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狐のタコ焼き

どこのまちにもありそうな夕方のバイパス渋滞をやっと抜け、横道に入ったら急に日が落ちた気がして、コンビニの灯りが少し眩しく思えた。ナビのマップがここだと言っている場所は細い路地で、そこは年季の入った寿司屋だった。
薄いガラスの引き戸の奥は真っ暗で、こりゃあGoogle先生にやられたかと思っていると、後ろから「今夜ご予約の方ですか?」と声がした。

オートバイに跨ったまま慌てて振り返ると小柄な女性がエプロン姿で立っていた。狐かと思った。
よくよく見ると道の反対側に町家風の民家があった。そう。こっちだった。

今夜の宿もゲストハウス。古い町家をリフォームしたものだという。
町家とは町中や街道沿いなどに建築された店舗つきの住宅のことをいうらしく、外から見ても障子の奥の灯りで紅殻格子が映えて、つまり映(バえ)っていうやつだ。
建物に入ると床は土間で右は酒の瓶が並んでいるバーカウンター。奥にはキッチンがあるのだろう。
反対側は板張りの上がりがあってその奥は6畳と4畳半の続きの畳の共有スペース。天井の梁も太い見事なものだ。
今日はバータイムの営業をやっているらしく、地元の若いカップルや子供連れの若夫婦たちが部屋に座っていた。
カウンターの中ではさっきの狐が忙しそうに働いている。
ビールをもらって一人呑みながら(狐 働くなぁ)と思って一人でニヤついていたら狐と目があってしまった。

「あ、何かつまみますかぁ?」と狐が声をかけてきたのでオススメを聞くと、ヴィーガンのアメリカ人のためにタコの入っていないタコ焼きを作っているんだそうで、
「ミックスベジタブルと油揚げ入れると美味しいんですよ。」
なんて言うから、鼻からビール吹きそうになった。

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