【第1回JWCSラジオ リンク記事】 日本の動物園にいるゾウと、象牙取引について
インターネットラジオであるPodcastにて、8月27日に配信されたJWCSラジオ《生きもの地球ツアー》の第一回放送、
『動物園にいるゾウはなにゾウ?』
聞いていただけましたでしょうか。
本記事は、第一回放送とのリンク記事です。まだお聞きになられていない方は、ぜひお聞きください。
第一回放送のナビゲーターはJWCS事務局長の鈴木希理恵、ガイドはJWCS理事・帝京科学大学教授の並木美砂子さんでした。
本配信の中で、ゾウにはサバンナゾウ、マルミミゾウ、アジアゾウの3種がいて、日本の動物園で飼育されているゾウの中で、マルミミゾウをしている動物園は少ない、というお話がありました。
この3種全てが国際自然保護連合のレッドリストに絶滅危惧種として、ワシントン条約に附属書I種(アフリカ南部の一部地域個体群は附属書II)として掲載されています。しかし、生態や形態はさまざまです。アフリカのサバンナに生息し体のサイズが一番大きいサバンナゾウ、アフリカの森林に生息しゾウの中で最も絶滅に近く丸い耳をしたマルミミゾウ、アジアの森林に生息し猫背で耳が四角くて小さいアジアゾウ。他にもたくさん、形態に違うところがあります。共通点として挙げられるのは、どの種も象牙目的の密猟・違法取引で絶滅に瀕しているということです。
The Global Initiativeという、組織犯罪に取り組む世界中の500以上の団体から構成されるネットワーク団体が、2021年8月10日に違法な象牙取引についての新たな報告書を出しました(記事はこちらから)。
その報告書では、これまでの象牙の違法取引の需要の増減や各国の象牙国内市場閉鎖、違法の象牙取引の目的の変容など、さまざまな事柄がレビューされています。注目した点として、
1. 2020年の象牙の密猟目的によるゾウの殺害数は2003年からの記録の中で最も少なかった
2. 2018年の象牙密猟数は、2011年と比較すると約3分の1であった
3. 中国での消費者アンケートによると、2020年の象牙購入者は過去最も少なかった
と、前向きな報告があったことでした。これらの違法取引の元となる殺害数や密猟数の減少の理由として、大規模な組織犯罪のトップが次々と逮捕されたことや、各国が象牙の国内市場閉鎖を行なったことによる取引の難しさと需要の低下などが挙げられていました。さらに、新型コロナウイルスによるパンデミックの影響で、人々の移動や物流が制限されたために、2020年の空港での差し止め数は大幅に減少したそうです。
これらのポジティブな結果があった一方で、不安要素も大きく、
1. ある国が国内市場を閉鎖しても、合法に象牙取引が可能な国へ旅行し、象牙商品を購入して(税関を通り抜ければ)持ち帰ることができること
2. ITの発展とパンデミックによる国間の旅行の制限により、オンラインプラットフォームによる取引が加速していること
2. 象牙の価格が2020年に入り再上昇していることから、取引の需要が増える可能性があること
と、その報告書には上記3つが主にあげられていました。
象牙の需要削減のために、多くの国が国内市場を閉鎖しています。象牙の需要が高かった中国政府も、2018年に国内市場閉鎖をして以降、象牙取引は違法となっています。国内市場閉鎖や水際対策強化などの需要削減のための各国の努力や、NGOなどによる需要削減キャンペーン活動が、上記報告書にある需要削減や密猟数の減少に大きく寄与したのではないでしょうか。
一方で日本の国内市場はというと、未だ閉鎖には至っていません。観光として訪日した外国人による国内で販売されている象牙商品の購入は違法でありますが、実際に起こっていることがEIA・JTEFによる2020年報告書で明らかにされました。
2016年と2018年に開催されたワシントン条約締約国会議(CoP17, CoP18)では、締約国または非締約国に対し、国内市場に関する提言や要請がありました。
▶︎ 密猟または違法取引の一因となっている象牙の合法化された国内市場があるすべての締約国および非締約国に対し、非加工・加工象牙の国内市場を閉鎖するために必要な立法、規制、執行手段を緊急に講じることを勧告する (Regarding trade in elephant specimens 3段落)。
