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映絵師の極印(えしのしるし)第二話 後編・弐 -血身-

前回のあらすじ

準決勝はやはり初代犬剣・宝治と映絵師にして印職人の狼(ろう)が率いるD-HANDS-FACTORYの勝利。決勝戦では、弾率いる猫手会との一騎打ちとなった。しかし、あまりの力の差に手負いの弾は三毛に代わって出場することを決めた。決勝に出場できず、消沈する三毛であったが、ひとつ何かを決心したのだった。

三毛は道具筒からサッと用紙と筆を取り出すと、虎と武市と三毛自身の簡単な似顔絵を描いた。

「僕は一人だった...あのまま一人だったら、生きていないかもしれない。だから、猫手会への"義"は忘れない」

「武市、君は最高の友達だ、初代猫友の子息なのに僕なんかと仲良くしてくれる…そんな"友"」

「そして虎先生、先生は僕に生き方を教えてくれた、まるで父親のように心を教えてくれた…だから大好きな先生から一文字だけ印をもらって"心"」

涙を流しながら、笑顔で虎と武市、そして自分の似顔絵に一つ一つ大切そうに文字を添えて描いた。

【義 友 心 三毛】

そう書き綴ると、文字が輝きだしたように見えた。

少し涙を浮かべた虎だったが、次第に優しさ溢れる笑顔に変わる。

「すごいや、三毛!もう、印の力もつかえるんだ!」
武市が少し悔しそうな顔をする。しかし、印を見つめ、笑顔になっていた。
そして、友へ抱き着いていた。
そして渾身の印を見た虎は少し目頭をおさえながら、そっと三毛と武市を抱きしめた。

「三毛、あなたの覚悟、そして努力は決して無駄にしません、私と師匠にすべて任せて安心していなさい。」
「はい!先生!」

「坊ちゃん、弾様は必ず私が守りますからね」
「うん!わかってるって!」

勇気を取り戻した3人は決勝の舞台に向かって行くのだった。

一時の休息に終わりが告げられると向かった会場には華々しく飾り付けが施されていた。
皇帝が鎮座し、それまで姿を見せていなかった付き人2人までもが脇に控える。

「はぁー、客席にいたらわからへんかったが...ほえー、ハデになったもんやなー」
ポカンと口を開けた狼

「アホ、間抜けな顔すんなや...そんだけ、あの皇帝が重要視してるってことやないか?」
宝治の言葉にきを引き締める狼
「そやったそやった、ビシッと決めてまた戻らんとな」
「そっちの話も後で聞かせてくれんか」
「わかってますー」

狼は当初この大会に出る予定ではなかった。

偶然にもある任務の途中に立ち返った所に、この映絵会の開催が重なっただけなのだ。狼の任務とはなんであろうか…


少し遅れて猫手会の2人が姿を現す。
と同時に武市が前に出てきて膝をついた。
「恐れながら申し上げます!」

「どうしましたか?申してみなさい」
皇帝の付き人の女性が武市を見ると優しく促した。

「親父、いえ!父は体を病んでいます、ですので、自分が体を支えて一緒に会場に入ることをお許しください!」

「ほー!あの小さいの、弾の息子か、なかなかえー根性しとるわ」
褒める宝治に
「ほんまですね!」
目を輝かせている狼
「お前はあのねーちゃんを見とるだけやな」
「あー、ほんまですね!」
「どついたろか!」

付き人の女性は武市にやさしく
「そのようなことを誰が咎めるのでありましょう、さぁ父上のもとにお急ぎなさい」

武市は一礼をすると弾のもとに走っていった。
二人三脚で入場する親子、そしてそのあとを少し離れて続く虎。

「親子ねぇ...あの目、ちゃんと親父やってんじゃん、弾...」

皇帝も感慨深く、目を細めながらつぶやいた。



決勝の席に着くと、3人は目を合わせて頷いた。
観客席に戻る武市

痛々しい弾の様子をみた宝治は思った。
(…弾、まだ体ァ戻らねぇんか、あまり無理はしてほしくないんやがな…)
少しボーッとした宝治に狼は
「師匠、始まりまっせ!」
「…ああ、わかっとる。精神統一中や...」

