そもそもAコープってなんだっけ?~閉店問題とともに~
みなさんお久しぶりですひらじゃと申します。ヤオハンの中編を書こうと思ったんですが、肝心の上海現地取材ができなかったことで力尽きているので、リハビリがてら短めの記事を書こうと思った次第です。
今回はAコープを私なりに解説してみようと思います。ぶっちゃけ記憶を頼りに作ってるので曖昧なこともあるんですが、どうぞ寛大な心でお読みください。
1.Aコープって何?
みなさん、Aコープって知っていますか?関東圏や関西圏に住んでいる方々にとっては馴染みがないかもしれませんが、ニュースで聞いたこともあるでしょう。Aコープとは農協(JA)が運営する食品中心のスーパーです。
農協というのは農業協同組合の略で、その字面から想像が容易そうですね。事実上農家の共同体として機能していて、農産物をそこらへんに出荷したり、農家に機械や肥料などをいろいろ売りつけたりしています。(たまに出荷の仕方や売りつけ方が酷いと農家間で問題になることもあります)
あ、あと生協とは全く別物です。これはどうも商業施設調査を趣味としている者でも結構間違えられます。どちらも協同組合=Coopなので混同されがちなのですが、根拠法令がまず違いますし、直接関係はほぼないです。ちなみに、生協の店=コープは法律上基本は組合員でないと利用できないのですが(この辺の問題点はまたいつか書きたい)、農協の店=Aコープはだれでも利用できるので、バンバン使っていきましょう。
特徴は、全国に展開していることが挙げられます。北海道から沖縄まであります。全国に展開する「食品」スーパーは珍しいですね。総合スーパーならイオンや過去のダイエー、サティなどいくつかありますが、食品だとイオン系のマックスバリュと、少々特殊な業務スーパー、そしてこのAコープくらいではないでしょうか。
こちらがAコープの店舗一覧です。これは過去に私が作ったものなんですが、2022年末くらいとちょっと古いです。北海道から沖縄まで網羅している一方で、都道府県ごとにみるとこの時点で千葉・栃木・埼玉には1店舗もありません。昔は47都道府県全部あったと思います。
もう一つの特徴は、過疎地に強いということが挙げられます。おらの街にはAコープしかねぇ!ってやつですね。
というより都市部への進出事例は特に首都圏はかなり少ないです。ただし首都圏西部(横浜・町田・相模原・平塚など)に何店舗かあります。特にAコープ中田店は駅前と称しても問題ないレベルの好立地で、関東Aコープの事実上の旗艦店と化しています。
これには歴史的経緯が関係していて、「昔畑にしかない地域にスーパー作ったったww」って感じでまぁかんたんにいえば農協しか地域にないから作ったとの歴史があります。では、Aコープの運営体制がどうなっているのかを、ここから見ていくことになります。
2.Aコープの運営体制
2.1農協とAコープの成り立ち
Aコープは先も述べた通り、JA(農協)に付属している事業で、そのうちの購買事業の一部にあたります。例えば「生活供給事業」だとか言われるのがAコープですね。ちなみにJAの購買事業で現在最も大きいのはガソリンスタンドです。JA-SSとか、北海道ならホクレンスタンドとか見たことあるんじゃないんでしょうか(そして、日曜定休で給油できず詰みかけたことがあります)。
JAは特殊な組織です。その深みにはあまり入らないようにしますが、Aコープもその影響を受けた特殊な組織となっているのもまた事実です。
農協は、農家が一人で出荷したりいろいろ(機械とか肥料とか)仕入れるのは大変だから、周りの人々とまとまってできた組織です。そのため、最初の農協は集落単位とかそのレベルでした。もっといえば、農家同士がお金を出し合って作るものだったのです。今でもこの制度は維持されていて、「相互扶助(お金を出し合って助ける)」ということになっています。
今のJAのシステムが始まったのは戦後すぐです。戦時中に国の指揮下に入った農業会の解散が命じられ、今のJAにつながる農協が全国に13,000ほどできたそうです。その後徐々に農協同士は合併していきます。最初は「隣町と一緒にモノとか買った方が便利」とかその程度でしたが、ご存じの通り日本の農業は弱かったため、財政が弱いところが多かった(今も)のです。そのために、改革の一環として規模を大きく合併していくところが増えていきました。1980年の時点で4500程度、現在は650程度にまで減っています。
