どこに基準をおくべきか
歌手はテンポを保つために、バンドがバックならドラムにすがり、オーケストラがバックならどの楽器にすがってもよいけれど、すがるものがない場合もあり最終的に自分で保つ必要がある、と聞いたことがあります。これは基準をどこにおいて対応するのかと、という選択の問題かと思います。
武術は、相手があることですから、体捌や技をかける際、自分を基準とするのか、相手を基準とするのか、いろいろありそうです。
例えば、「基軸之事」という口伝があります。基軸というのは、軸を作り・意識するという意味です。では、軸とは何かというと、動作に安定をもたらす基準のことで、人間工学的な骨の並びを活用して作ることもあれば、相手と自分の間の空間に意識を持って設定することもあります。なお、ここで言う軸は回転運動の中心のことを指し、棒状のものだけを意味していません。
まず、自分の体の中で軸を作り・意識することから始まります。すなわち自分が基準ですね。
次に、相手の体の中に軸を作ることを学びます。そしてその軸を基準に相手をコントロールします。これは相手が基準と言えます。
さらに、相手と自分の間の空間、例えば、接点に軸を作り捌く。離れたところの基準です。
ということは、基準をどこにおくかで、その先の展開が異なる、技が変わるということです。見かけは同じ技のように見えて、受けてみると全然違う、ということが起こります。
どこに基準を置くべきかには、その時々の最善があるかも知れません、が常に「ここに置くべき」という回答はないでしょう、言えることは、基準を色々なところに置くことができる引き出しの多さが有利である、ということだと思います。