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【中小企業の経営者のみなさま必読!】次のトレンドは環境と人権💡〜おさえておきたい”Just transition”、注目されるワケ〜

こんにちは!
オンラインでも圧が強く、リアルで初めて会う方から「意外に身長高くないんですね!」と言われる傾向にあるER.の鈴木です。(笑)

みなさん、「Just transition(ジャストトランジション)」という言葉を、ご存知でしょうか?

すでに"脱炭素"や"カーボンニュートラル"といった言葉は「聞いたことある」「取り組み始めてるよ」という方も多くいらっしゃるかもしれませんが、そうした気候変動対応がどんどん進められている裏側で、大量に失業リスクを抱えた人たちが存在しており、今後も増えていくことが予測されています。そんななかで環境だけでなく”人権”に対する企業対応も重要度を増していく時代において、環境と人権と、どちらも含まれる”Just transition”という概念に注目が集まってきています。

では、改めてJust transition とはどのような概念なのか?なぜ注目されているのか?民間企業ですでに取り組んでいる事例はあるのか?など、その背景から紐解いていきたいと思います!


1.Just transitionってなんだろう?

日本語で「公正な移行」と訳される「Just transition(ジャストトランジョン)」ですが、その起源は1980年代の米国まで遡ります。当時、経済発展と共に水質や大気汚染問題も活発化したことで、それらを取り締まるための新しい規制が作られるようになりましたが、そうした規制強化により労働者側への影響も懸念されるようになりました。そこで労働者を保護するために労働組合側の保護運動としてJust transitionが掲げられるようになった、というのがその始まりと言われています。(*1)

近年、急激に加速する気候変動への対応やパリ協定が定める1.5度目標と整合する脱炭素社会の実現に向けて、国や民間企業で様々な取組が進められていますが、一方、私たちの生活はすでにその多くを化石燃料に支えられていることも事実であり、急激なエネルギー転換を進めると、例えば炭鉱で働く人、石炭火力発電所で働く人など、多くの失業者が発生すると予測されています。

さて、ここで、ILOによるJust transitionの定義を見ていきましょう。

A Just Transition means greening the economy in a way that is as fair and inclusive as possible to everyone concerned, creating decent work opportunities and leaving no one behind.

ーInternational Labor Organization (ILO)

ILOの定義を訳すと「「公正な移行」とは、関係するすべての人々にとって公平で包括的な形で経済を環境に配慮したものに変革し、誰も取り残さず、良好な雇用機会を創出すること」となります。
要は一見環境によさそうに見える取組であっても、その裏側で雇用喪失や地域コミュニティの喪失などの社会的なダメージが発生する可能性があること、そうした社会的な負の影響にきちんと目を向け、できるだけ負の影響を最小限に抑え、雇用創出や雇用移行などポジティブな影響を最大化することで、すべての社会、すべてのコミュニティ、すべての労働者、すべての社会集団が誰一人取り残されない、公正な形で社会を移行を目指していくための概念として、Just transitionが掲げられるようになりました。(*2)

2009年開催の気候変動枠組締約国会議(COP15)で国際労働組合総連合から提唱されたことを皮切りに、2015年のCOP21で採択されたパリ協定の前文では「国家が定めた開発優先順位に沿った労働力の公正な移行と、人間らしい労働と質の高い雇用の創出という責務を考慮すること」が重要であると述べられ、 以降、Just transitionの認知が少しずつ広がるようになりました(*3)。

sustainable より画像引用

2.環境分野で先行くEUでの公正な移行、実質的な取り組み事例

では、実際にどのような人たちがどのくらい影響を受けると予想されているのでしょうか?環境分野では言わずと知れたEUを例に、具体的な影響予測やそれに対する取り組みを見ていきましょう〜!