現在のJAですが、実際にはJA香川県のように「1県1農協」になっているところから、JA横浜のような「1市1農協」、JAさっぽろのように周辺市町村を合わせてるところもあれば、北海道美唄市は人口2.5万程度ですが、JAみねのぶ(南部)・JAびばい(北部)と並立しているなど、その統合の段階は様々です。
Aコープもまた、この流れに準じます。
①まず、農家が買うための食品を農協が販売します。
②1969年ごろからスーパーができてくると、それをマネしてスーパーになります。JA本部もそれに合わせて供給を始めます。
③その後合併によって、そのスーパーもより大きな農協の運営になります。
こうなってくると、スーパーを何店舗も抱えることも出てきました。また、品ぞろえとかもやはり都市のスーパーには敵わず、苦戦するところもありました。このために、昭和44(1969)年にAコープというブランドができたのです。この経緯により、一昔前(90年代まで?)は「Aコープは各JAが運営するもの」というのが多数派でした。今もこのタイプの店舗はありますが、だいぶ少数派、2割程度になりました。
では何をやっているかというと、JA傘下から切り離し、JAの都道府県ごと、あるいはそれより大きい連合の下でAコープを集めることをやっています。なぜそんなことをやっているかというと、小売業は小売業同士一つの株式会社にした方が成功する可能性が高いから、といったところでしょう。
ちなみにもっと厳密な話をすると、元Aコープチェーン、その後のAコープ協同機構というのが存在するのですが、これに入っているAコープと入っていないAコープがあるっぽいんですよね。そういうわけで、今回は話としてはAコープ「チェーン」には突っ込まないことにします。そういうものがあるんだな程度に聞いといてください。
※JA経済連とJA全農の都道府県組織
ここから、少々JAの組織の話に突っ込みます。めんどい人はこのチャプターは読まない方が身のためです。
JAの連合の本部をJA全農といいます。厳密には、これはJAのうちの経済事業、具体的には農協商品の販売や商品の仕入れなどを全国的に担う組織です。当然購買、Aコープもここに含まれます。そしてこの下部組織かつ実働部隊となる組織が基本的に都道府県ごとにあり、これは例えばJA全農かながわ、JA全農山形などとあるのです。
…と、ここで話が終われば早いのですが、JA全農の下部組織が存在する都府県は32に過ぎません。逆に言えば15の道県は、全農が存在しないのです。
少し話を遡ると、近年の農協改革では、各都道府県に経済事業の本部として「経済連」が設置されました。これは多分47都道府県に設置されました。しかし、このうち32の経済連は、先述の東京の本部組織JA全農と経営統合して、現在のJA全農の都道府県組織ができたのです。一方で、2つのパターンで、JA全農と統合していない場合があります。
まず一つ目に、「道県経済連が存続しているパターン」です。これにはJAあいち経済連、JA和歌山県農などが含まれます。特筆するべきなのは北海道のホクレン農業協同組合連合会(ホクレン)があり、農業大国北海道としてほかの都府県の経済連とは独自の歴史を歩んできたものです。現在では一応北海道の経済連、ということにはなるのですが、その大きさはほかのJA経済連とはレベルが違うほど大きいです。そこまでなくとも、これパターンは、「わざわざ全農と統合する必要がないよね」と判断している地域で、平たく言えば農業出荷額が多い地域が多いですね。
二つ目に、「そもそも経済連が必要なくなったパターン」です。簡単に言うと、経済連はJA同士を無理やり結び付けているものです。つまり、都道府県内にJAが1つしかなければそもそも不要です。そういうわけで、1県1農協の奈良や沖縄には経済連が存在しません。全農組織も不要なので、島根はJAがすべて統合した際にJA全農しまねを解散しています。ただ、大分のように1県1農協でも全農を存続している場合や、佐賀のように逆に厳密には県内統合を終えていなくても経済連を解散してしまったパターンもあります。
2.2じゃあ今Aコープはどこが運営しているのさ?
