越美本線 計石駅
20代の初めの頃に一度だけ前を通ったことがある駅がある。友達と北陸を車で走った帰りにたまたま通りがかった無人駅だ。
当時、田舎に住んでいた割に無人駅を見たことがなくて、山間の道の脇に唐突に現れた駅のホームに「え、こんなところに駅がある!と目を奪われたものだ。
もっともその時はそこが何県の何町だったのかさえもわからなかったけれど、駅の名前だけはずっと覚えていた。
ある秋の日、岐阜の白鳥から福井方面に向かってしばらく走るとその駅は見えてきた。
そこは、福井県の福井市(旧美山町)の越美本線 計石駅(はかりいしえき)で、福井と九頭竜湖を結ぶJRのローカル線だ。
駅は昔の印象そのままにそこにあった。単線のホームに小さな待合室のような屋根つきの建物。ホームの端が横の道までスロープになっていて改札はない。時刻表には上りも下りもそれぞれ1日に9本しか書かれていない。
改めて来てみると、なんてことのない田舎の駅だ。
それでもずっと忘れずにいた。
たぶん初めての北陸旅の高揚感とそれが終わる惜しさを、この景色に閉じ込めて今まで持ち続けていたんだと思う。
ここに来れてとても満足だった。
いい天気の10月の、まだ日の高い時間。ホームに一人立って待合室なんかを覗いて写真撮って。
せっかくだから電車見たかったな。汽車か。汽車だな。一両編成だろうな。
汽車はまだ1時間以上来ない。
向かいのタバコ屋に行って自販機で缶コーヒーを買い、タバコを吸いながらのんびりと駅を眺めて、
“次に来ることはもうないな“ と思っていた。
自分の中で気が済んだんだと思った。