失業者は約24万人以上?!炭鉱・石炭火力発電雇用者を中心に抱える失業リスク

環境分野で様々な先駆的・野心的な取組を進めてきたEUですが、気候変動に関しては「2050年までに世界初の気候中立な大陸になる」という大きな目標を掲げ、それに向けての「欧州グリーンディール(※環境保全・再エネなどの産業分野に大規模な投資を行い、新たな雇用を創出、経済活性化を目指す政策)」も発表!2030年までの温室効果ガス排出目標も40%から55%まで引き上げられ、また欧州グリーンディールの柱ともいうべき欧州気候法では、2050年のカーボンニュートラルを義務化するなど、かなり力強い気候変動政策を推進しています。
そんな欧州だからこそ気になるのが、負の影響が誰にどのくらい及ぼしうるのか?というJust transition的観点。そこでいくつかレポートを見ていきたいと思います。

G7諸国の石炭火力政策について評価をしてきたイギリスのシンクタンクE3Gは、世界の国々の石炭火力発電所をめぐる現状について、2020年7月に新たな資料「Global status of coal power review」を公表。レポートでは、OECD諸国とEU28か国(イギリスを含む)をあわせた先進国全体のうち、71%が既に石炭火力のフェーズアウトが推進されており、このうち58%は、2030年には石炭火力フェーズアウトを達成するだろう、と紹介しています。一方、図表中の「Coal % in electricity generation & 5 year trend」で示されている通り、ポーランドでは74%オーストリアでは57%など、直近5年は発電燃料の多くを石炭に依存すると評価されています。

イギリスのシンクタンクE3Gからの「Global status of coal power review」

さらにもう1つのレポートを見てみましょう。
2018年に公開されたEU石炭地域報告書によると、EU域内には炭鉱が12加盟国・41地域に128か所、石炭火力発電所は21加盟国・103地域に207か所あるなかで、炭鉱関連の雇用者数約18.5万人のうち10.9万人が高失業リスク、5.3万人が中リスク、2.6万人が低リスクを、また石炭火力発電所関連の雇用者数約5.3万人のうち、2025年までに1.5 万人が職を失う可能性があると試算されています。

EU石炭地域報告書を参考にER.作成

この2つのレポートから分かる通り、EU域内においては国によって化石燃料産業の依存度は異なること、その一方で、炭鉱や石炭火力発電所など潜在的に失業リスクが高い業界や業種、その人数も一定明らかになってきており、それぞれの国や地域において、関連産業の依存度に応じた移行を考えていくことが必要とされそうです

7年で総額175億ユーロ!2020年から始まった「公正な移行基金」

・・そんな背景をもとにEUが2020年から始めたのが「公正な移行基金」という枠組み!
この基金は、カーボンニュートラルを達成する移行過程で深刻な社会・経済的課題に直面する人々や経済を支援するための枠組みとして設置され、2021~27年の7年で総額175億ユーロ(1ユーロ150円計算だと大体2兆円くらい)の予算が確保されています。
この基金は大別すると、①インフラ整備や技術開発のための投資(中小企業への投資、雇用創出のための新企業設立投資、再エネやスマートモビリティ等への技術開発投資、地域暖房網の改修、循環型経済への投資など)、②労働者への支出(労働者の技能向上、再訓練、職業紹介支援、求職者への適切な所得支援と労働市場復帰への取組など)の2つの用途で使われることを予定しています。
基金の獲得には、それぞれの国で化石燃料関連労働者・失業者に対する支援、CO₂排出度の高い生産・工業施設の転換を含む「地域の公正な移行計画」を作成し、欧州委員会の承認が必要とされています。2024年現在、EU27加盟国のすべてに公正な移行基金が配分されており、すべての加盟国が移行において何らかの脆弱地域を抱えているということを示しています。

公正な移行基金配分額とGDP(100 万ユーロ,%)
※特に配分金額が多い国を赤線
公正な移行基金対象地域

3.日本における公正な移行の取組状況は?

それぞれの国や地域の依存度に応じて基金配分する仕組みが進められていたEUでしたが、さて、日本ではカーボンニュートラルの負の影響はどのように考えられているのでしょうか?いよいよ気になる日本の状況を見ていきたいと思います!

