがある種として現在39種が確認されています。とても多くの種が観察できる可能性があります。笹森さんによれば場所によっても見られる種は変わるそうです。

例えば・・・

・小笠原:マッコウクジラやザトウクジラ、
・沖縄県・鹿児島:ザトウクジラ、
・東京都御蔵島:ハンドウイルカ、
・北海道の噴火湾:カマイルカ、
・北海道の知床羅臼・釧路:シャチやマッコウクジラ

 しかし、水中を泳ぐ鯨類の識別は難しいもの。種を目視で識別する際のポイントは、頭や背ビレ・尾ビレの形、噴気の形、全体の体の大きさなどです。日本沿岸でよく目撃される種の尾ビレのイラストも参考にしてください。

鯨類の尾鰭



【まとめ】
クジラやイルカは、日本に住む私たちとってとても身近な生物ですが、その多くが絶滅危惧種で、保全活動が必要です。ラジオ内では、クジラやイルカの観察場所や観察方法などを紹介しました。ぜひ、野生のクジラやイルカの姿や行動を、野外で直接観察してみてくださいね。その際には、日本クジライルカウォッチング協議会のホームページも参照ください。



【引用】
[1] S. Wada, M. Oishi, T.K. Yamada, A newly discovered species of living baleen whale, Nature. 426 (2003) 278–281. https://doi.org/10.1038/nature02103.
[2] T.K. Yamada, S. Kitamura, S. Abe, Y. Tajima, A. Matsuda, J.G. Mead, T.F. Matsuishi, Description of a new species of beaked whale (Berardius) found in the North Pacific, Sci. Rep. 9 (2019) 1–15. https://doi.org/10.1038/s41598-019-46703-w.
[3] P.E. Rosel, L.A. Wilcox, T.K. Yamada, K.D. Mullin, A new species of baleen whale (Balaenoptera) from the Gulf of Mexico, with a review of its geographic distribution, Mar. Mammal Sci. 37 (2021) 577–610. https://doi.org/10.1111/mms.12776.
[4] LASBOS Moodle, 新種クロツチクジラ, (2019). https://repun-app.fish.hokudai.ac.jp/course/view.php?id=588 (accessed January 22, 2022).
[5] Whale and Dolphin Conservation, Long-beaked common dolphin. https://us.whales.org/whales-dolphins/species-guide/long-beaked-common-dolphin/ (accessed January 23, 2022).
[6] European bison recovering, 31 species declared Extinct, IUCN Red List. (2020). https://www.iucn.org/news/species/202012/european-bison-recovering-31-species-declared-extinct-iucn-red-list (accessed January 15, 2022).
[7] A. Berta, ed., 世界のクジラ・イルカ百貨図鑑, 河出書房新社, 2016.


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