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お師匠さん
夕方、オートバイでコンビニに寄って缶コーヒーを買って灰皿の前に行くと、着物を着た年配の女性が紙タバコを吸っていた。
「今日はどちらかお出かけでしたか?」
声をかけるとちらりとこちらを見たその女性。
「ああ、踊りのお稽古でね。ちょっと。」
そっけないけど冷たくはない。話好きでは決してないけれど、話に付き合ってはくれる。そんな雰囲気
「お着物いいですね。お師匠さんでいらっしゃるんですか?」
「まあ、長くやっているので、少しは教えたりはできるようにはなりましてね。」と大人の返し。
少しも浮いたところがない着物姿。失礼ながらこの年季ならではの佇まい。さらにタバコを吹かす姿がかっこい。
「1週間に1回ぐらいは着ないとね。なんだかおかしくなっちゃうんですよ。着方忘れちゃって。」
ずっと踊りをやってきての着物だからこその、譲れないものがあるんだろうな なんて思っていると
彼女ははタバコを消して、「ごめんくださいね。」そう言って車に向かって歩いていった。
貫禄の「ごめんくださいね」だ。こんな挨拶、そうそうされるものではないな。
ちょっとは俺も大人になったかな。
“お師匠さん、運転気をつけてね。”
そう思いながら、駐車場から出る白い軽自動車を見送った。