前の章をまとめると、今のJAでAコープに関わる都道府県組織には3つのパターンがあります。覚えなくてもいいです。
①JA全農の都道府県組織
②都道府県のJA経済連(ホクレンも含む)
③1県1農協による運営
Aコープの8割程度は、現在これらの組織傘下の運営となります。一方、2割は先ほども言った通り各JAの運営です。
しかし、さらにややこしいことに、現在JA全農は、Aコープについて、ほかの都府県との統合を積極的に行っています。
結果として、今のAコープの運営組織にも、3つのパターンがあります。
①各JAによる運営
これは単純です。それぞれのJAが自分たちで運営しています。
北海道でいうと、(いずれもJAを頭文字につけて)北宗谷・東宗谷・宗谷南・えんゆう・ゆうべつ・サロマ・士幌町・上士幌町・足寄町・標津町・道東あさひ・中春別・はまなか・釧路太田・阿寒町・釧路丹頂・十勝池田町・鹿追町・帯広市川西・虫類・音更木野・広尾町・日高・ひだか東・夕張市・びらとり・とまこまい広域・伊達市・とうや湖・新はこだて・今金町・ようてい・そらち南・長沼・いわみざわ・びばい・みねのぶ・ピンネ・旭正・北ひびき・るもいに存在を確認しています。
…とこれはひどいことになっているものですが、やはり北海道は多く残っています。これでもだいぶ減ったようで、最盛期の90年代には北海道だけで100以上の農協でAコープ事業を見つけることができたようです。実際、このような伝統的なAコープも北海道外はここまでではないですが残っています。
派生形としては、「各JAの資本が入った子会社」というパターンもありまして、有名なのはJA鳥取中部の傘下に存在した「トスク」というのがありました。
このタイプのAコープはかなり自由で、店舗によってさまざまな形態がみられます。北海道のAコープでいうと、JAようていは「Aマート」とという独自のAコープの発展型を作っています。システム的には、JAいわみざわはdポイントを導入していますし、鹿児島県離島のJAあまみはJALの特約店(JALカードで貯まるマイルが2倍)らしいです。JAみねのぶなんて、コープさっぽろから商品供給を受けていて、Aコープ側からは多分受けてないですし、JA高知県はAコープを民間スーパーの「サニーマート」のFC事業にしちゃいました。
そもそも、JAの運営する食品小売店だからと言って、必ずしもAコープを名乗る必要はありません。というか、Aコープ協同機構に加盟していまぜん。かつてのAコープチェーンでは各JAごとに加盟していることも多かったのですが、今のAコープ共同機構ではそれは認められていません。というわけで、厳密にはこのタイプ、「Aコープの皮をかぶった何か」になります。
例えば、東京都利島では島で唯一の生鮮品取扱店をJA利島が運営していますが、Aコープとは名乗っていないですね。ちなみに20年くらい前にスーパーマーケットのスタイルを導入した結果、ほかの商店を壊滅させるレベルになったようです。あとは高松市の女木島でもJAの支店の中で生鮮食品を販売していました。どちらにせよ、「地元の人たちに商品を供給する」という伝統的な農協購買の形を維持していますが、Aコープとは名乗っていないはず。少なくともAコープ「チェーン」には入っていないと思います。
②各経済連/1県単独JA(の子会社)による運営
ここから、統合が一歩進んだ段階になると、各農協の経済連の子会社などの運営ということになります。これは早いところだと80年代に出来ていますが、統合がここ数年ということも珍しくありません。長々と説明した通り、これにはJA全農の都道府県組織や1県1農協となった県の話も含みます。
これに当てはまる運営をしていて、かつAコープ共同機構に参加しているのは以下の通りです。
北海道…ホクレン商事(ホクレンショップ、ホクレンFoodFarmも含みます)
長野…長野県Aコープ
富山…JAライフ富山
石川…ジャコム石川
宮崎…エーコープみやざき
鹿児島…エーコープかごしま
沖縄…JAおきなわAコープ
