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映絵師の極印(えしのしるし)第三話・中編 参 -対峙-

前回のあらすじ
封印の地へ向かったはずの宝治と弾が意識不明の重体で病院に運ばれたと連絡があった。
陸の悪い予感が的中したのだった………すると、鳳一家が猫手会を襲撃していることがわかった!
病院にも鳳一家の魔の手が近づいていた……

「………もしもし!陸や!」
「あぁ、みてぇだなぁ、ヒャーッハッハッハ!」
走りながらD-HANDSに連絡をいれた陸は電話口からの誰ともつかない声に困惑した

「誰だ…」
「俺かぁ?俺は鳳一家、闘鶏と書いてしゃもじゃ!はよ来ないと…ジジイ共の首へし折っちまうぞぉ?」
闘鶏の声の後ろから、芝(しば)や他の幹部のうめき声が聞こえた
「坊ちゃん……お逃げ下さ…」
ボキッという音と共に、闘鶏の高笑いが耳をつんざいた。

「─────!!!」

時は戻り数十分前、炎が連絡を取った直後だった。

「もしもし、D-HANDS...炎さん!どないしはりました...はい、え?猫に手を貸せ?!なんで...わかりました...」

電話を受けた職人が、怪訝な顔で炎の話を聞いた。

受話器を置き、幹部のもとへ走ろうとしたその時、ガシャンという音とともに、自分の横を何かが掠めた。

「え............ドア?」

恐る恐る振り向くと、ドンと何かにぶつかった。ニタリと笑うその何かは、鳳一家の闘鶏であった。

闘鶏はニヤニヤ笑いながら職人の頭を手でポンポンと置いた。

「......し、ししし、侵入しゃがぼっ!!」

叫ぼうとした職人の頭においた手を一気に下におろすと、職人の首は体の中にめり込んでしまった。

「うーるせぇんだよ、ったく...おーい侵入者だぞお、でーてこーい」

物音に気が付いた幹部の芝、ほかの職人も飛び出してきた。しかし、向かってくる者をいとも簡単にただの肉の塊にしてしまうのだ。

「なぁんだよ骨のあるやつぁ...あ?」
その時、陸からの電話が鳴ったのだ。

そこから陸は無我夢中だった。
D-HANDSに到着したときには、虫の息の職人を重ね、その上に座っていた。
酒を煽り、キセルを吸い、向かう者を紙切れのように弾き飛ばしていた
「まだまだ骨のあるやつぁいねぇのかぁ?」
「………お前か...お前がやったのか...」

不思議と息は整っている…
あれだけ走って、あれだけ叫んで、あれだけ怒りに満ち溢れていたのに
死体となった芝の顔を見て、怒りに血が熱くなる感覚があった。
「やぁぁぁっと来たかぁ……クソジジイの息子かぁ…」
「お前かぁぁあ!!」
「そうだぜぇ、この玉座も、酒の器も…どうだ、エモいだろぉ?ヒャーッハッハッハ!」
死体を積み上げて作った玉座、もがれた頭に注がれる酒

「………!!うぉぇぇぇ……」
陸は吐いた。それもそうだ、映画や物語の中で行われている行為が、今現実に目の前で行われている。
「ヒャーッハッハッハ!なっさけねぇガキだなぁ…弱ぇえやつは死ねよ」
さっきまで上機嫌に飲んでいた闘鶏は、突然修羅の如き表情で玉座から飛び上がった。

「死ねぇぇえ!!」
空中から急降下し、鋭い爪を陸めがけて突き立てた。
「………あ?いねぇだと?」
地面には深深と爪がくい込んでいた。しかし、そこの陸の姿はない。

「どこ行きやが………いたぁ」
闘鶏が見た先にいたのは、鉄に抱えられて逃げる姿だった

「いや、鉄にぃ!あかんて、アイツを倒さないと!」
「あ、ああああほ抜かせ!!!あんなん倒せへんわい!!まずは生きることが先決じゃ!」
「でも!」
小道に隠れ、陸を降ろした鉄は一発、拳をぶち込んだのだ

「でももへったくれもあるかいな!」

「な、何すん…え?」
「だぁほが!こん状況で、宝治さんも炎も、お前までおらんくなったら、わしらD-HANDSのもんはどないせぇいうんじゃ!それに…なんや?暗いな…ぬわぁ!!」
小道に入った2人を闘鶏は見逃してはいなかったようだ。
にゃぁと嫌らしい笑みを浮かべ、鉄と陸に手を伸ばした。

ピリリリ、ピリリリ、ピリリリ

この緊張感とは裏腹な音が響いた。
「ちっ!なんだよ、この楽しい時間をよぉ………げっ!もしもぉし!え?終わりだぁ!?マジかよ…わぁったよ!...くそっ、殺り損ねなんてよ...命拾いしやがって...てめぇらの顔、覚えたからな」

電話を終えた闘鶏は、陸と鉄の顔を見ながら、去っていった。

「たすか...ったはぁ......どないする、陸ぅ」

「すまん、鉄にぃ...ともかく、戻ろう...」

その頃、病院では

「もう少しで外だ!気張れるか!」
「あったり前や!!わしを誰や思うてまんねん......あ?なんやあれ」
もう少しで病院の出口、というところで入り口前でモゾモゾと小さい白い塊がうごめいていた。