脱炭素の裏側で加速する労働市場の変化、動き始める日本政府

未来のためのエネルギー転換研究グループの「レポート2030」によると、日本におけるエネルギー転換で主に影響を受ける産業は
①電気業〈火力発電〉
②石油精製業
③鉄鋼業
④化学工業
⑤窯業〈ようぎょう〉土石製品製造業
⑥パルプ・紙・紙加工品製造業

の6つと言われており、それらの従業者数をあわせると約15万人にのぼると試算されています。さらに、この6産業で生み出される付加価値の総額は4兆円を超えると推計されており、裏を返せばこの付加価値額相当を移行の際に失う可能性もあると考えられます。なお、日本の再エネに関連する雇用者数は現時点で約27万人程度であることがわかっており、2030年までに年間254万人の雇用が新たに創出されていると推計されています。

気候ネットワーク「事例集「公正な移行―脱炭素社会へ、新しい仕事と雇用をつくりだす―」」より画像引用

このように日本でも、EUのように負の影響が及びそうな産業種や業界が一定予測されているなかで、近年、日本政府や日本の労働組合側も公正な移行に関して動き始めています。例えば2022年12月には公表した「GX基本方針」では、公正な移行に関して↓のように方針がまとめられ、人への投資の政策パッケージとして5年間で1兆円を投じると記載されています。

グリーントランスフォーメーションの推進に向けて
令和5年5月29日 経済産業省 環境経済室より資料引用

また、2024年に開かれた「第12回GX実行会議」では、日本労働組合総連合の芳野会長が出席。以下の通り「公正な移行」に対しても言及されています。

◆良質な雇用創出の重要性について
GX2040ビジョンの実現の基底には「公正な移行」が必要です。GX産業立地や産業構造によって生み出される新たな雇用は、グリーンでディーセントな雇用でなければなりません。加えて、中小・零細企業の産業転換については、サプライチェーン任せにせず、専門人財の派遣や地域の金融機関による伴走型支援、国による雇用への強力な目配せなど重層的な支援をお願いしたいと思います。

連合ニュース2024年より引用

ちなみに環境省が2024年に策定した第6次環境基本計画においても、持続可能な地域には「公正な移行」が必要、と言及されています。

このような状況を鑑みるに、日本の公正な移行に向けた動きはまだ萌芽期ではあるなかで、
✅日本においても労働市場の移行は一定予測されていること
✅日本政府としても労働組合側としても公正な移行に言及し、具体的な予算確保や仕組みづくりに着手し始めている
・・というのが現在の状況と思われます。
ここ数年で日本政府サイドとしても公正な移行に向けて具体的な検討が始まってきており、カーボンニュートラルを進められていくにあたっては、一層重要視されていくことが予想されます。今後地域や中小事業者においても、各産業や業界、地域・エリアごとにカーボンニュートラルの影響予測などのリスク評価やそれに対する対応策検討などを主体的に推進していくことも必要になってくると考えられます。

4.ERが手掛ける地域を担う中小事業者のトランジョン伴走支援!

23歳の原体験、意を決したER.の立ち上げ

代表の鈴木は、もともと中学生時代から気候変動など環境問題に関心を持ち、大学では海洋生物の遺伝子研究、大学院ではエネルギー政策と民主主義などを勉強してきました。そんななか大学院時代に、社会的な背景から突如として発電所がストップしたことで、地域経済に多大なる打撃があるとともにそこに生きる人たちが分断され、社会的に孤立し途方に暮れ泣き崩れる方や、「地域として他の産業で生きていく道があったら・・」と話す方たちと出逢いました。
この方たちとの出逢いを原点に、できるだけ分断を生まずにどうやったらサステナブルな社会へ移行できるのか?、そのためにも地域に生きる人たちが自分たちらしく環境にも地域経済にとってもよいものを選択するためには何が必要か?、を10年以上探し求め続けてきました。そんな折に、ついに出逢えたのがこの”Just transition”という概念。このJust transition の概念の実現や社会への実装を目指したい、脱炭素やカーボンニュートラルの影響を受けやすい地域の事業者さんのトランジションに対して伴走支援ができるようになりたい、と思い、2020年にNPO法人ER.を設立。3年ほど団体活動を続けるなかで出逢ったのが、創業から67年続く三重県四日市の前野段ボール社社長の前野さんでした。

前野段ボール社4代目社長、前野大喜さん

「全員、協力して幸せになる」をスローガンに掲げる前野段ボール社、『サーキュラーエコノミー』に活路を!