このうち、北海道・長野・宮崎・鹿児島あたりは、しっかり利益を出しているようです(ただ順調というわけではないので後述)。ただ、エーコープあいちもあったんですが、2023年3月で解散してしまうなど、全部が良いとは限らんのです。
また、これは③のパターンでも言えることですが、すべての店舗がこの組織の運営になっているとは限りません。前述のように、北海道には各JAが運営するAコープも残存していて、北海道のAコープ運営会社は「ホクレン商事」「20くらいのJAそれぞれ」が並立している状況です。
また、実質これに準ずるところとしては、株式会社フード福井が福井県のAコープを一手に担っていますが、Aコープ共同機構に未加盟です。あとJA香川県2店舗だけあるはず。だからめんどい。あと、沖縄県、JAおきなわの1県1農協なんですが、「JAおきなわAコープ運営のAコープ(機構加盟)」と、「JAおきなわ運営のAコープ(機構未加盟)」が混在しています。勘弁してくれ。
…と、ここまでをまとめると、これはとりあえず「農協の都道府県組織が運営するAコープ」ととらえてください。
③JA全農子会社のAコープ会社による運営
さらに進んで、JA全農がある32都府県については、「隣接している県のAコープと全農主導で合併する」という選択肢が出てきました。
これによってまず、2004年にAコープ神奈川とAコープ群馬が合併してAコープ関東が、2005年にAコープ福岡とAコープ大分が統合してAコープ九州が、大阪・兵庫・奈良のAコープ会社が統合してAコープ近畿ができました。その後2007年には広島+島根+岡山でAコープ中国、さらに2011年それに愛媛が参加してAコープ西日本ができました。
…と、ここまではよかったのですが、さらなる規模拡大による効率化を狙ってか、ここ数年でとんでもない飛び地合併をするようになりました。
その先鞭は、2021年に行われたエーコープ東日本の設立です。これは、東北のAコープの集合体Aコープ東北と、先述のAコープ関東の合併なんですが、東北の展開地域が青森・岩手・宮城・秋田・山形で、関東の展開地域が群馬・埼玉・東京・神奈川です。つまり完全に二つの地域は飛び地です。
そしていよいよ2024年にその集大成、JA全農Aコープが誕生したのです。これは、このエーコープ東日本に、先に近畿の統合を済ませたエーコープ近畿、そして中四国にまたがったエーコープ西日本が合併したものでした。
しかしこれ、JA全農Aコープの展開地域が、「東北」「関東」「近畿」「中国」「愛媛」とかなり分散することになります。
現在の具体的な展開地域は、青森・岩手・宮城・秋田・山形・群馬・神奈川(以上旧Aコープ東日本)・愛知・三重・滋賀・京都・兵庫・奈良(以上Aコープ近畿)・島根・岡山・広島・愛媛(以上旧Aコープ西日本)となっています。ちなみに埼玉・東京・大阪にもありますが空気なので省略しました。あと東京といっても町田なので、神奈川にまとめられますしね。
先ほども述べた通り、北海道や長野のAコープはJA全農Aコープに参加していませんし、栃木や静岡のように、そもそもAコープが絶滅危惧種になっているところがあります。Aコープ九州も参加していません。このようにして、全国組織とはとてもいえないJA全農Aコープは誕生し、よくわからなくなってきました。
【お急ぎの方】今のAコープ展開企業まとめ
というわけで、今のAコープ展開企業とその地域をまとめると、以下になります。
①各JAによる運営…いっぱい。現存するのは全国50JAくらいで、その半分くらいが北海道、な気がする。
②都道府県JA組織の運営…北海道(ホクレン)/長野・富山・石川・福井・香川・宮崎・沖縄・鹿児島の各Aコープ運営会社
③Aコープ組織の運営…JA全農Aコープ(青森・岩手・宮城・秋田・山形・群馬・埼玉・東京・神奈川・愛知・三重・滋賀・京都・兵庫・奈良・島根・岡山・広島・愛媛)/エーコープ九州(福岡・佐賀・大分)
3.閉店が止まらないAコープ
3.1 20年で半減…?
