![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/8932714/rectangle_large_type_2_d7fbadb03b26aeec72df09e9b7af1ddf.jpg?width=1200)
底辺×高さを正拳突きで割る
朝方、鶏が卵を産んだ。目の前で「ケッ」と鳴いてコロンと出た。真っ白で美しい卵だったが、そこは多少勾配のある大通りだったので、卵はじっとしてられずにコロコロと坂を蛇行し、車道に出て、グシャとワゴンに轢かれた。舗装されたアスファルトにはテラテラと光る黄身がある。鶏はマンホールの上のパンくずらしき破片を、せっせとついばんでいた。
私はアジの干物が食べたくて、近くの食堂まで歩く。坂を下った先に古い日本家屋が見えた。おそらくそれほど築年数は経っていないが、無理なエイジング加工によって、全身から不自然なほどの情緒が発されている。若い木材は塗料によって焦げ茶色にされて、今にも倒れそうなほど弱っていた。ガラリと引き戸を開けると、メガネをかけてヒゲを生やした痩せ型の青年がいる。
「いらっしゃいませ」「ひとりです」「こちらへどうぞ」。
奥に通されるので、なされるがまま進む。狭い通路を歩いて進むと、もうひとつ引き戸があった。彼は私を先に通して、ガラリと戸を開けた。私が入ると、彼は「少々お待ちください」と言い残して戸を閉める。
「いらっしゃいませ」と声がする。先ほどの彼が同じような猫背でいた。「あ、ここで待ってるように言われて……」と返すと「こちらへどうぞ」と奥に促される。彼の後ろを少し歩くと、同じような引き戸があった。彼はガラリと開ける。「こちらで少々お待ちください」と笑顔を向け私一人を通して戸を閉めた。
「いらっしゃいませ」と声がする。先ほどの彼が同じような猫背でいた。「あ、ここで待ってるように言われて……」と返すと「こちらへどうぞ」と奥に促される。彼の後ろを少し歩くと、同じような引き戸があった。彼はガラリと開ける。「こちらで少々お待ちください」と笑顔を向け、私一人を通して戸を閉めた。
「いらっしゃいませ」と声がする。先ほどの彼が同じような猫背でいた。「あ、ここで待ってるように言われて……」と返すと「こちらへどうぞ」と奥に促される。彼の後ろを少し歩くと、同じような引き戸があった。彼はガラリと開ける。「こちらで少々お待ちください」と笑顔を向け、私一人を通して戸を閉めた。
「いらっしゃいませ」と声がする。先ほどの彼が同じような猫背でいた。「あ、ここで待ってるように言われて……」と返すと「こちらへどうぞ」と奥に促される。彼の後ろを少し歩くと、同じような引き戸があった。彼はガラリと開ける。「こちらで少々お待ちください」と笑顔を向け、私一人を通して戸を閉めた。
「いらっしゃいませ」と声がする。先ほどの彼が同じような猫背でいた。「あ、ここで待ってるように言われて……」と返すと「こちらへどうぞ」と奥に促される。彼の後ろを少し歩くと、同じような引き戸があった。彼はガラリと開ける。「こちらで少々お待ちください」と笑顔を向け、私一人を通して戸を閉めた。
「いらっしゃいませ」と声がする。先ほどの彼が同じような猫背でいた。「あ、ここで待ってるように言われて……」と返すと「こちらへどうぞ」と奥に促される。彼の後ろを少し歩くと、同じような引き戸があった。彼はガラリと開ける。「こちらで少々お待ちください」と笑顔を向け、私一人を通して戸を閉めた。
「いらっしゃいませ」と声がする。先ほどの彼が同じような猫背でいた。「あ、ここで待ってるように言われて……」と返すと「こちらへどうぞ」と奥に促される。彼の後ろを少し歩くと、同じような引き戸があった。彼はガラリと開ける。「こちらで少々お待ちください」と笑顔を向け、私一人を通して戸を閉めた。
「いらっしゃいませ」と声がする。先ほどの彼が同じような猫背でいた。「あ、ここで待ってるように言われて……」と返すと「こちらへどうぞ」と奥に促される。彼の後ろを少し歩くと、同じような引き戸があった。彼はガラリと開ける。「こちらで少々お待ちください」と笑顔を向け、私一人を通して戸を閉めた。
顔を上げると、先ほどの彼がいる。「いらっしゃいませ」と私は言った。先ほどの彼が「あの、ひとりです」と声を上げる。私は「こちらへどうぞ」と彼を招く。扉を開けると、地平線まで続くだだっ広い海があり、無数のラッコがひしめいていた。ヒャエェェ、ヒャエェェと盛んに喚いている。私は彼を中に通して、引き戸を閉めた。
彼を見送ってから振り返ると「いらっしゃいませ」と声がする。先ほどの彼が同じような猫背でいた。「こちらへどうぞ」と奥に促される。彼の後ろを少し歩くと、同じような引き戸があった。彼はガラリと開ける。「こちらで少々お待ちください」と笑顔を向け、私一人を通して戸を閉めた。
「いらっしゃいませ」と声がする。先ほどの彼が同じような猫背でいた。「あ、ここで待ってるように言われて……」と返すと「こちらへどうぞ」と奥に促される。彼の後ろを少し歩くと、同じような引き戸があった。彼はガラリと開ける。「こちらで少々お待ちください」と笑顔を向け、私一人を通して戸を閉めた。
顔を上げると、先ほどの彼がいる。「いらっしゃいませ」と私は言った。先ほどの彼が「あの、ひとりです」と声を上げる。私は「こちらへどうぞ」と彼を招く。扉を開けると、地平線まで続くだだっ広い海があり、無数のラッコがひしめいていた。ヒャエェェ、ヒャエェェと盛んに喚いている。私は彼を中に通して、引き戸を閉めた。
顔を上げると、先ほどの彼がいる。「いらっしゃいませ」と私は言った。先ほどの彼が「あの、ひとりです」と声を上げる。私は「こちらへどうぞ」と彼を招く。扉を開けると、地平線まで続くだだっ広い海があり、無数のラッコがひしめいていた。ヒャエェェ、ヒャエェェと盛んに喚いている。私は彼を中に通して、引き戸を閉めようと思ったが、建て付けが悪いのか、うまく閉まらない。ガシャガシャと音を立てる戸を、無理に引っ張るとついに戸はレールを外れて、ラッコの上に倒れてしまった。
「なにすんだよ。おい若造」
オスのラッコが真っ黒な目でこちらを睨んできたので、私は申し訳なくなって「ごめんなさい」と謝りつつ、泣く泣くアジの干物を差し出すしかなかった。
#シュルレアリスム #シュルレアリスム小説 #小説 #文学 #シュルレアリスム文学 #シュルレアリスム作家 #作家 #小説家 #シュルレアリスム小説家 #短編小説