訓練9-3

何年も前から空き地になっているその一軒家の跡地は、夏場になると、雑草や、竹が生い茂り、瞬く間にあたり一面が緑の闇に覆われる。行政も見向きもせず野放し状態が続いており、近隣住民(私も含む)共々辟易としていたのだが、ある時期から誰かの手によって、約20平米のジャングルと化す一歩手前のけったいな空き地が手入れされるようになった。朝、家の外に出てみると、まず5、6本は生えていただろう、4m以上にも育った竹が根元から切り落とされていた。次の日からは空き地の奥から手前に向かって日に数十センチずつ、少しずつだが草が刈られていった。刈られた草は小さな山にして、いくつかに分けられた。その草の山と山の間はどこを見ても均等で、高いところから俯瞰で見ると一種の芸術作品にも見えるようで、刈り主の美的センスが感じられた。近所の間で誰が草を刈っているのか噂になったが、誰もわからない。私は目覚ましをセットして明け方に起きて、差し入れ用に麦茶のペットボトルを持って空き地に張り込み、真相を突き止めようと試みたのが、そういう日に限って草刈りは来なかった。その日も収穫を得られず、引き返そうとした時、空き地の片隅に汚れてヨレヨレになったベージュのキャップが落ちているのを見つけた。ひょっとしたらこれが真相解明の手がかりになるかもしれないので、私はその帽子を家に持ち帰った。誰のキャップかはわからないが、不思議なことに、私はこれを前に、何度も、目撃しているような気がした。しかしどう記憶を辿っても誰のものだかわからなかった。こんな夏のクソ暑い時期に日除けがなくては困るだろうと思い、拾った翌日の朝、私は元の場所にキャップを戻した。その時…

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