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韓ドラ「アルゴン」に見る――「ひるおび!」弁護士のデマ騒動(上)

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TV局の内幕を描いた韓国ドラマ「アルゴン~隠された真実」の宣伝ポスター画像――。
<左>は主演のキム・ジュヒョク(TVドラマ「ホジュン」でスターに。2017年10月、自動車事故で死亡し、遺作となった映画「王の預言書」ほか出演多数)。
<右>は共演のチョン・ウヒ(映画主演作は「ハン・ゴンジュ 17歳の涙」「哭声/コクソン」では國村隼と共演。出演多数)。

―承前―

韓国の社会派ドラマ「アルゴン~隠された真実」(2017年、スタジオドラゴン制作、全8話)をご覧になった方は、<「ひるおび!」弁護士のデマ騒動>の一連の動きを、どう感じられたでしょうか。

ドラマ「アルゴン」(=ドラマ中の報道番組名)は、人気キャスター(キム・ジュヒョク)が、ある事件の“真相”なるものを“思い込み”報道したため<謝罪>に追い込まれ、番組じたい深夜の時間帯に移されてしまいます。
番組の存続が危ぶまれるなか、女性スタッフ(チョン・ウヒ)が「特ダネ」をつかみ、起死回生のため番組制作チームが総がかりで新事実を発掘し、今度こそ「真実」を報道しようと奔走するのですが、その矢先、ディレクターの勇み足で再び<謝罪>する羽目に陥ります。

この作品は、ソウル駅ガード下のホームレス民主化運動、消耗品のように扱われる契約社員の増加など、韓国(日本も)がかかえる社会問題がサブテーマとなっていて、“韓ドラ”お得意の勧善懲悪ものと思いきや、ちょっぴりほろ苦い結末で終わります。

ニュースキャスターものの中では、「ミスティ~愛の真実」(2018年、「逆転の女王」キム・ナムジュ「トンイ」チ・ジニがW主演)と同様、エンタメの傑作だと思いますが、テレビで放送されることを前提に、TV局内部のタブーを恐れずに描いているという点で、「アルゴン」は社会派の秀作と言えます。

ときにドラマと現実は交錯する

――というわけで、TV局を舞台にした<謝罪>をめぐり、ドラマ「アルゴン」と現実の「ひるおび!」は、よく似ているところがあります。

本番アルゴン謝罪放送IMG_20211016_113235
本番アルゴン~番組謝罪は屈辱的だIMG_20211009_111717

ただ、「アルゴン」と「ひるおび!」は、<謝罪>したあと、<誠実と不誠実>という真逆の方向に走っていきます。

「ひるおび!」は騒動が沈静化した今でも、「フェイク」に傾きがちなインフルエンサー(社会的に影響力を持つ人)を平然と出演させ、その一事をとってみても、<不誠実>な顔をしていると思います。

「アルゴン」のキャスターは、誤報の「責任」を一身に負い、報道被害者と視聴者にたった一人で真正面から<謝罪>し、権力腐敗の「真実」をスクープすることで、ジャーナリストとして<誠実>な姿勢を貫き通し、自身の「矜持」から、最後にはきちんとケジメをつけ、現場を去っていきます。

<誠実>だった日本テレビの謝罪番組

この<誠実>という点で、(全体として政権寄りの報道姿勢に疑問は感じながらも)日本テレビはいちおう、一つのモデルを示したように思えます。

日本テレビの情報番組「スッキリ」は、今年の3月12日、お笑い芸人による、アイヌ民族をあからさまに侮蔑・差別したミニコント(当該の画面は二重加害になるため掲載を控えます)のコーナーを放送しました。
北海道アイヌ協会をはじめ多くの視聴者から「不適切表現」との抗議を受け、夕方のニュース番組で謝罪するとともに、週明けの「スッキリ」で、司会(当時)の水卜麻美アナウンサーが涙を浮かべて深々と謝罪し、こちらの胸に響きました。

本番20210409日本テ番組などで謝罪、BPOの放送倫理検証委員会 で審議決定をNHKが報道IMG_20211103_222452

ところが、BPO(放送倫理・番組向上機構)の放送倫理検証委員会が審議入りを決定し、NHKがニュースで報道(2021/04/09)したことから、社会問題に一気に発展しました。

