2022 09

ゴダールが死んだ。ジャンリュックゴダール。享年91歳。大往生だ。何者にも惑わされず我が道を進む男に相応しく安楽死を選んだ。彼の意志としては自殺に変わりはないだろう。俺はゴダール映画の世代ではないし、彼に会ったこともない。とはいえ「はなればなれに」「勝手にしやがれ」「男の名前はみんなパトリックというの」といった作品を通じて映画における自由を教わった。ゴダールが死んだ。それは自由が死んだ。あるいは映画が死んだ。とすら思える。訃報を聞いて打ちひしがれていた時、蓮實重彦が朝日新聞に寄稿した追悼文を読んだ。蓮實氏は間違ってもゴダールの死は映画の死ではない。なぜなら彼の映画に追随した者はかつて1人もいなかったから。というような記事を書いた。俺はそれを読んで救われた気がした。映画は死んでいない。誰もゴダールを追随できていない。だったら俺にも未来がある。俺にも映画を撮る理由がまだ残されている。ああ。こんな言葉、ゴダール映画を最初から最後まで隅々と見届けた貴方だからこそ言えるものに他ならない。せめて貴方はまだ死なないでほしい。俺が作った映画を見るまではどうか健全に相変わらずの傍若無人を奮って映画界のご意見番として堂々と居座り続けてください。


もしこの駄文集を遡って読む強者がいるならば、先月書いた近況のその後について多少書いた方がいいかもしれない。編集バイトは実質クビになった。相変わらず不貞腐れて何もせず家でゴロゴロしているとき、編集所の社長から連絡が来た。君のつてで何か編集の仕事はないだろうか? web広告とか、そういうのでも構わないんだけど。という内容の文面だった。泣きたい気分に駆られる。AV新法とかいう選挙前の人気取りパフォーマンスとしか思えない法律で、ここまで虐げられなければならないのか。きっと俺の周り以外でも多くの業界人が路頭に迷いつつあるのだろう。いや悲しすぎる。政治家よ、もっと広い目で日本を見つめようよ。

そういったわけでいよいよ金に困った無職の俺は、本業の助監督の仕事もすぐには見つかるわけでもないから(いや実際には仕事はあるのだがしんどそうなのは避けたいのだ)手っ取り早く稼げるでお馴染み派遣バイトに応募した。PCR検査の受付業務である。希望者はそこまで多くはこないのでめちゃくちゃ暇だ。暇つぶしに忙しいという具合である。屋外でwi-fiがないのが辛い。スマホをコソコソ触る分には多めに見てもらえるのだが、なんにせよ通信量がかかる。ある程度、ネット記事やweb本をダウンロードするという手段もあるが9時間労働を毎日続けていると、ダウンロードが追いつかないし、集中力も続かない。場所柄、高級住宅街で、高級車やリッチピープルが行き交うので、もっぱら車and人間観察をしている。たまにテスラに乗る石田純一を見かける。そんな日はアタリだ。ちなみにPCR検査は東京都民で無症状の人は無料で案内する仕組みになっている。なので受付時にはまず「東京都民ですか?」と確認するのだが、この辺りに住むリッチピープルたちは「はい」か「いいえ」といえばいいのに、なぜか「港区です」と答えやがる。いや、それはどうでもええねん。聞いてないから。と毎回心の中で罵りたくなる日々だ。もしも港区民になったとしても、絶対にこんな横柄な人種には染まりたくないと思う次第。次は昼休憩の過ごし方について書こうかな…と、その前に。諸君よ、ここまで読んでみてどうだろう。はっきり言ってクソつまらない近況報告だとは思わないか? 他にも書くことはあるがどうも面白くなりそうにないので、近況はこの辺にしておこう。

雑文的駄文を続ける。


pisskenと聞いてピンとくる人は果たしてどのくらいいてるのだろうか。BURSTの編集長といえばちょっとは「ああ」と思う人もいるかもしれない。本名は曽根賢。通称pissken。俺は彼の名前も、BURSTという、90年代から00年代にかけて過激なサブカルの最先端を追求した雑誌の存在も知らなかった。先週、新宿御苑駅近くにある模索者という本屋でたまたまpissken著作の「火舌詩集1 HARD BoiLED MOON」を手にとって、パラパラめくってからすぐに「ビビッ」ときて購入したのがきっかけでその存在を知った。それから彼のやっているブログを遡って読み漁った。どうやら彼はアル中生活保護受給者(インポ)らしい。パンクを地で生きてやがるとんでもない危険人物だ。俺はその狂気という名の蜜に吸い寄せられたのだ。この詩集は都内数カ所の本屋でしか販売されていないらしい。もし「火舌詩集1」を運よく見つけたら手に取って、そこに納められている一編「おれがおれを突き抜けたとき」だけでも読んでほしい。すごくいいんだよ。本当に、なんだか胸がスーッと軽くなるような、そんな気持ちになれる詩が、他にも何編かあるので、ぜひ読んでほしい。ちなみに俺はpisskenとなんの面識もないし、物販の回し者でもない。ただ純粋に応援したいだけだ。


コロナ前(果てしなく遠い過去のように感じる)に自主で作った映画を大阪の映画祭に出願した。当選すれば来春の映画祭で上映される。どうか落選してほしい。同作品はこれまでに何箇所かの映画祭に応募してそのうちの2つに引っかかって、賞をもらった。それに甘んじているわけではないが、次回作を作ろうという強い意欲はなぜか湧いてこなかった。なんというか、収まるべきところに収まったような結果で、拍子抜けしてしまったのかもしれない。てな訳でというわけでもないが、この数年間、時間は腐るほどあったのに俺は何も作ってこなかった。脚本は何本か書いたが、どれもとても映画化できるような代物ではないクソつまらない出来栄えだった。それらはMacBookの中にこしらえた「FUCK」という名のフォルダにぶち込んでいる(2度とそこから這い出てくることはないだろう)。だからこそ、今回の映画祭、どうか落選してほしい。そしたら俺はまた一から歩き出せるかもしれない。



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