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映絵師の極印(えしのしるし) 第2話 後編・参 -決心-

前回のあらすじ
戦いの中で三毛は皆への感謝を込めた『義友心』という印を手に入れ、師匠である虎と武市との絆を深めた。
決勝の舞台、昔から馴染みのある初代犬剣・宝治、初代猫友・弾、そして印師・狼
宝治と弾が『映絵師の極印』の口上を高らかに叫び、火蓋は切って落とされた
D-HANDSと猫手会どちらに勝利の女神は微笑むのだろうか

決勝戦が始まった。4名はそれぞれに思いを巡らせる。


(師匠はもちろん炎坊を描くやろ、ああ見えてデレデレやからなぁ、坊に。よし、俺も男や、直球勝負や縞虎!)


(…あの狼は直球勝負でくるだろ、それは俺が受けたるわ)

宝治
(くく、すこし照れるがまぁ、ええやろ、描きたいし)


(…これは、少し、いや、かなり捻る必要がありそうですね…)

4人の思惑が交錯する…

静まり返った会場は砂時計の砂の落ちる音まで聞こえてきそうだ。

そしてその砂がすべて落ちきる時がきた

「よし、それまでだ!」

緊張に包まれた会場が、風船のように一気に息を吐いた
それまで緊張の面持ちだった会場も少し和んだように感じられる。

立ち上がり、声高に話す皇帝

「さあ、そなたから印を入れてみよ!」

始めに指名されたのは狼

「三毛、アイツの印て何だろうね?」
「うーん、繊細な画だから、きっと難しいやつだよ!」

しかし、狼の印は、2人の思考を覆すものだった。

描かれた映絵は昔に開催された現皇帝の就任式の「宴」
本当に素晴らしい色彩に会場がどよめく。

「俺ぁ小細工なんてでけへん、見た目で勝負や」
その映絵に豪快に刻まれる
「金 剛 力 狼」

するとどうだろう、遥か昔に行われた宴がまるで目の前で再現されているように、力強く動いているように見える!

「おお、これはあの時の、まさしく、くうっ、素晴らしい!」

皇帝は周囲の目を気にせずはしゃぎ、目を輝かせて喜んでいる
「うむ、あっぱれじゃ!………懐かしいな……」
「せやろ、おっと…喜んでもらっておおきに」

「…よし、早々に素晴らしい作品が出て、期待は膨らむばかりだが、次はお主、体は大事ないか?」

「ああ、大丈夫だ、いくぜ」
指名された弾は、しっかりと立ち上がると翡翠の絵筆を構えた。
広げられた映絵に会場一同が引き込まれた

広げられた映絵には、若かりし皇帝の婚儀の礼が描かれていた。

(俺らは独りじゃぁ生きられねぇ、それは家族がいなくたって同じだ、だから大事にするんだ、友をな)
豪快に且つスマートに刻まれた印
「猫友 弾」

印が刻まれるとまるで当時の皇帝の様々な想いが不思議と写し出されるように感じられる。

すっかり静まった皇帝。
そのはず、皇后はすでに他界していて、今弾の映絵を見て、その思いにふけっているのだ。

「……誠に、誠に良い腕じゃ、礼を言うぞ」
皇帝がどんな想いになったのかはわからない、が、会場はみな皇帝と生前の皇后の仲の良さを知っていた。

その「縁」を描いた弾。
「たまには思い出していいんだぜ」
「うむ、そなたも信に素晴らしい、甲乙つけがたい」

会場もみな皇帝と皇后に対しての想いに馳せていた。

「少し、しんみりしてしまったな、すまない。だがまだ勝負は決まってないぞ」
皇帝はまた気を取り直して再開した。

「次はそなたじゃ!」

指名された虎が真っ直ぐに前を見つめ映絵を広げる

広げられた映絵には、艶めいた皇后の美しい姿が描かれていた。

しかしこれは、猫手側には痛い、決勝という舞台で内容が被った形になってしまった。

(どんな苦境にたたされても私はあきらめません、この心がある限り!)
堂々と、そして心乱さず印を刻む
「不動心 虎」

静かな印が映絵を包むと、皇后の妖艶な魅力が溢れだした!

