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釣りエッセイ「試考策魚」Vol.1 アユイング(2)

「釣れない」から「釣れるようになる」までの過程がとても楽しい。

興味を持ち、調べ、作り、試し、振り返る。フィールドで気付き、自然に、魚に教えられ、たまに感動もして・・そしていつの日にか「釣れるようになる」。

これが、たまらないのです。

「アユイング」第2話です。


6月は雨が多く本流は増水したままなので、前回とは違う支流へ出かけてみることにしました。

川幅は狭く、立ちこんで魚を散らす事が少なくて済みそうですし、場所によってはルアーロッドの長さでも流心に届きそうです。

流れの中の黒く見える場所へミノーを誘導し、ステイさせ、ボトムを叩かせます。

アユの姿は見えませんが、浅瀬にはハミ跡を見つける事ができました。アユはきっとこの何処かに居ます。

縄張りを守るアユの気持ちになってみれば、ライバルがずっとそこにいるのも嫌でしょうが、近づいたり、遠ざかったり、縄張りから出たり入ったりされるはもっと嫌に違いありません。

そこでミノーを狙いの石から遠ざけたり、近づけたり、ロッドを立ててミノーを浮かせたり、寝かせて沈めてボトムを叩かせたり・・・これらを繰り返し続けていた時です。

ミノーがウォブルする振動とは明らかに違う振動がロッド通して手に伝わり、力強くは無いですがロッドのティップが”クイッ”と横向きに小さく入りるのが見えました。

流れに乗り下って抵抗する魚をゆっくりと引き寄せると、小さく美しいグリーンの背中に、追星と呼ばれる胸ビレ付近の黄色い模様の魚体が、夕日に照らされました。

縄張りから追い出そうとミノーに体当たりした証しとして掛け針は背中にかかっていました。

これまでに様々な魚をルアーで釣ってきました。初めての魚種を釣った時、その度に毎度思う事ですが、今回はなお一層強く感じたのです。『本当にルアー釣れるんだ』。


私が通うこの川のアユイング情報は、熱心な漁協組合員さんのSNS発信によるものです。

いつか川で会えたらお礼を言いたいと思っていました。なにしろ、こんなに興味を持ち楽しめているのですから。

梅雨もなか休み、ようやく川の水位が下がり出したため、本流へ出かけました。

流れの緩い平瀬に群れた鮎が見えたので狙ってみましたが、やはりミノーに体当たりしてくる事はありませんでした。

あれこれと試していると、河原をこちらに向かって歩いてくる人が見えました。知り合いではなさそうです。きっと漁協組合の監視員でしょう。

もしやと思い尋ねてみるとSNSの発信者の方でした。お会いしたかった事を伝え、アユイングについていろいろ質問に答えて頂きました。

興味深かったのは群れ鮎の釣り方です。

海から遡上してきた天然アユは縄張り意識が強いのですが、養殖鮎は縄張り意識が弱く群を作るようです。

琵琶湖産の鮎も放流されていて、それぞれ性格が異なるようです。

群れ鮎の群れの中にミノーをうまく仲間の様に馴染ませて、間合いを詰めて掛けるのです。毎回同じようにいかない処が面白い様です。

「流れの緩いところに群れている鮎より、流れの速いところに縄張りを持った鮎の方が釣り易いしアタリも派手で面白いですよ、是非狙ってみてください、掛かった時の手応えはたまりませんよ!」と、激励を込めたアドバイスを頂きました。

さあ、場所を変えて再度挑戦です。


川の幅が急に細くなった先から白泡の瀬が始まり、急な流れが20メートルくらい続いています。

これまでアユイングをしたケースの中で最も速い流れです。

ファストリトリーブよりも速い流れをミノーは受けるのではないでしょうか。

急流ですのでとても川底の黒い石は見ることはできません。水面が盛り上がる様子をみて底に大きな石があると推測してキャストします。

流れが速いところでミノーが潜りました。とても強い引き抵抗です。ミノーは表層の速い流れを受け左右に振られ安定しません。泳ぎが破綻し、水面から飛び出しては潜るを繰り返します。

