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映絵師の極印(えしのしるし) 第三話 前編・肆 -協議-

前回のあらすじ

炎の言葉にショックを受け、帰宅した陸。
失意を感じていたが、屋敷に来ていた銀から酒を振る舞われ、言葉をかけられことで落ち込んでいた気持ちが回復したのだった。
そして次の日、宝治と共に猫手会に赴くことを決心した。

宝治と陸は、周辺のどの家を見ても大きい屋敷前に到着していた。

「あいつ、まぁた増築しよって・・・」
「・・・・・・猫手会、こんな建物やったっけ・・・」

要塞のように強固になっている屋敷には紛れもなく「猫手会映絵師共同組合連合」の看板が掲げられていた。

「あぁ、この看板まだ使っとんのか・・・」

「おい、てめぇら!!猫手会になんの用だ!」
「ことと次第によっちゃぁぶっ殺すぞ!」
周辺を巡回している猫手会のパトロール隊であろう2人組に脅しかけられた宝治と陸。

「なんや、お前らわしらんこと知らんのかいな」
宝治が凄むが、2人組は吹き出した

「おめぇみてぇな時代遅れなじじいも、ひょろいガキンチョも知らねぇなぁ」
「てめぇら皇帝の犬の来るところじゃ・・・」

2人組の完全な因縁付けの最中、目の前の門が開いた。中からは、幹部・虎が現れた。

「おやおや、いらっしゃったんですねぇ。」
「なんや、弾の子分かいな。えらい老けたのぅ。」

幹部である虎と対等にやり取りをしているのを見て、2人組は目を丸くしていた。
「虎様、そいつら一体・・・」
「そいつらぁ?あなた方、本当に無知で無教養な輩ですねぇ・・・こちらはD-HANSD-FACTORYの初代犬剣・宝治様と、そのご子息の陸様ですよ?」

2人組はそれを聞くと、腰を抜かしてしまった。

「何か粗相がございましたかな?」
「いやぁ、なんもあれへん。ピーチクパーチクうるさいのうと思ってたくらいや・・・ま、わしゃ時代遅れのじじい、やからな」
腰を抜かして、慌てふためいている様の2人組を一瞥し、虎の先導で館へ入っていった。

「あ、そうだ・・・三毛や・・・あら、三毛やぁ?」
虎が声をかけると、木の上からすっと降りてきた。
「お呼びですかぁ、虎さまぁ?」
なんとも間延びした声の幼い猫族が現れた。

「三毛君、先ほどのやり取り見ておりましたね?あの隊員に注意をしてきなさい。」
「はぁい、わぁかりましたぁ~」
三毛、と呼ばれた猫族はまた再びすっと消えた。

「ささ、宝治様、陸様。こちらへ」
邸内に案内されると、猫手会の職人が宝治と陸の通ろうとする通路の壁にひしめき合っていた。

もちろん、歓迎されているムードではない。

「誹謗中傷」「殺人犯」「犯罪者集団」とレッテルを貼られる原因となった者が来ているのだから。

「では、こちらです。弾様、入りますよ。」

障子を開けると、奥の席には、猫手会の長・初代猫友である弾、すぐ横には二代目猫友である武市。幹部の鉤尾、虎も同席した。

「虎様ぁ、お待たせしましたぁ。さ、皆さん冷たいお茶でもどうぞぉ」
と、先ほど見た三毛が現れた。

「にゃふふ、一応私の側近であるので、同席をお許しください。」
「それはかめへん・・・あー、まず、猫手会の皆様におかれましては・・・何をしとんねん」

宝治の眼前には、先ほどまで奥にいた武市が刀を突き付けていた。

「能書きはいいんだ・・・てめぇ、うちら舐めてんだろ、やっぱり」

「なんのこっちゃわかれへんなぁ・・・弾ぁ、お前さんのしつけはどないなっとんじゃ」
「やめとけ、武市・・・座れ」

武市は舌打ちしながら刀をしまい、また弾の隣に座る。

「気ぃ取り直しまして…えー、今日出向いたんはほかでもない。うちの酒飲みバカ息子の騒動でえらい迷惑をかけた。そのお詫びに来た次第や。この通り、申し訳ない。で、いろいろうちでも調べてみたんやが…どうも、うちのせがれ、薬を飲まされたみたいなんや」

ここまでいうと弾は

「まず、謝意は受け取ろう。俺とお前の仲だ。ただ今の話は聞き捨てならねぇなぁ。クスリだぁ?知らねぇよ、うちはそんなもん扱うわけねぇだろ。そんなもん、やくざもん……!...ゲホッ!ゲホッ!」

