訓練9-1
「おいガンガン蹴るなって、高級車やぞ?」
「そんなこと言ったって動かへんのやったらただのでかい鉄の塊やん」
「なあ頼むからちょっとは静かにしてくれへん? ただでさえクソ暑いのにお前の声聞いてたらイライラする」
「イライラするのはこっちの方や。ドライブなんか行かんかったら今頃家でテレビ見ながらゴロゴロしてアイス食べてたのに。あー、アイス食べたい!」
「っもう。だから蹴るなって!」
「うるさいうるさいうるさい!」
「黙れ黙れ黙れ!」
「ねえ、アホみたいに寝っ転がってないで、助け呼びいくとか、ボンネット開けて中身調べるとかさ、そういうのないわけ?」
「ない」
「情けない兄貴…うちは日本一不幸な少女や」
「少女ちゃうやろ、26はアラサーやぞ」
「アホ。そんなんやからモテへんねん」
「ほっとけ」
「なあ、てかここどこなん?」
「日本のどこかや」
「殺す」
「ちょ痛い痛い、窒息する」
「しね。あほ」
「離れろ!」
「…いったあ。最悪や、血でた」
「出てへん。大丈夫や。…シャツ破けたし」
「そっちの方が似合ってるで」
「うっさいわボケ」
「あー、うちらこのまま死ぬんかな」
「…まあ、それもありちゃう」
「…なあ」
「ん?」
「昼でも月って見えるんやな」
「ああ、せやなあ」
あなたからの僅かなサポートでわたしは元気になり、それはさらなる創作意欲に繋がってゆきます。