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映絵師の極印(えしのしるし)第2話 前編・弐 -開戦-

そんな折、猫友塾に一報が届いた。
「皇宮映絵会」の開催についてである。

先の抗争により、武力ではない、映絵による世の平定が重要と見た皇帝は、より一層発展と強化を目的にして、自らの目で映絵を見て、その優劣をくだし競わせる大会を発案したのである。

当然、猫友塾はその大会の話題でもちきりだ。そこである生徒が、
「いやぁ、うちは不利だよね、Dハンズの方は、犬剣が出てくるんでしょう?」
「虎先生も厳しいんじゃね?」
「かもなぁ~」

ばんっ!と机を叩く音がした。三毛だった。
「何言ってるんだ!僕たちの虎先生が負けるわけないじゃないか!」と、鼻息を荒く話す。
「相手が犬剣だって、不動心は負けない、負けるはずがない!」
続けざまに叫ぶと、「悪かったよ」とほかの生徒が数名で謝り、宥めた。

すると今度は武市が
「そうさ、本当は僕が頑張らなきゃいけないんだけど、まだまだ虎には勝てないからな」
武市も三毛と同じように興奮しきりだった。
と、そこに話題の「不動心」がやってきた。

「ほらほら、みなさん、忘れてますよ、不動心を、ふふふ」「虎先生!」
「犬剣相手でも負けないよね?」

虎は駆け寄る生徒の頭を撫でながら
「…勿論、私は勝つつもりですよ。それに今回のルールはこちらにも分があると踏んでいます、さ、席についてください」
「ルール?」首を傾げて、武市が尋ねた。
「そうです。今回ルールは簡単に一言だけ書かれていましたから…」

三毛が不思議そうに切り出した。
「虎先生が有利になるんですか?」

「…いえ、有利、というほどでもありませんが、付け入る隙はあるはずです」
普段にこやかな虎もこればかりは眉間に皺を寄せていた

武市が我慢出来ない様子で
「どんな?どんな?どんなこと書いてたの!?」

「今回書かれていたのは『即興』」

「...即興?」
少し分かりかねる表情の武市と三毛に虎は続ける。

「そうです、恐らくお題が出たのと出場者が同時に、指定されたものを描きあげて、印までしっかり刻む、この一連の流れで勝負します。印を刻むのは決勝戦だけでしょうが」

虎は一度生徒たちから目線を外した、しかし再度向き直して、生徒たちに言った。

「卓越した技術の蓄積では到底犬剣には勝てないでしょう。ですが、瞬発力や精神力に関しては、若い私でも十分に勝負ができると思っていますよ。」

「なんと言っても不動心だからな!」
「はい、ぼっちゃん」

「そうと分かったら練習しようよ!」
「そうだよ、練習!練習!」
ますます興奮する二人にほかの塾生も盛り上がりを見せる。
「ニャッハッハ、よろしいよろしい。みな気合いが入ってきましたね。ではこれから大会までの間はみなで即興映絵の練習をしていきますよ」
不安がる者、気合いが入る者、様々な声が聞こえる

「二人一組になって相手と勝負するのです」
「よっしゃー、三毛!やるぞ!」
「よし、負けないよ!」
目を輝かせながら準備をしている武市と三毛。その傍らで考える虎がいた。

以前、虎は弾から言われていたことがあった
「虎ぁ…おめぇさんは心の重心がしっかりしてて、びくともしねぇやな。ただ考えてみろ、そこを掻き乱す何かがあると簡単に転がっちまう...ころがしにきたやつらをむしろ踏みつぶす勢いじゃねぇとなあ...ま、もうちょっとがんばれや」
(つまりは私には柔軟性と緊急事態の冷静さが足りないということですよね...大会までにやるしかないですね...…不動心ではなく…動心…柔軟性か…)

虎は考え事をしながら、3、4…5枚の映絵紙を取り出した。
それを黒板に張り、筆を持ちながら盛り上がる生徒に告げた。
「みなさんが勝負してる間に私は5枚の映絵を描きます、さて、どうなりますかね」

「5枚も!やっぱ虎はすっげーな!」
「武市っ!...相手はこっちだよ?ふふっ、それとも、僕に負けるのが怖いのかい?」

三毛が珍しく武市を煽った。二人は親友...普段から仲がいいからこそ、三毛は武市の本気を味わいたかったのだ。

これに対し、武市は
「誰が負けるって?あぁん!?やってやろうじゃねぇか...三毛ぇ!」
案の定、怒髪天を衝く勢いで応戦しようとしていた。

各組がそろったところで、虎の号令が響いた。
「では、制限時間は10分です、お題は…『花と光』」
「げっ!風景かよ!」
「勝った!」
勢いづく三毛と焦る武市。

虎は武市の感情的なところ、三毛の二面性や慎重さを見極めていた。

虎も何か考えに至ったのか

「そうか...なるほど、この手はありですね...」とポツリとつぶやいた。

大会に向け、思惑を巡らせながらも、毎日、にぎやかに練習は行われていったのだった。

ーーーーー数日後

手に持つ筆も汗で濡れるような暑さの中、いよいよ大会が行われる。
様々な映絵師の職人が集まり、会場は更に熱気が立ち込めていた

町人の下馬評では、ほとんどの者が「猫手会」と「Dハンズ」の一騎討ちだと予想されている。
それを考慮して皇帝は、両者は決勝にまで進まないと対決しないように組み合わせをしたのだ。
そしてその通りに、両陣営ともに順調に勝ち進んで行ったのだった。

向かえた準決勝、設営と休憩のため出場者は控え室に集まっていた。
「いやぁ、蛙軍団には焦ったぜぇ…」
「鳳んとこもありゃ戦力不足だろうよ」
これまでの対戦の感想を述べる者や、準決勝に向けピリピリムードになっている陣営など様々に過ごしている

するとここでドアがノックされた。
気まぐれな皇帝がお付を伴い、突然控え室に現れたのである。さすがの虎も驚きを隠せなかった。

「こ...っ!皇帝...陛下...」

───次回、第二話 中編・壱 -皇帝-

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