映絵師の極印(えしのしるし)第三話・後編 壱 -葬送-
前回のあらすじ
鳳一家からの襲撃にあった猫手会、D-HANDS-FACTORY
甚大な被害を出し、『悪夢の一夜』という事件になってしまった。
『悪夢の一夜』から三日、猫手会やD-HANDSでは合同葬が行われていた。警察の捜査や近隣住民からの不安視する声に両職人たちは憂き目に会っていた。
「二代目...俺の抱える職人が、家を次々に追い出されてるみたいでな...今後、職人が襲われて建物が壊されちゃたまんないってよ...」
鉤尾は武市に相談していた。『悪夢の一夜』以降、職人を危険視する声が近隣住民からあがり、家の退去、かかわりを絶とうとする連絡など非常に危機的な状況になっていた。それはD-HANDSも一緒で、死んだ職人の遺族からの訴えで同じようなことが起こっていた。
合同葬も本来はそれぞれで行う予定だったが、今は共通の敵となった鳳一家をなんとかするために協力が必要、と二代目猫友である武市と、暫定的に二代目となっている炎、そして陸の言葉により執り行われた。
無論、いさかいなく、とはいかず、しばしば葬儀が止まることも起こってしまっている。両方とも、限界が近くなってきているのだ。
「武市さん、もうこれ以上はどうしょうもできひんぞ...」
「わかってる...くそ、町では鳥族の野郎どもが吹いて回ってやがるし...」
炎と武市が思い悩んでいると、ドアがノックされ、猫手の職人が来た。
「二代目、お客様です。」
「誰だ」
職人の後ろから、申し訳なさそうな辺銀と、なんと皇帝が現れたのだ。
「すまねぇ、病院に入ってたもんでな、遅れた...」
「よう、宝治と弾のガキ、今日は英雄の一人、ネズミ族のジャンとして来たわけ。まぁ畏まるな、酒くれ、酒…ちぃと話もあってな」
皇帝は、町で猫手の若手2人が「ミミズ」に手をだしているところを皇帝軍が現行犯で捕まえたこと、そして供述を始めた矢先に留置所で殺されているのが発見されたと伝えた。
少しだけ引き出された供述から、やはり猫手会の虎、三毛がかかわっているとわかり、大本が鳳一家である、という判断になったそうだ。
「つーまり、やべぇってこった」
武市はさらに頭を抱えた。
「本当に猫手は解散したほうがいいんじゃねぇか...ここまで問題起こしちまってるんだ...」
皇帝は武市のグラスに酒を注ぎながら肩をくんだ。
「はっはっは...なんだ、逃げるのか?長としてなっさけねぇなぁ!解散して、てめぇんとこの職人はどうなる?あ?」
普段の皇帝からはおおよそ違う口調に武市は戸惑った。
「こいつぁな、もともとはこういうやつだ...皇帝になる教育の中で使い分けてんだ。」
「そういうこと...まぁ飲めや。で、おめぇはどうなんだよ、宝治のガキ」
車いすで皇帝に近づいた炎は、こともあろうにそのまま皇帝を轢いたのだ。
「皇帝だかなんだろうが知らんがな!今一番つらいんは武市さんやぞ!」
「いってぇな、クソガキ...宝治の若けぇ頃そっくりじゃねぇか、銀助!」
皇帝は立ち上がり、車いすごと炎を蹴り飛ばした。そのまま、何度も何度も蹴りつけ、銀や武市に抑えられた。
「わかるんだよ、馬鹿野郎どもが!お前らが弱えぇから建物どころか命まで持っていかれてんだろ!!揃いも揃ってなぁにが『二代目』だ!弱い弱い弱い弱い!まだ俺らが現役じゃねぇとダメか!そんなんだったら未来もくそもねぇんだよ!過去の栄光を取り戻そうとしてるやつにこんなに簡単に転がされちまってんだ!自覚しろ!」
騒ぎを聞きつけ、陸や宝治、弾も飛んできた。
「炎にぃ!どないした!」
「ジャン、てめぇまたなんかやりやがったか!」
あとから来た3人も交え、騒動は夜まで続いた。久しぶりの喧嘩、殴り合い蹴りあい、みんな息をあげ倒れこんだ。
「......なんだこれ」
ごもっともな言葉をいう、弾。その一言に、その場にいる全員が笑い始めた。
「はぁあ...ほんまどないなってんねん、これ。青春か!」
宝治が立ち上がり、炎を抱え起こした。皆、それぞれに体を休めていた。
一方町では、鳳一家の話で持ち切りになっていた。このままだと町はまた混沌とした状態に戻ってしまうのではないか。もうD-HANDS-FACTORYや猫手会は頼りにならない、など。人の口に戸は立てられぬ、というべきか、悪い噂、ネガティブな話題は次々に伝播していってしまう。
「銀おじさま...大丈夫かしら...」
そんな中、また買い物に出ていた猫と鳥のハーフのアイコが町の様子と銀のことを心配していた。
「おーい、そこのお嬢ちゃん?」
後ろから鳳一家のチンピラがアイコに近づいてきた。
「な、なんですか...きゃ!」
「鳥族ならよぉ、こーれ、捌いとけや、な!」
肩まで組んできたチンピラはアイコに青い薬...「ミミズ」が大量に入った紙袋を手渡した。
