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野生生物も人間も。この地球で。

認定NPO法人 野生生物保全論研究会(Japan Wildlife Conservation Society JWCS)は、1990年に「それって野生生物の保全になるのか!?」と疑問に思った研究者が集まって議論したり、それを会報にまとめたり、という研究会から始まりました。

その後、シンポジウムの開催や国際会議への参加、調査報告書の発行・提言など活動が広がって、会費や寄付で運営するNPO法人になりました。

「会員や寄付を集めるのに、『保全論研究会』って名前じゃ…」とか、「人気のある動物を前面に出さないと」とよく言われますが、いいんです!この会は他の団体がやらない分野だからこそ、活動を続けているのです。

ところで野生生物の保全って何?

保存、保護、保全 ― 自然をどんな状態にしたいのか
保存、保護、保全という用語自体は類似概念で、必ずしも厳密な区別はされていない。日本語の語感としては、これらをひっくるめて保護を用いることが多い。
保存 preservation は現状維持を基本とする。 例:「凍結保存」
保護 protection は外敵や破壊から防御して守るという概念。
保全 conservation には二つのニュアンスがある。
①本来の包括的概念で、何も改変しないという選択肢も含めて、目標とする自然の状態に向かって管理するという概念である。目標が現状と同じなら保存と同義となる。目標が目前の脅威を排除することなら保護と同義となる。
② 回復力の範囲内で利用するというもので、一種の資源という発想がある。資源というと、金銭換算される財産と位置付けられてしまう。そこで利権や私物化の問題が起こり、野生生物が自前で生きている自然物という感覚が失われやすい。例えば水生動物の多くを、日本人は水産資源=食い物として認識し、野生動物であるという意識が薄い。
また次のような保全は目標を確認し、対策が適当であるかを検討すべきであろう。
・絶滅に瀕した生物の生活環境を保障することではなく、保全策として移殖(植)をしていないか。
・増えすぎた動物を減らして他の生物や人間への被害を少なくすることが保全として行われ始めた。そこでは、自然を人間の利害や考えの範囲で「管理」することが前提で、保全目標としての野生世界の再現は欠落していないだろうか。
・守るために必要な財源を入山料などの利用に求めると、過剰利用を促進するのではないか。
・枯れた植物体を整理排除する手入れを清掃という意識だけで行うことは、自然にとっては保護でも保全でもなく、人間の美的満足でしかない。
・雑木林の下草刈り・落ち葉掻きは、若い植栽木と競合する植物を排除したり、たい肥や温床造りの資材とするなど、もともと農林業行為であった。農林業的利用がほとんどなくなり、下草刈りをしないで放置すると、関東地方の場合、ササの繁茂か常緑広葉樹の増加が起きる。そうなると、それまで下草として生育していた植物が光不足で枯れてしまう。この場合の保全目標は、下草が生育し続けられる環境づくりになる。ここで放置して常緑広葉樹林に変わっていくことは、二次遷移という自然界の原理であり、本来排除されるべき現象ではない。目標が雑木林の下草の存続だから選択しないのであって、目標をその地域の自然植生に置くのであれば、落葉樹林という特定の遷移段階でとどめておくのはむしろ破壊行為に相当する。この目標設定が合意されないまま、下草刈りだけが自然保護だと言うのは適切ではない。
小川潔 (2017) 保存、保護、保全―自然をどんな状態にしたいのか 「生物多様性保全と持続可能な消費・生産」JWCS pp84-86 より抜粋・要約

このような視点で、国内外で起きている野生生物に関する出来事を考え、発信します。よろしくお願いします。鈴木希理恵(JWCS事務局長)

希理恵イラスト


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