そんなAコープなんですが、近年店舗数の減少が止まりません。実はこれについて、画一なデータを得ることは困難です。Aコープ共同機構に入っていないAコープがあり、先ほど話した「各JAが運営している」Aコープについて、そもそもJA全農などの全国的組織が把握していない可能性があるからです。しかしながら肌感覚として、明らかに減っています。
そうも言ってられないので、北海道に絞ったデータをご紹介します。北海道は農業大国であり、実際にその店舗数は人口比の割に多くなっているのです。しかも、ホクレンが北海道のほぼすべての農協の上にいるので、ホクレン運営と各JA運営のAコープが混在しているにもかかわらず、その店舗数は把握しています。以下はホクレンの資料の一部のpdfです。
これによれば、1999年に302店舗だったものが、2004年に266店舗、2009年に231店舗、2014年に190店舗、2018年に151店舗…と20年で半減ペースです。
さらに、今のホクレンのページでは127店舗とさらなる減少は間違いありません。というかこれも古いと思います。今多分110店舗もないと思いますが、私も知らないAコープがあるかもしれないので自信はないです。各JA運営だとわざわざ最新情報ネットに載せる意味もないのでよくわからないことがあるんですよね…
全国的にはwebでは2005年に1004店舗との記述が確認できますが、私が数年前に集計した際には560店舗程度でした。ここから減っているものもあると思いますし、逆に見落としもあると思いますが、やはり「20年で半減ペース」だと思います。
3.2 過疎化ももちろん原因だが…
さて、そんなめちゃめちゃなAコープですが、このようなことを言われることがあります。「人口減少によって閉店せざるを得ないのが理由」と。実際、この側面を否定することはできません。先ほど述べた通り、過疎地域にAコープは多くある以上、その地域の高齢化は著しい場合が多いです。
しかし、それは閉店の理由になるでしょうか?もちろんなりますが、ちょっと待ってください。そもそもAコープは「農家のために食品を供給する場所」です。その供給場所を潰してもいいんでしょうか?極端な話、そもそも黒字ありきではありません。先ほど例に挙げた東京都利島の人口は約300人、高松市女木島の人口は約120人に過ぎません。これらは農協が食品の店舗を続けています。離島という特殊パターンとは言えども、実際にはこれらより商圏人口が多く、儲かる地盤があるAコープが殆どではないでしょうか。
先ほど私は、そもそも黒字ありきではありませんと書きましたが、そもそも農協全体にこれに近い意識があるとの指摘はよくなされます。すなわち、いわゆる放漫経営です。農協についての問題点の指摘は広くなされている所であり、センセーショナルな部分でもあるので省略します。
何はともあれ、今のJAは経営が悪いです。ダイヤモンド社は、「JA赤字危険度ランキング」を毎年集計して公開しています。仮にAコープが赤字だとしても、その分が農業や金融(JAバンク)で穴埋めできればなんてことありません。先ほどのJA利島は、利島における高級な椿油の出荷をほぼ独占しています。そのおかげでかなり儲かっているそうです。しかし、現実的に多くの農協ではそんなことができません。
具体例として、岐阜県のJAひだにおいては、現在12店舗を運営していますが、2025年2月に10店舗を一斉閉店することを発表しています。私が知る限り、単一のJAで12店舗も運営するところはほかにないのでさみしい限りですが…
この記事内にはこんな記述があります。「地域の買い物先を担保するため、黒字運営する金融事業で補完していたが、近年の低金利政策によりその利益も下落。下支えが厳しくなるとともに、農業関連を含めた全体の経営に影響が出るとして撤退を決めたという。」ということです。
別の例を紹介しましょう。JA鳥取いなばの子会社である「トスク」も2023年9月までに全店舗閉店したことは記憶に新しいところです。これはNHK「クローズアップ現代」で取り上げられるなど、全国的に話題になりました。ここはその規模は10店舗と店舗数だけで言ったらJAひだに劣りますが、本店は衣料品の取り扱いや、百均やエディオンなどが存在するなど、GMSの様相を呈していたほか、郊外型スーパーの店舗もあり、かなり購買事業に力を入れている所でした。