▶︎ 象牙彫刻産業・象牙の合法な国内市場・象牙の違法取引・備蓄象牙を持つ締約国、および象牙輸入国として指定された締約国に対し、以下のような包括的な立法、規制、施行などの手段を導入することをさらに求める。 (Regarding trade in elephant specimens 7段落)。
▷ 非加工・加工象牙の国内取引の規制
▷ 非加工・加工象牙を扱うすべての取引関係者の登録・許可制の導入
▷ 象牙の需要と供給の削減の実施、象牙に関する既存・新たな規制に ついての普及キャンペーン、違法取引や殺害を誘発する象牙取引の実態やゾウの保護に関する情報の提供、象牙の輸出入に関する許可制度の啓蒙活動、特に小売店において観光客及びその他外国人に、象牙の輸出には許可が必要であることや、居住国への象牙の輸入には許可が必要であり、許可されない可能性があること周知させること
▷ 政府・民間が保有する象牙の在庫目録を記録し、毎年事務局に報告すること
*(Conf. 10.10 (Rev. CoP18). Trade in elephant specimensから一部抜粋・翻訳)
このようなワシントン条約での決議や国際社会からの提言や強い要請、そしてオリンピック・パラリンピックに伴う海外からの多くの人の日本(特に東京)への流入による象牙の海外持ち出しのリスク増加を鑑み、国内市場のあり方について、東京都による『象牙取引規制に関する有識者会議』が計4回に渡り実施されました(第一回開催はコロナパンデミック前であった、東京都象牙有識者会議の中継動画はこちらから)。
計4回の会議を通して、国内市場閉鎖に対して強い批判が一部あったものの、違法取引の根絶には取引の需要を抑制することは必須であり、そのために伝統工芸等の例外を設けることを前提とした国内市場閉鎖について、またその例外となった合法取引を違法取引と区別する方法としてトレーサビリティ(追跡可能性)を確保する制度の導入の可能性などが話し合われました。またオリンピック・パラリンピックまでの緊急な取組としては、特に東京都への多くの人の流入が予想されたことから、少なくとも違法である海外持ち出しを防止するため、東京都内での売買の際にはパスポートなどで購入者の身元確認を行うことが効果的であるなどの意見が出されました。
4回目の東京都象牙有識者会議が終わり(予定されていた第5回目の開催がないまま)、東京都は、東京都の取組『東京都における「象牙製品等の海外持出防止」の取組』をホームページに掲載しました。
その取り組みは、「海外持ち出し禁止の周知」のみ。
野生生物の国際取引について活動するThe USAID Reducing Opportunities for Unlawful Transport of Endangered Species (ROUTES)が出した2018年の報告書では、日本の税関における密輸摘発割合が低く、税関を通り抜けて他国へ輸送される件数が多いことが明らかになっています。
このことからも、日本政府が行うべき海外持ち出しを防ぐための施策は、「密輸出防止のための啓発」だけでなく、税関・警察による水際対策や取り締まり強化に加え、税関の前の段階である象牙の売買の際に、海外持ち出しの可能性をゼロにする必要があります。そもそも、日本の象牙の国内市場閉鎖による世界的な需要削減に協力することが、世界から求められています。
まとめ
JWCSラジオでは、日本の動物園で多く飼育されているゾウも今は3種に分類され、そのうちマルミミゾウが一番絶滅に近いゾウであり、さらに日本でも数少ない動物園でしか見られない、というお話をしました。また象牙目的の密猟や違法取引は、サバンナゾウ、マルミミゾウ、アジアゾウの3種全ての存続の危機の大きな要因となっています。世界最大の象牙市場であった中国でも2018年に国内市場が閉鎖するなど、世界の象牙取引に対する施策・法整備は大きな進展がありました。日本は国内市場閉鎖に至っていないため未だ国際的な足並みへ揃えられていないですが、日本政府による「売れない」(法規制)、そして消費者の「買わない」(需要削減)が実現し、「象牙は売れない」ということが世界に広く認知されることが、象牙目的の密猟や違法取引の根絶の鍵となると考えています。
あなたの「買わない」が、野生生物の「生きる」になることを、ぜひ心に留めていただければいいなと思います。
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