本番20210829午前2時半から30分放送された日本テレビの謝罪番組IMG_20211102_045709

7月に入って、BPOは「アイヌ民族に対する明らかな差別表現」であると「放送倫理違反」を認定、それを受けて、日本テレビは、8月29日深夜2時半から30分間、【検証 「スッキリ」アイヌ民族差別表現はなぜ放送されたのか】の特別番組を組み、差別コントが放送されるに至った社内チェック体制の欠落を認め、アイヌ民族の歴史を正しく認識するため特別講師を招いた社員研修の模様を放送しました。

メディアの劣化、TBSへの失望

ひるがえって、TBSはどうでしょう。
同じ情報番組でありながら、本来あるべき<謝罪>の姿を日本テレビにまったく学ばなかったということになります。

もちろん、BPOの審議対象になったかどうかの違いはあるにしても、衆院選の投票日を目前にした公党に対するデマが軽い問題で済むということにはならないでしょう。
公職選挙法違反(選挙妨害)に立件されても不思議はないくらいです。

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せめて、TBSには自浄作用を発揮してほしいと期待したのですが、「アルゴン」に近いと思われるTBSの調査報道番組「報道特集」でさえ、<「ひるおび!」弁護士のデマ騒動>「自己検証」したという話は見聞きしていません。

もしも、TBS局内で検証化にフタをしたのだとしたら、「身を切る改革」と大言壮語しながら、自ら(共産党が受け取りを辞退している)多額の政党助成金や世界一高額の国会議員報酬をすんなり受け取っている、あの人気急上昇中の「極右政党」欧州ジャーナリズムの評価です、念のため)と同じこと、「ひるおび!」の共同司会者に責任を取らせない、つまり“身を切らない”TBSに、彼らを批判したり揶揄したりする資格はないのではないでしょうか。

それとも、同じ局内ではあるけれど、バラエティに近い情報番組をうたう高視聴率の「ひるおび!」と、“深堀り”調査&スクープ報道がモットーの「報道特集」を一緒くたにしないでほしい、といった、どの企業にもあるような部署どうしの嫉妬あるいはプライドが、「自己検証」を妨げているのでしょうか。
☛TBS元ニューヨーク支局長(=アベ友)が起こしたレイプ事件(逮捕状が出ていたにもかかわらずなぜか放免され、民事裁判中の今も本人は全面否認)にしても、「報道特集」は番組内で徹底検証する、と共同キャスター(男性)が視聴者に明言したにもかかわらず、その後、音沙汰なしです。

繰り返しになりますが、政府やTV局上層部からの報道規制と自粛要請番組スポンサーと視聴率による過度のプレッシャー、ニュースキャスターの理不尽な交代劇、“やらせ”の温床と言われる制作スタッフへのパワハラ・外注化、NHK女性記者の自殺に象徴される慢性過労状態の労働環境など、TV局内の悪弊は、日本のTV局も「アルゴン」の韓国HBC(=ドラマ中のTV局名)も、そう変わりないのではと思えるのですが、とりわけ日本のメディア報道の劣化は、かなり深刻です。

この4月に発表された「世界報道自由度ランキング」(2021年版)で、日本は67位と、韓国よりもはるか下位に後退し、生産力、知力(研究論文力)、賃金面だけではなく、ジャーナリズムの面でも<後進国>となってしまいました。

(つづく)

【後記】
「アルゴン」シーズン2をぜひとも観たかった。
硬派のヒット作を次々に飛ばす「スタジオドラゴン」の制作だけに、よりディープにメディア界を活写してくれるのではと大いに期待していたのです。
でも、キム・ジュヒョクさんが不慮の事故で亡くなったことをつい最近知り、それもとうに叶わぬ夢だったのだな、と意気消沈しております。
★遺作となった「王の預言書」も抑制された演技で、渋くていい役者さんだなと強く印象に残っていただけに、早すぎる死がほんとうに惜しまれます。◆享年45歳 合掌!

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