こちらの記事曰く、やはり閉店要因には「JA自体の経営」が関わっています。「JA経営の十分な健全性を確保するための苦渋の決断」とのことです。店舗の経営には、毎日の食品の仕入れはもちろん、継続的な冷蔵庫の入れ替え、場合によっては老朽化した店舗の建て替えなど、必要経費は想像以上に多いです。そうなると、JAがそれに耐えることはできないのは無理もありません。この記事内では、「(テレビにおいて専門家が)「この問題は、地方のみならず今後全国で起こりうる」と指摘した。換言すれば、全国どこのJAであってもおかしくない事態ということである。」と記載されています。
しかしながら、これは既に全国で起きていることであり、何も鳥取が先駆者ケースですらないのです。良くも悪くも、Aコープの経営よりも、JAの経営が重視されていることになるのです。JAの経営が良い場合や重視されていない頃はむしろ問題なかったのですが、今はもうそうはいかないのです。
この「特定のJAに依存しない」ことの正解は、経営統合を行ってしまうということです。具体的には、先ほどの②や③、すなわち、広域のAコープ会社に経営を任せるということになります。実際、現在閉店が相次いでいるケースは、どちらかといえば①のケース、すなわち各JAの運営店舗が相対的に多いです。②について、特に先ほど述べた通り、北海道・長野・沖縄あたりは、一定の成功を収めているとは言えます。じゃあ経営統合を行えばOKでしょうか。いいえ、まったくそんなことはないのです。
3.3 「弱者の寄せ集め」
さて、経営統合を行うことで、ある程度効率化を行うことが可能かもしれません。少なくとも、店舗ごとに多少の赤字でも、なんとか維持するという考えをとることも、会社全体で黒字であれば許容されますし、極端な話、赤字でも元の組織が大きくなるのでどうにかなります。
ここから②の都道府県単位の経営について考えていきます。先ほど言った通り、ある程度安定しているAコープ組織はいくつか存在しています。しかしながら、それは競争力があることを意味しないという別の問題が発生することがあります。
そもそも、儲かっている①のタイプのJAは、わざわざAコープ事業を手放しません。少なくともAコープで黒字であるのならばその事業は続けるべきでしょう。実際、一昔前のトスクはそのような形で、Aコープを分離して10店舗を抱える大所帯だったのです。
つまり、これらのタイプは「弱者の寄せ集め」である場合があります。もっとも、北海道の場合は、札幌市内の店舗も歴史的経緯から結構あるんですけど。
そして、Aコープは相対的に過疎地が多いですが、さすがに比較的売り上げが立つ店舗はどちらかといえば地域中心部にあるものです。今より競合が少なかったころ、地域によっては農家が少ない都市部にも積極的に進出を行いました。例えば、先ほど言った通り、ホクレンショップは札幌市内にも多くあります。入居していた施設の閉店で消えちゃいましたが、札幌駅前にすらホクレンショップはありました。
ということは、Aコープも他の小売業と競合することになるのです。Aコープの競合との競争力は2つあとの章でまとめて述べるんですが、いくら農協とはいえ、どこまでいっても最後はここになってしまうのです。
3.4「弱者の寄せ集めの寄せ集め」
繰り返しになりますが、そもそも、儲かっている②のタイプのJAは、わざわざAコープ事業を手放しません。
さて、そんなわけでできた③のパターン、そのひとまずの完成体がJA全農Aコープというわけですが、見てきた通りこれは「都道府県Aコープ組織の弱者が集まってできた組織」です。これは②以上に目に見えています。
②については、基本的に都道府県の農協組織が各農協の上にいるんですから、そこにまとめることは比較的困難はないのかもしれません。しかし、③の場合、わざわざ儲かっているAコープ会社を全農に手放すメリットなど存在していない、と思います。赤字会社は押し付けた方いいですが。
今のJA全農Aコープを構成する、エーコープ東日本も、エーコープ近畿も、エーコープ西日本も赤字だったのです。さらにさかのぼれば、それらを構成する府県単位のAコープ組織も、おそらく経営が良くはなかったことでしょう。だからこそ全農に主導権を渡したのです。
「悪い経営状況の者だけが集まっていく」。全農という一つの組織ではなく、あくまでJAごとにその指揮権はあるというのは、このような問題を引き起こしています。
3.5 田舎でも都会でも別に民間スーパーでよくない…?
