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ヤギの乳と肉の栄養学的評価
ロシア語翻訳家の故米原万理さんの著書で、ヤギの乳を飲んでみると、その匂いに落胆する話があります。著者はアルプスの少女ハイジで、「ヤギのミルクがおいしい」と書かれているので憧れて飲んでみたところ、「思ってたのと違う」という結果であったようです。特有の匂いが気になるものの、最近は牛乳アレルギーの人への対応で、山羊ミルクもかなり流通するようになってきました。
家畜保健所にも。ヤギの診療についての問い合わせがあり、獣医師もニーズに対応する必要を感じます。
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1.山羊乳の栄養
山羊乳は、牛乳と同様、アミノ酸バランスに優れており、非常に優良なタンパク質源です。、一般に牛乳のそれよりタンパク質含量は高く、人乳と比 較すると2倍程度であり、食物成分の消化・吸収あるいは排泄に深く関与し、種々の生理活性を有することが知られているタウリンを牛乳の約20 倍、人乳とほぼ同レベル含有していることが報告されています。
山羊乳中の脂質は、他の動物由来の乳と比較して、脂質含量が高いことが報告されており、その脂質構成は牛乳とよく似て、おり、大半は中性脂質(トリグリセリド)です。
山羊乳総脂質の脂肪酸のうち20~30%が炭素数4~12の短鎖あるいは中鎖脂肪酸 で、とくに炭素数10のカプリン酸が著しく高く、このことは山羊乳の特徴的な風味に寄与していると考えられます。
他方、人乳中には比較的多量に含有されているリノール酸などの高 度不飽和脂肪酸については、牛乳と同様に、その含量は低い。
その他の特徴として、カルシウム、リン、カリウムなどのミネラル含量が高いことが 挙げられます。このことは山羊乳を口に含んだときに感じられる塩気に関与しています。
2.山羊肉の栄養
山羊は肉用として家畜化され、ヨーロッパのアルプス地方で乳用として利用されるようになりました。そのことを反映して、ヨーロッパで、とくにフランスやスイス などの地域において、山羊乳が良く利用されています。
山羊乳は主に加工して食されるこ とが多く、チーズは主要な山羊乳加工食品です。山羊乳のチーズは「シエーブル」と総称され、独特な風味を有しており、非常に上品なものから刺激の強いものまで多くの 種類があります。
フランス等においては、山羊乳のチーズは牛乳を原料料として作られたも のよりも好まれています。
表に示したとおり、山羊肉は低カロリーと高タンパク質が特徴である。これは山羊肉の脂質含量の低さに起因しています。
山羊枝肉の脂肪は羊の約1/2で、筋肉内脂肪の量も羊より低い傾向にある。
一般に反芻動物由来の食肉脂質は、飽和脂肪肪酸に宮み、必須脂肪酸であるリノール酸のような高度不飽和脂肪酸が乏しいと考えられていますが。、山羊肉の脂質および脂肪組織脂質は、牛や羊のそれらと比較して、多くのリノール酸を含有しています。全脂肪酸に占めるリノール酸の割合は、非反芻家畜由来の肉である豚肉のそれに匹敵するものです。
山羊肉と他の畜肉との話成分比較
肉種 山羊肉 牛肉 豚肉
カロリー (kcal/100mg) 147 295 295
脂肪 (g/100g) 3.11 19. 28 19.28
飽和脂肪酸 (g/100g) 0.95 8. 19 8.79
タンパク質(g/100g) 27.7 27.7 26.5
鉄(mg/100g) 3.7 3.4 1.6
宮崎大学農学部 河原 聡氏による2000年全国山羊サミット 講演要旨より 2000年山羊サミット岡崎 講演抄録より引用させていただきました。
似内惠子(獣医師・似内産業動物診療所院長))
(この原稿の著作権は筆者に帰属します。無断転載を禁じます。)
似内のプロフィール
https://editor.note.com/notes/n1278cf05c52d/publish/
ブログ「獣医学の視点から」
オールアバウト「動物病院」コラム
https://allabout.co.jp/gm/gt/3049/