映絵師の極印~えしのしるし~ 第四話 後編・参 -修了-
前回のあらすじ
皇帝ジャンの過去を夢にみた陸。
それはジャンとその従者である零と翡翠が見せたものだった。
地下牢生活から、いよいよ本格的な修行が始まる。
「おはようございます」
零と翡翠に迎えられ、応接室に通された陸。ジャンは修行前にすべての仕事を終えるといい、執務室に入った。
「陸様、ゆっくり休めましたか。」
「えぇ、ありがとうございます。まさか、あの地下牢も修行のうちだったとは…」
地下牢での殺気立った自分を顧みて、自分の中にある違和感に気がつけた。
恐怖
怒り
今まで自分で『コントロールする必要のない感情』が根源と知れた。
炎の短気さも、何かを守るために、なのかはわからないが、炎が怒りを顕にするのはそういうときだ。
「でもぉ、陸様、さすがに怒っちゃいましたよね…あまりにリアルに演技しちゃったから…」
「まぁもともとジャン様の煽りぐせもあったからしょうがないだろう…!!!」
「なぁんだとぉ?れ〜い〜?」
零の後ろには邪悪な笑みを浮かべて、ジャンがいたのだった。零はガッと頭を掴まれ、振り回された
「すいませんすいません!」
「タイミング悪いですねぇ」
「兄はほんっと、ね、ふふっ」
ジャンは応接室の椅子に座り、天を仰いだ。
「俺ぁよ、自分の力に自信がないやつが大嫌いなんだよ。夢でみたろ、俺のこと。昔は俺もそうだったからよ、『なんでちゃんと発揮しないんだ!!』って思っちまうわけよ」
確かに、夢の中のジャンは『虚勢』が見え隠れしていた。
「だからよ、もう今日の修行で、自信を持ってもらおうか、入ってくれ!」
合図すると、翡翠がドアを開けた。
「よう、無事みてぇだな」
ドアの外には銀がいた。
「え!なんで銀じぃおるの!」
「最後の修行は、自分の力を制御すること。ジャンはこれからやることがあるから、途中までは代わりに俺が見る。最後、ジャンの体があいたら、試験として手合わせをしてもらう。」
「すまない。俺は俺でお前の力を引き出せたつもりだ。心配ない。それじゃあ…」
「はい…」
ジャンは応接室をあとにした。懐から電話を出し、どこかにかけた。
「…………もしもし、あぁ俺だ……問題ない、このまま行こう。心配なのは、アレだけだ……何?わかった……今から行く」
銀と陸は武道場で座禅を組んでいた。
「よし、陸坊、そろそろ始めるか」
「うん……」
張り詰めた空気になり、陸と銀はお互いに構えた。
「さぁ、来い」
「いくよ……!」
陸は構えると、あの地下牢に閉じ込められた日々を思い出した。すると、これまでと違い、体の底からなにかに押し上げられるように、力が湧いてきた。
「はぁぁぁ!!」力を込める陸
「!! この力……相当やべぇな……憤っ!」銀もここ最近では珍しいくらいに警戒した。
力を貯める陸は一心不乱に力に語りかけた。
もう俺は恐れない、すべて俺の力。自分自身、受け入れる。と
すると、陸の周りに出ていた、緑と黒のオーラが徐々に収束していき、手には金属精錬用のハンマー、それとつややかな緑色の鎧を身にまとっていた。
「……できた。イメージ通り……いくよ、銀じぃ!」
「こいつぁ……驚いた……」あまりの出来事に固まる銀、そしてもう一度陸を見やると、そこには誰もいない。
