広島のおばちゃん

 人情という言葉が好きだ。47都道府県を暇さえあれば放浪する中で、特に贔屓にしているのが秋田と広島。
 広島の観光景勝地は周り尽くしたので、安芸高田にある、とあるお好み焼き屋へ足を運んだ。御年77歳だという御婦人が1人で経営されるオールド・スタイルの店内には、これまた年配の漢さんが3人、アイスコーヒーで喉を潤している。田舎ではよくある光景である。寄合や集会所が遠いときは最寄りの店で集まって油を売ったりするのは散々見てきた、から。大食漢の僕を察したのか、御婦人は鉄板で作業し始める。漢さん方は売る油が無くなったのか、それぞれ採れたての野菜を入り口に置いて持ち家へと帰っていく。
 さあ、ここからが本番である。慣れた手つきでお好み焼きを整えていく御婦人は、とても77歳とは思えない。10月中旬。最高気温28℃の灼熱の中、黙々と層を積み上げていく。そばをダブルにしたおかげで、小高い丘が出来上がった。
 ヘラで一口。甘い。ここは大福ソースという、最近ではあまり使われていない地元のソースを使っているそうな。これが実にいい。麺にもたっぷり塗ってあるおかげで成長期の身体に堪らなく染み込んでいく。実に美味である。
 世間話をする中で、大福ソースを好んで使うことを伝えると、なんと小分けの容器にソースを入れて持たせてくれた。さらに、百円玉が無いからという理由で、800円の所を500円にまけてくれた。お好み焼きとソース合わせてワンコインなど、とんでもなく破格である。財布の紐が常に引き締まるサラリーマンにとって非常に温かい。

 人情という言葉が好きだ。こういうことがあるから、また広島を贔屓にしてしまう。こういう面で、広島の御婦人は、否、「おばちゃん」は、どこまでも温情で実家のような安心感がある。
 私の愛する広島と、広島のおばちゃんに捧げるために。 終

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