夢を見た。

彼と共に暮らすことになって、彼の家族にそれを説明しなければならなくなった。
彼と彼女はもうほとんど精神的に他人で、事務的な連絡であるだけという理由で彼女はその場にはいなかった。
つまり、私が彼と同居することにより、家族は形態としてもバラバラになるのだ。

家族は父と母、子どもは2人いる。
姉妹は2人。姉は母想いで、妹は母と姉の過保護な親子関係に俯瞰的でいたいらしい。
姉妹はとても良い関係だと思う。
微妙な距離感を知っている。
妹は馴れ合いや依存的な親子関係を嫌う。それは、自分には相手に対して、相手の愛したいように身を預けるような、そんな配慮はできないと感じているからだ。
しかし姉は少し過保護で心配性な母親に寄り添う。依存的であり、一時の夢のようだ。長くは続かない。それはお互いに気がついている。了承の上での関係なのだ。それでもいい。そんな愛の形にしかできない。それでもいい。

それでもいい。


妹はそんな姉を尊敬していたし、そう振る舞えない自分の身代わりになってくれているようで、少し後ろめたかった。

父は原理的にものを説明する人だと思う。姉には母との付き合い方について自己犠牲だと言った。やりたいことはやりたいといえばいいし、母との関係がその隔たりになるのなら離れても仕方ないと言った。
わたしもそう思うと姉は言った。
でも、ひとはそんなに簡単に、思っているように行動できない。
将来のこととか、ちょっとした他人に対する愚痴めいたこととか、どんなことでもそう思うならそう行動すればいいじゃないか。というようなことをよく言う。
そのとおりだと思う。
でもなぜかできないのだ。
行動に至るまでいかない。なんとなくやりたくないだけ。だから、やってみれば大したことではないのかもしれない。
でもなぜかできないのだ。

不器用だった。

家族それぞれが、そうでしかいられなかった。

他人から見れば、それはそれで普遍的なところがあるし、一種の家族の形であると思う。
美しいと思う。

それが今、私という存在が関与することで輪郭は完全に失われてしまう。
いわば、私がこの家族を崩壊させようとしている。

今。


「もしもし、お母さん?」
「うん、元気。」
「うーん、ちょっと言うときたいとこがあって。私来月引越しするよ。」
「うん。印西。前住んでたとこと同じ市。」
「でさ。」
「2人暮らしするんだよね。」
「うん。うん。・・・。うん。多分しないと思う。」
「はっきり日にちとか決まってないからまた連絡していい?」
「うん、それじゃ。」
「はーい。バイバイ。」


いつもの、年末何日に帰るよくらいのノリで昨日電話した。
私は。

わからないなあ。

私は私の存在がいち家族を崩壊させようとしていると思うけれど、彼は、私がその問題には関与してなくて、私が思っているようなことではないという。私には彼がこの問題について私をなかったことにしたいように感じる。
それは彼女のためであろうと思おう。子どものためであろうと思おう。
彼女らにとって私の存在は多分薄い方が幸せなのだろう。
それでいい。そう思っていったんわからなさを終わらせておこう。

私は彼と共同生活を送ろうとしている、彼が結婚という形を望まないので私は自分の結婚を放棄した。彼は一度も結婚していないらしい。法に縛られたくないというけれど、おそらく誰にも縛られたくないのだろう。

去年2つ年下の従姉妹が出産した。
叔母や叔父、祖母は次はお前だねと言ったし、両親は期待してないと言いながら、かすかな期待と希望に高揚していた。
昨日の電話では私は不倫していてその人と暮らす。それに彼が結婚したくないから結婚はしないとそこまでは言えないから言ってない。
言ってしまっていたら、次会うまでの間、また親の神経を衰弱させることになるだろう。
年末に帰るときに説明しようと思っている。
結婚しないことは言ったから、少なくとも希望は砕いてしまったことになるだろうけれど。

私に価値はあるんだろうか。
私という存在に。

彼と暮らそうと決断したのは、もちろん自分の意思を一番優先させた結果だ。
私は彼と一緒にいたいし、彼もそう言ったから。

前の恋人と付き合っていた頃までは、私が存在することが、100%彼の利益にならないと嫌だと思ったし、それがないと私自身に価値が薄れると思っていた。つまり私は私に期待していたし、他人にとって価値のある存在だと思っていた。どうかしてた。
でも、彼との関係を始める段階で別にそうでもないと感じていた。
他人との関係や、他人からの評価のみで自分の価値を決めるのはもう限界がある。私は世の中のスケールに当てはまらなすぎた。そもそも私という存在に価値はないと気付いた。

他人との関係性や好きな人からの評価で自分の価値を測ることをやめたら、すごく過ごしやすくなった。素直に生きようと決心した。

その時、私には彼がどうしても必要で欲しかった。
理由はわからない。というか言い当てられない。


私は私のやりたようにやりたいだけ。生きたいだけ。
そうやると世の中のスケールではダメらしい。

私だけで成り立つ世の中ならいい。
そうはいかない。

他人を絶望させてしまう。

彼と娘たち2人は少し遠くで話をしている。
私はその話が終わるまで少し遠くで待っている。
おそらく、これから住むところはこの住所で、あの人と一緒に住むということを説明しているのだろう。

こういう形で良かったとは思えない。それに少なくとも彼は望んでいなかった。私がわがままを言って彼女たちに私たちのことを説明したいと言った。
不倫が家族バラバラになる原因だったのに、夫婦間の不仲が原因だったとこじ付けた、と勘違いされるのが怖かったからだ。でもどんな理由であれ、いい思いはしないし、受け入れるしかないのに、バカだったと思った。


まさにこれが原因でこれからの同居生活にうんざりするかもしれない。
もう、今、もしかしたら、彼女たちに、私と生活しようと思ったけどやめようと思っていると言っているかもしれないレベル。

彼女たちの視線が少しこちらへ向けられる。
少し微笑む。

彼女らの座っている姿勢はとても大人だ。
すっと背筋が通っている。澄んだ瞳で父親の言葉を精一杯受け入れている。
強い人だ。
私は知らない家に連れて行かれて、大人の話が済むのをただもじもじしながら待っている小さな子どもの気持ちになった。
どうしても彼女らの方が大人に見える。
私はこの環境に耐えられずもじもじして小さくなって挙動不審になっている。ただこの時間が過ぎ去るのを待っている。
この環境をセッティングしたのは私自身であるのに。

自分のことばかりで他人を巻き込むだけ巻き込んで。最高にうざい。


やだなあ。

もうやだなあ。
生きていくのしんどいなあ。


これから待ち望んでいた彼との生活が待っているというのに。

そこで目が覚めた。
私は彼の腕に包まれて守られていた。
絶対的な安心感がある。
もう、とっくに昇った太陽の光が寝室に差し込んで彼の顔を白く照らす。


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