「下だよ」陸の声がして、思わず身を反らす。すると、目の前をハンマーが通過していった。
「くぅ!!」(あぶねぇ……身を反らしてなかったら、一発アウトだ……)
「せい!!」二撃目が銀を襲う。必死に逃げに徹した銀だったが、自分が今まで立っていた場所を見ると、そこ一面、文字通り『何もなかった』。
「な!!」
「ふぅ……さぁ、俺とまともに立ち合ってくれへんかなぁ、銀じぃ?」
ニタリと笑う陸。そこに今までの面影は感じられなかった。銀は背中をつたう嫌な汗を感じる。
「お前さん……闇に飲まれたか!!」
「いいや、俺はいたって正常やで。この俺の『暗闇錬成師(ブラック・ホール・スミス)』で、鳳一家を根絶やしにしたいだけやで……ククク…クハハハハ!!!!」
「皇帝、こちらです。」
「あぁ……くそっ、イカタコとは違うと思ったけど……熊でもダメか……」
鳳一家と交戦したであろう、熊族の権次(ごんじ)がいた。
それも、自分の鉄筋で作った武器が深々と胸を貫いた姿で……
「我々が応援に駆けつけたときには、すでに……親方……」
「……熊のこの殺られ方……相当遊ばれたな……くそっ、こうなっちまったら、もう時間がねぇな……そんなにこっちも余力はねぇ」
運ばれる権次の遺体から、カランと何かが落ちた。
「なんだこれ……あぁ、そうか、こいつか……」
緑色に光る鱗状の刃、これは鳳一家の木慈(きじ)のものだった。
「なんで幹部が街にまで来ているのでしょうか、皇帝」
「ん〜......まだ何かあるんだろうか...必要なものが揃ってないのか」
鳳一家は町の中にすでに数十もの拠点を構えていた。それを少しずつつぶしていたが、まるでいたちごっこ。
「くそ、いたちに食われる奴らといたちごっこなんて、質の悪い冗談だ......」
ぶつぶつと考え事をしているジャンに、一報が入った。
「俺だ......もうだめだ……おめぇさん、やりすぎたみてぇだぜ......」
「なんだと?まさかとは思うが……今から行く。」
疲れ切った銀の声が、如何に陸が強くなったかを教えてくれた。しかしそれと同時に今までの陸とは格段に違うという、確信はあるが、ジャンは胸騒ぎを覚えた。
宮殿に戻ったジャンは急ぎ、武道場へ向かった。しかし、そこには武道場と呼べるようば代物はなかった。
「あ?どういうことだ......?」
「よう、遅かったじゃねぇか、ジャン......」
かろうじて残っていた床、柱には『きれいな真円でえぐり取られたような跡』が残っていた。
「まずい、止めるぞ」
「あぁ……この力、まるで……」
D-HANDSには触れてはいけないことがあった。
炎、陸の母 『照夜(テリヤ)』
彼女は炎と陸を産み、物心が付く前に”死んだ”ことになっている。しかしその実、行方不明……照夜の属性は闇、その血を色濃く継いだのが陸であった。しかし、彼女は覚醒した闇に飲まれ、消えてしまったのだった。
「あいつのことは言うな……二の舞にはしない!」
「だな、もうあんなことはごめんだ」
(なんだ、どないしたんやろ……体が動かへん)
気がついた陸はまたも真っ暗闇の中にいた。違うといえば、地下牢のようにゴツゴツした床ではなく、自分自身が浮いているような感覚だった。
うっすらと目を開けると、目の前にはモニターのようなものがあった。
(え、なんやこれ……え?これ、俺?)