ロッドの角度を変えながら暫く我慢していると、ミノーが底の緩い流れに入ったのでしょうか、スーッと引き抵抗が弱まり、稀にリップがボトムを叩きます。しばらくそこで鮎の体当たりを待ちました・・・アタリはありませんでしたが、釣り方のヒントが見えました。

狙うポイントを少し上流側へずらすため、軽くリーリングするとミノーが上層の速い流れに捕まって、泳ぎが破綻したミノーは再び水面から飛び出しました。

その感覚が学習されたのでしょうか、ミノーを底層に入れることに少しずつ慣れてきました。

立ち位置からミノーまでの距離、水深と流速に合わせて、全部感覚的ですが、ロッドの角度を調節します。

ミノーのリップが川底を叩きます。コツン・・・コツン・・・。コツン・・・・・・コッ。突如ギューンとティップが持っていかれました。

魚は勢いよく下流へ下り、その後を追う様に私も川下へ歩きました。

魚はどれくらいの大きさなのか全く見当もつきません。

水面直下をジグザグに走り回り、取り込める態勢になるまで手こずりました。

タモの中に収まったのは思ったより小さな鮎。

こんな小さな鮎が速い流れの中でこれほど力強く引くのだ。
大きな鮎はいったいどれくらい!?

アタリの衝撃、掛かった鮎が流れの中をジグザグに泳ぐスピードにとても驚きしばらくの間、回想しました。

この日以降は、様々なタイプの瀬に立って流速に合わせたミノーの操作に慣れていきました。


景色が綺麗で、水の流れと石の配置が良い、気持ちの良いポイントを見つけました。そこに何度か通ううちに、鮎が付いている場所もなとなく分かってきました。

ある朝、そこにアユイングに出かけました。

朝7時頃。河原に着いて準備を始めます。

日はとうに昇っていますが、山の影になっているので日の光はまだ水面を照らしていません。

今日もお昼を過ぎれば35℃を超える猛暑日になるでしょう。

今はまだ、川面を吹く風は穏やかに涼しく、その風より少し冷たい川の流れに膝まで浸かるとスーッと体の力が抜け、目の前の景色がより鮮やかになります。

竿を構えた時、山から顔を出した太陽の光が水面を照らし出しました。

小さい鮎が背頭で飛び跳ね、少し大きな鮎が水底でヒラを打って光ります。

ミノーをダウンクロスにキャストし、狙うポイントの川下付近へ誘導。

ゆっくりとリトリーブし、ステイさせます。

ロッドの角度を少しずつ変えていき、リップが川底を叩く位置を探しました。

カンッ!とアタリがありましたが、ティップが絞り込まれ魚が走る様子がありません。

バレたのでしょうか?

ラインを見ると大きくUの字に弛み、その先が上流へと昇っていきます。

ロッドを魚が走る反対方向へと寝かせます。すると今度は魚は流れを下り始めました。

流れに乗ってとても力強い引きです。なかなか流れの外へ引き出すことができません。

魚が一瞬水面を割り姿を見せました。ようやく流心から外せたようです。

タモに収め、アユの美しい姿にしばらく見惚れました・・・・・


川歩きも、川読みも、ポイント選びも、ミノーの操作も、取り込みも全て未熟なままです。

ですが、出かける度に一つずつ分かる事が増えていき、元気な鮎が掛かる様になりました。

アユイングに挑戦した最初のシーズンはこうして幕を閉じました。

まもなく秋になり、落ち鮎の季節です。

落ち鮎を釣る伝統的な釣法があります。「コロガシ釣り」です。

アユイング中に何度かコロガシ釣り師の方とお話しする機会がありました。
私の知らない別のアユ釣りの世界に興味が湧いてくるのです。

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