章題の通りです。確かにAコープには一部、都会で一定の人々が利用しているパターンがあります。多くは、「Aコープくらいしか近くにない」というパターンなのかもしれません。都会の場合は、Aコープとイ〇ンがあったら、後者に行く人が多いのは残念なことに容易に想像できます。
しかし、地方でも競争は起こるのです。Aコープのライバルは何も大手スーパーだけではありません。
まず一つ目に、コンビニがあります。コンビニは大手スーパーとなるとなかなか対抗ではなく両立するものになるのですが、「Aコープvsコンビニ」だと割とかち合う場合が多いです。Aコープに限らず、個人商店でも、やはりこのような地域独占型の小型のスーパーは価格はそんなに安くなかったりするものです。そうすると、コンビニも日常的な買い物で軍配が上がりかねません。これがセイコーマートのように割安な商品が多いものだとなおさらです。
そして、「地元のスーパーやドラッグストア」も競合になってしまいます。近年、中堅クラスのスーパーやドラッグストアが、自分の本拠地や周辺の地方都市が飽和状態になってくると、人口数千人レベルの過疎地にも出店することは全国的によく見られます。大手スーパーは狙いにくいニッチな市場であるのですが、十分利益が出せるという判断でやってきます。場合によっては、商圏の開拓や地方貢献、配送拠点などの様々な事情で、十分利益が出せなくともやってきます。
これは消費者にとっては価格破壊を引き起こす良いことです。しかしながらそうすると、既に存在していたAコープや個人商店は歯が立ちません。価格もそうですし、店舗も明らかにそちらが奇麗になっています。しかも、Aコープなどより体制がととのっていることで、過疎地であってもより利益を出しやすいということが非常に多いです。過疎地であってもAコープの跡地に民間のスーパーが進出する例は数多いのです。これではAコープの本来の価値すらコテンパンにされてしまいます。
結果、Aコープというのは、本来の存在価値すら失いかけています。Aコープがある場所というのは、ある意味で、本当に「Aコープしかないから仕方なく」みたいなところだけが残るようになってきましたし、しかもいざAコープが閉店すると、民間スーパーもやってくるという例も多いのです。簡単に言えば、Aコープは独占しているうちはいいんですが、そのあとが全く競争にもならないのです。
なお、横浜市などで残っているAコープであっても、「周りにスーパーがないから仕方なく使っている」例が多いです。神奈川県は地味にスーパー空白地帯が多いのです。地方における一つ具体例を紹介しておきます。
これは北海道遠別町の例ですが、この町の人口はわずか3000人です。しかし、Aコープは閉店。かと思いきや、跡地には生協のコープさっぽろがやってきました。北海道におけるコープさっぽろとは、全道で2位~3位のシェアを誇る、十分道内大手といっていい競争力を持っています。北海道道北は特に、「Aコープの跡地にほかのスーパー」が目立ちます。Aコープがだめでも、地域の大手なら大丈夫。そういう立地条件のAコープがどんどん閉店していっているのです。
4 Aコープの今後
もっとも、この章の分析はかなり「JA全農Aコープ」をはじめとする広域的なAコープ会社の話に偏ってしまいます。
4.1 生鮮は強い、が…
最後にAコープは今後どうしていくのか、そこを考えていきましょう。Aコープの強みはなんと言っても「農産物」でしょう。自分たちで質のいい農産物を売れるという強みは、確かに間違いないものです。
Aコープ共同機構には、「できるだけ地産地消」というルールがあります。最もいいのは地元産、次いで国産で、海外は極力避けます。こうすることで、「安全で、新鮮なモノ」を一つの売りとしています。なお、これを訳すと「セーフティアンドフレッシュ」となり、その略称が「セフレ」、こうして福井県南砺市には「Aコープなんとセフレ」が誕生してしまいました。
でもそれって、何もAコープでやる必要あります?道の駅とかで農産物を直売すればいいのです。そういうわけでAコープから撤退した地域でもそのような店は多く見られます。JAの農産物直売店はむしろ増加傾向にあります。なにも無理してスーパーマーケットをやる必要はないのです。Aコープの名前を使うにしても、旧Aコープ西日本は、自社製品は農産物を中心にしてファミリーマート+Aコープを展開していますし、セブンイレブン/セイコーマート/ハマナスクラブ…ローソンだけちょっと知らないのですが、コンビニと組んでいるAコープは全国に散在しています。それで十分かもしれませんね。