画面には、高笑いを浮かべながらハンマーを振るい、零や翡翠、銀と対峙していた。
(そんな!くっそ、動け、いや、動いてるけど、これは…)
「そうだ、この空間は私の空間。貴方様は動けますまい。」
透き通るような女性の声が聞こえた。
(あなたは……)
「私ですか?私はぁ〜……貴方様の中に眠っていた闇の住人です。貴方様が闇の力を開放してくださったおかげで目覚めることができました。」
女性は不気味な笑みを浮かべ、深々と陸に頭を下げた。その瞬間、モニターから怒鳴り声が聞こえた。
「おい!陸坊、目ぇ覚ませ!」
「闇に飲まれるほど、てめぇは弱いのか?あぁ?いいから戻って来い!」
ふふふ、と女はまたも不気味に笑った。
「本当に変わらないわね、あの子達も……」
(え?あの子達って……)
「さぁ、いつまでもここにいては、あの子達に怒られてしまうわ……貴方様、これを」
女は陸に瓶に入った丸薬を手渡した。
「これは力に飲み込まれそうになったときに飲んで……私のようにならないでね……」
(どういう……こ……と)
丸薬を受け取ると、陸はモニターの中に吸い込まれていった。
「陸坊!おい!しっかりしろ!」
「たっくよぉ……お前は宮殿潰す気かっての」
再び陸は目を覚ました、するとそこは先程までいた武道場ではなく、宮殿の大広間だった。
「え……俺は何を……」
ジャンと銀は大きなため息をついた。安堵、とも言えるものだった。
「陸坊、お前は闇の力に飲み込まれて、宮殿中破壊して回ってたんだ」
「そんな……」
「そんなもクソもあるか!みろ、この大広間!」
大広間はすでにボロボロであった。そこで陸は手に握られているものを見た。先程女からもらった丸薬がそこにあった。
「夢じゃなかった……」
「ん?なんだそりゃ」
銀は丸薬を見て、ハッとした。
「これは……そうか、陸坊、一応助けられたみたいだな……よかった」
近くにあった椅子にジャンがどかりと腰をかけた。そこに零と翡翠が、宮殿内の被害状況を伝えに来た。しかしジャンは「いらない」とばかりに手を払い、再び大きなため息をついた。
「銀よ……こいつ闇に飲まれなかったら、どうだ?」
「どうだってのは、陸坊の試験か?……あぁ、こんなアクシデントさえなければ、充分な戦力になるだろう。それに、もう当分の間は闇の力は弱くなるはずだ。覚醒前の暴走だろう。問題ない。」
ジャンは陸を見つめ、値踏みするように周囲を一周した。
「そうか……はぁ……はぁ……もういい、上出来だ……宮殿の修復は気にするな、こっちでやる。ともかく、疲れた、もういい銀、お前がそういうなら、合格!」
よし、と銀は珍しく声を上げた。そして、陸は無事戦力として鳳一家との戦いに加わることとなった。
「とりあえず、明日……宮殿は使えねぇから、銀、お前のとこ使えるだろ?」
「ん、あぁ、わかった。」
「じゃぁ明日、銀の店の裏口から入れ。そこで作戦会議!以上!零、翡翠、治療してやれ……俺は……あぁあ財務行ってくる」
宮殿の損傷のせいか、修行終了で鳳一家に勝ち目がでた安心からなのか、ふらふらと大広間を後にした。
「あぁあ、こりゃ財務に相当絞られるやつだな」
「銀じぃ、ごめん……」
銀はぽんと陸の頭をなで、陸を立ち上がらせた。
「仕方ねぇだろ、不可抗力だ。心配はねぇだろ……それよりも、その薬、ちゃんと使えよ?」
陸に丸薬を手渡して、銀も大広間を去っていった。
「これはなんなんやろう……でも、これで俺も戦えるんや…」
陸は、ぐっと手を握り、大きな戦いに向け、気を引き締めるのだった。
翌日、銀の店に武市、炎、陸が揃った。
「よう、陸ぅ!お前……なんや絶対強くなったやろ!」
「確かに。陸…炎も修行は順調だったみたいだな」
「武市さんもなんや吹っ切れたような感じやし、体傷だらけやし…狼にぃ、どんな修行つけたんや、大丈夫でしたか?」
「心配には及ばん。それよりここからが本当の戦いだろう?」
武市は、すっと拳を前にだした。
「へへっ、ホンマやで。これで俺らは仇討ちができるっていうもんや……」
炎も呼応するように、拳をだした。
「うん……芝さん、襲われたみんな、明日を生きられなかったみんなのために……」
3人は拳を合わせ、お互いに修行で強くなった姿に安心し、鳳一家との戦いに討ち出ることになった。
ーーーーー封印の地
「木慈、何かわかったのかネ?」
「えぇ、親方。鍵が見つかりました。」
「ふふぉっほっほっほっほ!!!これでこの街、いや国、いや世界は俺たちのもんだぁぁ!!」
ーーーーー次回、第五話 前編・壱 −集結−
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