「へへ、頼むぜぇ...」
「あぁ、それを捌いて、おどれら何しようっていうんや?」
「そりゃあ...だ、誰だてめぇ!」
チンピラたちの後ろにはなんと、ここまで姿の見えなかった狼の姿があった。アイコから紙袋を取り上げ、近くの排水溝へすべて流したのだった。
「こんなもん俺らの町で流して、おどれらどうなるかわかっとんのか!こらぁ!」
狼がチンピラにすごむ、チンピラも迫力にたじろいでいたが、狼の頭にコツンと当たるものがあった。
「あ?...石?」
投げられたであろう方向を見ると、犬族の町人が息を荒げて立っていた。
「なんやお前...」
「出ていけ......お前らD-HANDSも!鳳一家も!出ていけ!!町に来るな!」
町人は道の石粒をまた投げた。ほかの町人も堰を切ったかのように、「出ていけ!」「お前らが騒ぎの元凶だ!」と次々に石を投げ始めた。
「あだっ!いだ!!やめぇっちゅうの、おい!おい!!」
この騒ぎに乗じてチンピラは逃げてしまった。
すると、ひとつの石がアイコの額にあたり、血が滲んでしまった。
「大丈夫か!…おまえら...えぇかげんにせぇよ!!!今までの平和は誰が守ってきたのかわかっとんのか!!おんぶにだっこだった野郎どもが何いうてけつかんねん、ボケ!ちょっと騒ぎが大きなったらこれか、おどれら!わかったわ、わかったわ。もうD-HANDSも猫手も町は守らん、えぇな、おどれらで守れ!でけへんなら、信じろ!犬族も猫族もほかのやつらも、すがってるもんが陰ったらそれか!あほくさいにもほどがあるぞ!お前らに血が流れんように守っとんのに、今見ろや!小さくても血が流れとるやないか...お前らの平和はそんなもんか!ボケが!」
ひとしきり怒鳴り散らすと狼はアイコを担ぎ、去っていった。
「あ、すいません、えぇと...」
「あぁ、俺ぁ狼や。銀の世話しとるっていう子やろ、話は聞いとる。さっきまでお前の親んとこにおってん...とりあえず、いったんわしのとこに行くからな」
狼はD-HANDSに向かった。するとどうだろう、D-HANDSの入り口に見張りがいない。門を開け、中を覗くと死屍累々の中、ガハハガハハと奥から笑い声が聞こえた。
「なんやこれは...今日は合同葬やないんか...まさか!」
狼は慌てて入った。しかし、そこにいたのは、D-HANDSと猫手の上層部が顔を腫らし寝そべり笑い、ただひたすらに淡々と辺銀は酒を飲む
そして、皇帝...ジャンが未だ向かってくる下っ端連中相手に暴れまわっている。
さすがの狼も状況が呑み込めなかった。最初に狼に気が付いたのは銀であった。
「よう、狼、遅かったじゃ......アイコ!おめぇどうした!」
「銀おじさま...大丈夫よ...」
「あぁ、さっき町でな...俺もこの子の親父さんとおふくろさんにおうて、筆直しとったんや。あんまり時間かかるから、俺も手伝ってたんや...俺も筆の強化はできたのはえぇけどな...町は俺らへの不信感は半端ないぞ...ほんまに...まさか町のやつらに石まで投げられるとは思わんかった...その子にもあたってもうてな...」
言葉を続けようとした狼の背中にドンと重みがかかった。ジャンであった。
「よぉぅ、おっひさぁ、ろーちゃん」
「ジャン!お前何してんねん!皇帝が!」
するりと背中から降り、狼の頭をポンとたたいた。
「アホ、今日は私人だ、俺は」
「ジャン、おめぇそろそろそのくせやめろ、ほれ見ろ、みんなビックリしてんじゃねぇか」
銀が顎で示すと、炎と陸、武市にほかの幹部も「あの狼の頭を...」と驚きの表情であった。
「はっはっは!大丈夫大丈夫、俺のほうが強いから、な!狼!」
「かなわんわ、いろんな意味でな、ジャンには...」
ジャンは笑いながら、死屍累々の状態をぐるりと確認した。大きなため息をついて、幹部がそろっている方向に向くと、いつもの皇帝としての顔に代わっていた。
「まぁ、皇帝として勅命出していいか...皆の者よく聞くがいい!これより、犬族・D-HANDS-FACTORY、猫族・猫手映絵師協同組合、双方手を取り、町の薬物汚染を一掃せよ。後日正式に勅命について文章を送る。確認するがよい。こちらでも調べはあらかたついている。製造元は鳳一家。薬物汚染について、根絶やしにし、また平和な町を築いてほしい。こんなもんか...これで大義名分、できただろ?」
ジャンはここまで言うと、帰るわ、と出て行ってしまった。
「なぁ、あいつもしかして...」
「まぁ、そういうことやろ?」
弾と宝治が銀に確認するも、さぁなと笑ってかわされてしまった。
後日、勅命がそれぞれに届き、鳳一家討伐へ進むことになった。
ーーーーー次回、映絵師の極印 第三話・後編 弐 ー若者ー
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