「まだ生きてる...おい!そこのお前、大丈夫か!!」
武市が生存者に近づくと、不意に後ろから声が聞こえた。
「いいんですかぁ?そんな不用意に近づいてぇ...」
振り返ると、そこには虎とともに行方不明になっている三毛であった。
「三毛!お前...」
「あはははは!武市ぃ、君は甘いねぇ、こんなバカ犬に頭まで下げてぇ、あはははは!」
三毛はまだうまく体が動かせない炎に匕首を向けていた。

「やっぱりおどれかぃ...その顔みて完全に思い出したわ!俺にあのクスリ飲ませたんは!ぐっ...」
「そうですよぉ...もうわかってますよね、武市ぃ?虎様と僕が鳥とつながっていることぉ」
武市は旧友からの告白を信じたくはなかった。しかし、ここまでの出来事に心が壊れそうになってしまっている。
「三毛...なんでだよ......」
「言ってるじゃないですかぁ、猫手会を大きくするためだ、ってぇ。だってぇ、犬どもより自力はあるのにもったいないじゃないですかぁ。それもこれも、虎様と僕は猫手会を思ってのこと、そう武市、君のためだよぉ」

全ては猫手会のことを思い、悪事に手を染めた。
D-HANDSが無くなれば皇帝からの仕事が入って、今のギリギリの生活から抜け出せると虎との計画だったこと、全て話した。

「……ふざけるな!お前らの汚い金ででかくするくらいなら、猫手会は俺の代で終わらせる!犯罪に手を染めた時点で、お前らは取り返しのつかない事をした!!……そんな会、もういらん……」
まさかの言葉に三毛も少し驚いたように
「僕は君のためにここまでやったんだ…そ…そんなこと許されるわけないだろ!!!」

と叫び、炎に突き付けていた匕首を握りなおした。すると、モゾモゾとうごめいていた生存者が突然飛び上がり、三毛の腕をつかんだ。
「三毛さん、話が長いですよ。ここでの『必要なもの』の精査が終わりましたから、帰りましょう」
なんとうごめいていたのは、鳳一家の鳳 燕だった。

「この毒ガスみてぇのは、お前の仕業やな...おい!クソ鳥!...ぐあ!!」
燕は車いすの炎を思いきり蹴り飛ばした。
「うるせぇんだよ!バカ犬!!皇帝にかわいがられてるからってでけぇ面しやがって、てめぇらの鼻っ柱をへし折るのに猫についただけだ!へへ、そうだろよ、三毛!」
落ち着いた口調からの激変に三毛も「えぇ...」としか返事が出来ないくらいの迫力だった。

「僕はね、余計な戦いも、流れる血も、でぇ嫌ぇなんだ...だから、この毒ガスも、ほら苦しみぬいても血の一滴もでねぇ...これが鳳一家の、いや、鳳燕、この僕の化学力だ!あーっはっはっは!!!」

「『猫手絵師ノ技 玄武裂爪』(げんぶれっそう)!!」

「『犬川代目録 青龍砲』(せいりゅうほう)』!!」

燕の後ろから、衝撃波が飛んできた。

「親父!」
「おとん!!」

なんと攻撃を放ったのはICUで寝ていた、目を覚ました宝治と弾だった。しかし、この一撃で三毛と燕を吹き飛ばしたものの、今ある力を使い切ってしまったのか、二人とも倒れこんでしまった。

「くそ...いよいよ、引退考えんといかんな...」
「俺ぁもうとっくに隠居してんだ、馬鹿野郎...」

吹き飛ばされた先の土煙が晴れると、そこには赤い鎧を身にまとった燕が立っていた。
「ジジイたちはまだまだ健在ですね…これ以上は不味い。行きますよ…三毛さん」
そう言うと、鎧の肩から小型ミサイルを4人目掛けて放ったのだった。

「あぶねぇ!」
ミサイルの前に飛び出した武市は結界を展開した。
「『猫手絵師ノ技 玄武岩』!」
打ち込まれたミサイルは当たらなかったものの、衝撃で壁にうちつけられてしまった。
落ち着きを取り戻したとき、既に燕と三毛は消えていた。

「…………もしもし、闘鶏さん?やっとでましたか。犬のほうはもう良いですよ。『必要なもの』は手に入りましたから。えぇ、いいから戻って下さい。」
病院から離れた場所に隠れ、電話を切った。

「『必要なもの』ってなんですかぁ、燕さぁん?」
「あぁ、あなたはまだ知らなくていいですよ。そのうちわかりますよ。」

すると燕の電話が鳴った。

「もしもし、木慈さん。はい...そうですか、わかりました。」

電話が終わると、燕は笑い始めた。

「はっはっはっは!!あと一つ、あと一つあれば...」

「ど、どうしたんですかぁ...?」

恐る恐る三毛も聞こうとするが、言葉は聞こえていないようだ。

「僕たちは『どんな力を使っても』、やつらを蹴落としてやるんだ...今こそ鳳一家復活だ...あーっはっはっは!!!」

その夜は、『悪夢の一夜』として語られる大事件になった。

ーーーーー次回 第3話・後編 壱 -送火-

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