前野段ボール社は、段ボール素材だけでなく樹脂やプラスチックなど様々な素材を取り扱い、大小や形状が様々な自動車部品などの梱包商品を主力事業として据えてきました。特に自動車部品の梱包商品は通称”通い箱”と呼ばれ、前野段ボール社でつくられた梱包商品はみんなも知る大手自動車メーカーなど様々なシーンで長年使われてきており、こうした通い箱は世界各国に渡る自動車のサプライチェーン流通・輸送においても大活躍しています!

前野段ボール社が支えるサプライチェーンイメージ

こうして自動車産業を長年下支えしてきた前野段ボール社ですが、他方で自動車産業も多分に漏れず、「100年に一度の改革」と言われるほどカーボンニュートラルの動きがまったなしで進められています。その1つの軸となるのが「電気自動車への移行」になるのですが、他方でガソリン車→電気自動車に移行するとなるとその部品点数は1/10にもなるとも言われおり、ともすれば自動車用の部品を作ってきた地域の中小事業者や前野段ボール社の通い箱など、自動車産業を支えてきたサプライチェーンでも多くの影響があると予測されています。

前野段ボール社では、リサイクル率90%を超える段ボールを主力材料に、全国に4カ所ある各拠点の排出量計算などサステナビリティ対応も積極的に取り組んできました。近年脱炭素やカーボニュートラルなど環境対応への動きが加速していること、また地域の人口減少や少子高齢化から年々人材採用も厳しくなってきている背景もあり、前野社長としても「次の時代にむけて、長年積み重ねてきた事業の再構築が必要ではないか」と考えていました。

そこでNPO法人ER.では、前野段ボール社と連携し、サーキュラーエコノミーを軸としたトランジョンの伴走支援を開始!2024年10月16日(水)には記念すべき第1回のワークショップを開催しました!ワークショップでは、社を率いる中堅社員さんたちとも連携し、地元の四日市工業高校の学生さん15名と地域の事業者さんなど約20名が前野段ボール社の新工場に一堂に集まり、

  • 前野段ボール社と環境・サーキュラーエコノミーのつながりをインプットしたのち

  • 前野段ボール社で生まれた段ボールロス素材×社会課題×アップサイクルでの商品開発を考えみるアイディエーション

などを展開しました!(詳細なイベント開催レポートは後日公開予定◎お楽しみにです!)

前野社長による企業紹介!
社の未来にむけた想いや情熱がほとばしっていました✨️
ER.からはサーキュラーエコノミー専門家の山根が登壇!
環境と前野段ボール社、サーキュラーエコノミーと前野段ボール社の繋がりを紐解き、ご紹介しました◎
社を率いる若手社員も一緒になってワークを推進!
社員さんからの詳しい説明に学生さんも興味津々でした😊

ちなみに前野段ボール社の新工場には日本で2台しかない加工機械も新しく実装され、3Dプリンターなども完備しています!今後は、サーキュラーエコノミーのハブ化を目指して、最新設備を実際に使って、サーキュラーエコノミーをより体感し、ビジネスに繋げていくワークショップなど、幅広く展開していく予定です!県内外のものづくり大好きな学生さんや市民のみなさん、ものづくり・サーキュラーエコノミーに関心ある県内外の企業さんなど、ぜひご参加ください!

・・・というわけでER.ではこうした前野段ボール社のトランジション支援として、地元の学生さんや三重県内企業さんなど社内外や多世代を巻き込んだ共創型のワークショップ等を通じて、価値観のアップデートや新たな視点とネットワークを生み出しながら、
①サーキュラーエコノミーを軸とした新規事業展開の可能性探求
②サーキュラーエコノミー×自社事業に関する知識獲得、スキルアップ
を目指していく予定です!

四日市から小さくトランジションの実現に向けて邁進していきたいと思いますので、今後の継続レポートもぜひお楽しみに!

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました!

参考文献

(*1)UNDP What is just transition? And why is it important?, National Library of Medicine Just transitions: Histories and futures in a post-COVID world
(*2)SDGsアクション!2023年9月19日記事「公正な移行とは|産業にもたらす影響や日本の現状・課題を解説」(https://www.asahi.com/sdgs/article/15004883
(*3)EUの気候中立政策と公正な移行(https://www.rengo-soken.or.jp/dio/dio398-3.pdf


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