「うむ、素晴らしい、生前の皇后の艶な様子が見事に描かれている」
「しかしお主は、まだ若い。皇后の姿を見たことはないであろう?」

「はい、そのころはまだ少年でした。ですので僭越ながら噂に聞くお話しと、心の中の肖像画だけで描きました」

「ほほう!なんという才能の持ち主だ!まさしく生き写しとはこのことだ」

「よし、では最後はお主だな、みせてくれ」

虎が映絵を下げると皇帝は今一歩身を乗り出した。

もったいぶらず、一気に映絵を広げる宝治、
広げられた瞬間に会場が今日一番どよめく

そこに描かれているのは全てを焼き付くすかのような炎、そして…

(猫よ、確かに友情は必要や、だが、ワシはこの剣で皆を守ってみせる、まぁ攻撃こそ最大の防御ていうんは知っとくべきや)

翡翠の絵筆が唸るようにその印を刻む
「久々やなこれも…」

「犬 剣 宝治」

そう刻まれた瞬間、炎に包まれていた映絵がゆらゆらと瞬く。
炎のように見えていたのはそう、息子の炎(えん)だ。

可愛らしい笑顔を覗かせている。
躍動する炎のような毛並みが見事に再現されていて、それがまるで本物の炎のようにみえたのだ。

にこやかな宝治の様子を見て皇帝もすぐに気づく。
「これは、そなたの息子か」
「そうです」

「羨ましいのう、私は子をもっておらん、世継ぎもこれから考えないといかないわけだが、ふふふ、お主らの所は安泰なようだな!」

「はい、お言葉光栄にございます」

「うむ、4人ともいずれも素晴らしい映絵であったぞ!」
4人の映絵が披露されると、改めて猫手側、Dハンズ側とに分けられ並べられた。

「どうだろう、皆のもの、ここは私だけの判断ではなく、良いと思うたほうに皆で1票いれるというのは?」

皇帝の提案に会場の観客は大盛り上がりになる。

皇帝の付き人と従者が素早く準備を整え票の代わりとなる楓の葉を配って回る。

「うむ、何人になる」
「はい、272人分ですね」
「そうか、では私とお主らを足して275にするかのう」

会場の272票と皇帝と付き人の計275票

「では、皆が良いと思うた映絵に貼っていくのだ」

楽しそうに映絵を吟味して貼っていく観客とは裏腹に、真剣な面持ちの猫手会とDハンズ。

武市は弾に、三毛はもちろん虎に1票いれた。

そして、運命の結果が、ついに出される

  

  犬剣 宝治
       89票
  猫友 弾
       76票
  金剛力 狼
       62票
  不動心 虎
       48票


「これで、この長かった大会に終止符が打たれた…皆のもの!勝利したDハンズだけではなく、まことに素晴らしい闘いを見せてくれた猫手会にも盛大な拍手を送るのだ!」

会場は割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。

「そしてここに高らかに宣言する、Dハンズファクトリーには宮廷御用達の映絵を描く権利を与える!」

「おおっすげぇ、一生食ってけるぞ!」
喜び溢れるDハンズファクトリー

「そして猫手会!そなたらは映絵塾を営んでいるのだったな、これからも精進できるように、宮廷からの予算と人員を出すことを約束する」

「ははっ、信に有り難きしあわせでございます!」
ひれ伏す弾

しかし、虎は打ちひしがれた、いや、その中に「ある感情」が芽生え始めていた。

思い起こせば、この時から敬愛している虎の様子がおかしかったことに、三毛だけは気づいていた。

虎が悪い訳ではない
---いいや、私のせいだ
運が悪いのだ
ーーー運も実力のうちだろう?
ただただ、それだけ
ーーーそれだけ、だと?
猫手には運がなかったのだ。
ーーーいいや、そうでは無い
あれほど素晴らしかった不動心が壊れてしまうほどに。
ーーーいいや、私は壊れちゃいない...どんな手を使ってでも

私は弾様を─────


第2話 完

ーーーー次回、映絵師の極印 第3話 -慟哭-

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