何かに気が付いた弾だったが、体が弱っているせいかせき込んでしまった。

「親父!ほれ、薬や...」武市が薬袋から薄い水色の粉薬を渡した。

「すまんな......はぁ...すまん。で、そのクスリってのは...」

宝治は足を崩すと、大きなため息をついた。
「せやな、やくざもんの物や...つまりは、心当たりあるやろ」
「あぁ・・・奴らか・・・」

幹部連中もここまで言えばお察しなのか、みな一様に暗い表情を浮かべた。

呟焼町のやくざ者、いや元やくざ者といえば、鳳一家という集団がいた。

もともとは鳳 鴉(からす)とお鶴(おつる)が町の商業を取り締まる役目を担っていた。
大柄な2人から、小柄な鶯が産まれ一変した。
鶯が産まれるまで忠実に鴉の命令を聞き、平和な町を築こうとしていた部下が、粗暴になり、暴力にものを言わせたただのやくざ者になってしまった。
そこには鶯の影があったが……………

「やはり、鴉さんが死んで、跡目が鶯ってのが良くなかったんだろうな」
「えぇ…彼もいろいろ思う所があったのだと思いますがねぇ……」

「でもよ、鳥族もこの街にはいっぱいいる。今更仲良くやってる所を鳳一家が?もう山奥に島流しされてんじゃねぇか」
10年前の『最悪の災厄』後、鳳一家は真風山の麓へ移住して行ったのだ。
町の住民も何故移住したのか聞かされないまま、謎を残していたのだった

「まぁ確かに鶯の野郎がブイブイ言わせてた時代しか知らんしなぁ……」
「ひとまず、鳳一家について、うちらでも調べてみる…ぐっ」
弾が頭を押さえて蹲ってしまった。すぐに武市が水を持ってきて、息を整えた。
「すまねぇな…はぁ…もうあんまり俺も時間がなぁ…一応この話は俺の代で止めてぇ…こいつにゃ平和な時代を…」

「お邪魔するのネ」
障子が開くと、そこには今話に出ていた鳳一家の家長・鶯が現れたのだ。

「おや?いやいや、何があったら知らないけどネ。殺気立っておりますネぇ…」
不敵な笑みを浮かべながら、どかりと胡座をかいた。
「何しにきたんや、鳳の…」
「あらら?何やら体調がすぐれない様子ですネ」

慇懃無礼な態度に宝治も苛立ちを隠せていなかった。

「おやおや、怖い怖い...いえネ、今日は些か厄介な問題がありましてネ…例の場所について」

先程の話から空気が一変した。
明らかに宝治と弾の顔色が変わったのだ、先程よりも更に殺気立ったように感じるほどに。
「鳳の……何があった」
「封印が弱まっておりまして、お力を貸して頂きたいのです。」

武市も陸も何の話なのか分からずたまらず
「「親父、例の場所って?」」
被ってしまった、思わず陸と武市は顔を顰めて見合ってしまった。

「おやぁ?例の場所…お話してないんですネ?」
「あれは俺らの代の問題だからな」
宝治も弾も考えこんでしまった
「ならばこうしましょう、どうも弾さんも調子が悪そうですからネ。体調が良くなるまで待って、関わりのある方で見に行きませんか」
そうだな、と宝治も弾も答える他なかった。

「それやったら俺も!」
「いや、お前らはひとまずさっきの話を調べといてくれ」

「流石に親父もこんな調子だから、俺がついていかねぇと」
「いや、こうなったらあいつらも招集してんだろ、何とかなるだろ、大丈夫だ...今日はもういいだろ、ちぃと具合がわりぃや...」

「えらいすまんな...じゃあまた後日。」

「ならば私から辺銀には連絡を入れておきます。」
虎は猫手会が始まる前からの付き合いということもあるから、なんの事か察しは着いているのだろう
陸も武市も、なぜ銀の名前がでてくるのか分からないままだったが、話は落ち着いた。

すると、陸は嗅いだことのない薬品のにおいに気が付いた。どうも鶯のほうから匂うようだった。しかし、弾が飲んだ薬かもしれないと思い、何も言わなかった。

帰路についた時、陸はもう一度問うた
「例の場所って何やよ、教えてくれや」
宝治は答えないままだった。しかし、しつこく聞く陸に宝治は
「せやから、お前らは何も知らんでええんや!お前らは未来を見とけ、過去の遺物は俺らがなんとかするから、大丈夫や」
「ほんまかぁ?なんかスッキリせぇへんわ」
「わしらもまだやれるってとこを見せたるわい」
ははは、と二人は笑いあった。

三日後、宝治、弾、辺銀は行方不明となった。

─────次回、第三話中編・壱 -山道-

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