それでも私は黒を着る
わたしは職場には基本モノトーンの服で行く。
全身ブラックであれば尚良い。
オールブラックコーデといえば聞こえはいいが、実際のところは東京靴流通センターで3000円という破格の値段で買ったプーマのスニーカー、だぼっとしたズボン、ユニクロのサマーニットに冷房対策のためUVカットパーカーを羽織って、会社員というかさながらフェスのイベントスタッフである。
パーカーを脱ぎ、ネックレスでもつければそれなりの格好なのだけど(そうであってくれ)、UVカットパーカーが絶妙に裏方スタッフ感を演出してくれる。
それっぽすぎて面白いのでけっこう気に入っている。
最近のわたしはどうも人と話すのに抵抗がある。
別に嫌いな人なんていないし、いい人ばかりなのだけど、
なんかこう、ぅぐっとなる。身構えてしまう。
とにかく大量のHPが削られるのだ。
他人がたくさん周りにいるのは苦痛だしとにかく人目に触れたくない。
誰の視界にも入りたくない。
そんな気持ちが強くなった結果、
そうだ、黒子になろう
と思いついた。名案だと思った。
全身真っ黒で下向いて歩いてるスタッフに話しかける人なんかいないはずだ。
それでも相手の様子が全く見えてないのか無邪気に話しかけてくる人はいるのだが、別に害がなければそれでよい。
なんなら羨ましい。
わたしもそれくらい純粋に生きたい。
それはともかく、
確固たる信念を持ち黒子に扮して日々生きてきたのだが、
どうしてもそれを良しとしない人物がいる。
良しとしないというか、彼女曰く、もったいないということらしいが。
そのお姉さんは本当に綺麗な人で、
美意識の高さが見た目からよくわかる。
若いのだからもっと綺麗な色を着てほしいのだと、数年前に言われたことがある。
やはり服装も気を使わないと人を不愉快にしてしまうのだろうかと当時は真剣に悩んだ。
でも人柄からして、注意とかではなく純粋な彼女の希望だったと思う。
そういうことにして、一旦ご意見として受け止め納得もしているのだが、わたしにとっては黒子であることの方が大事なので、なるほどな、に留めさせて頂いた。
諦めてくれたかと思っていたら1年本日、ついにまた、黒子みたいだよぉと悲しそうに言われてしまった。
こちとらそこを目指しているので寧ろ嬉しいくらいだ。
黒子になりたいのだ、そもそも黒が好きなのだと熱弁をくらわしたが、厚手の布を被せて叩くドラムくらい全く響いてなかった。
メイクもしたい、服もプロデュースしてあげたいとすごい熱量だ。
こんな暗いやつに、ありがたいことだ。
本当に思ってる。
齢30を超えても垢抜けてないことは自覚してるのでなんなら本当はやってほしい。
でも、会社では黒子でいい。
好きな服は休日に着る。
黒はわたしを守ってくれる。
他人の視線からわたしを守ってくれる。
なんか防御力高い気がするもん。
自意識過剰だと言う人も多いだろうし、実際そうなのだろう。
誰も人のことなんか見てない。分かっている。
わたしも他人のことなんか見てない。
でも、嫌なものは嫌なのだ。
自己満足で実際の効果はなかったとて、
わたしは今視線を防御してる、隠れられてる、そう思えるだけで全然違うのだ。
たぶん、誰にも迷惑はかけてないし。
見てるだけで不愉快だったら申し訳ないが…
わたしは、ぅぐってなることから自分を守るために、懲りずに黒を着ます。