ほどなくして、もう一人の付き人が桐の箱を4つほど持ってくる。
先程の女性とよく似ているがこちらは男性のようだ。
その桐の箱が4人の目の前に置かれると、皇帝が立ち上がり言い放つ

「さあ、その箱をあけるが良い!」

開けた中には翡翠で出来た綺麗な絵筆が入っている。
「そなたらの印、とくと見せてもらうぞ」

どうやら皇帝は本気のようだ、そしてこれこそが狼が探し求めていた1つでもあった。
「…うおっ!翡翠やないか!しかもこんな仰山使うとる!」
「せやな、これはボロ儲けやないか」

「見事、勝利した暁にはその絵筆を授けよう、存分に戦うがよい!」

翡翠は、個がもつ印の力を倍増させる不思議な石として流通している。
しかし、先の抗争からその数が激減し、今ではなかなか手にいれられない貴重なものだ。

4人が握りしめた瞬間、その絵筆輝き始めた。

そして運命の決勝の「お題」が告げられた。

皇帝は勿論、どちらかを贔屓している訳ではない、ただ、このお題があまりにも残酷に、猫手会にはあまりにも不利だった。
これが勝負の綾…というものなのか、皇帝が立ち上がり高々しく宣言する。

「この決勝のお題は」


「えん」

皇帝の発表に会場がざわつく。
「先程の試合より少し時間を長くする、存分に描くがよい!制限時間はこの砂時計がすべて落ちるまでにしよう...では...はじめぇ!!」
といって、女性の付き人のほうがどこから持ち出したか、大きな砂時計を回した。
勢い良く落ちる砂に、4人は真剣に描き始める。

観客席の武市が不思議そうな顔をしている。
「三毛?準決勝って、10分て決められてたよね?」
「ん?そうだよ」
「砂時計って変わったかなぁ...10分より長いのかなぁ...」
「うーん、皇帝が言うんだからそうなんじゃない?」
武市の鋭い思考はやはり父の弾譲りなのだろうか。
この砂時計、実は10分より長い保証はない。
これも皇帝のはかりごとの一つである。
4人はその重圧とも戦うのである!

「おーい、たまちゃぁん、久しぶりやのぉ!」

決勝を前に狼が静寂を破って話始めた。

「弾ちゃん、おどれ、まだ生真面目にやっとったんかい!」

「ふっ、相変わらずだな。生真面目かどうか、そいつはわからんがよ」

「狼!あんま挑発すな! すまんな...弾」

「いや、いいんだ。ここに出そろったのが俺たちってのは、何かの運命なんだろうよ」

「じゃ、いっちょはじめまひょか!ジャ...じゃなかった、あの皇帝もわしら寄りになってくれてるみたいやし、なぁ~、わしは早う勝ってチャンネーしばかなあかんからな!」

聞いてる弾も宝治も心底あきれたように天を仰いだ。

「ふっ...まぁ、お前のおつむが足りないのは、いつも通りで安心したぜ。俺の信念は変わってねぇ。絵に身体も心も全身の血もこれまでに得た知識でさえも、全部ぶち込んで描いて、そして死ぬ!それが映絵師の本懐!」

「変わってへんなぁ...当たり前や、わしかて変わってへんて.
..そして絵を残し、技を遺していくことが!『映絵師の極印(えしのしるし)』じゃぁ!!」

今まで久しぶりの言葉を交わしていたとは思えない闘気と殺気がこもっていた。

映絵師としての信念、誇り、技、知識...これが今、ぶつかろうとしているのだ。
勿論皇帝は宝治の味方をした訳ではない。いろいろな解釈ができる言葉、それを対戦毎に振り分けていただけだった。

しかし、それが運命というのか。

この「えん」というお題は、やはりDハンズ側に有利に働くことになってしまうのだった。

ーーーー次回 第2話後編・参 -決心-

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