4.2 「スーパーマーケットの価値」とは何なのか
ここでAコープが今とっている戦略について、もう少し掘り下げた記事を紹介します。
このように語っている織田氏は、先ほど話した路線を維持したいことがわかります。Aコープは少なくとも価格勝負に持ち込むスーパーではないことは明らかでしょう。
しかし私は、それを求めてAコープに行く客がどれだけいるかには敢えて疑問を呈します。安いものを求めている客だけではないのかもしれませんが、ぶっちゃけAコープよりは競争力が高い生協や一部のスーパーでも同様のブランディングは行っていますし、むしろ「有機野菜」などはむしろJAがあまり取り扱っていない分野でしょう。
繰り返しになりますが、地元の農産物を買いたければ、農産物直売所があればよいのです。
しかし、そんなエーコープはスーパーマーケットをあきらめてはいません。実際、Aコープは商品の自社開発の力をいれているところです。Aコープ店舗では、エーコープマーク品、全農ブランド商品、ニッポンエールの3つの全農開発ブランドを取扱っています。もちろん、調味料からデリ商品まで取り扱いがあります。これらについては、先の織田氏は真っ先に触れていたところです。ここに価値を作ることは可能なのでしょうか。かなり前途多難のようにも思えます。
商品開発は大事であることは言うまでもありませんが、いっそのこと、かなり思い切った商品政策をとらないと、変わることはないと思います。やっぱり、Aコープマーク品といわれても田舎っぽそうだし…。
4.3 意味のある統合はできるか?
織田氏は、「Aコープ店舗の競争力強化に向けた目標は全国1社化だと思っている。」と述べました。この事由として、「システムを統一し、商品政策や売場政策を標準化し」というところを挙げています。やはり、規模のシステムを構築することでどうにかしようとしている面が見られます。
これ、北海道や長野のように、独立性が強く、黒字を出している会社を巻き込むことができるのかが焦点になっている気がしています。今のところ、これらの会社に動きがないことを考えると、必ずしもうまくいっていないような気がしています。現状のまま「赤字を寄せ集めただけ」というようにならないように期待したいところですが、今のJA全農Aコープのサイトが地区ごとに統一されていないのを見ると、唸ってしまう自分がいます。
現状のままだと、黒字のAコープを生かすことが難しいどころか、そもそも統合したからないような気がします。農協の力関係はよくわかりませんが…
4.4 Aコープが生き残るための「投資」ができるか?
Aコープには老朽化店舗が多く、閉店対象になってしまうことは先に述べた通りですが、なんとかこの流れを断ち切ることはできないのか、という話をします。結論から言うとなかなか出口が見えない話です。でも、これは本来「スクラップ&ビルド」という流れにつなげることができるはずなのです。
古い店舗を潰して、新しい店舗を建てて時代に合わせる。商売の鉄則の一つです。もちろん、これは多くの投資を伴うことは言うまでもありませんが、競合に耐えるためには、これを行うしかないのです。今の農協にそれまでの投資をすることができるのかは知りません。できないのでしょうか。できないのであれば、もう撤退するしかないかもしれません。
もちろん、0になるわけではありません。東京都利島のように、純粋な住民の配給機能が必要な店舗は、今後も残していくのです。
しかし、それくらい本当に出口が見えません。どうすればいいんですかね…?
4.5 結論:Aコープの再定義が必要
Aコープは、現在のところ単独で生き残ろうとしていますが、別に孤高でようとしているわけではなく、流通業との協業は十分視野に入ります。これは先のインタビューでもそう話されていました。
その相手とはどうするのでしょうか。大手小売業でしょうか。農産物売場にAコープを入れてもらうことはできるのかもしれませんが、それでは農産物直売所と同じですよね。わざわざ無理してスーパーマーケットの体を保たなくてもいいのです。
Aコープを主軸としたスーパーとして、いっそのこと商品配給を他にしてもらうことは考えられます。現に、Aコープと全日食の間で提携はすでに結ばれているらしく、一部商品の提供を全日食から受けている店舗もあるそうです。これをより強化すれば、すこしでも競争力のあるスーパーはできるのでしょうか。
私はそもそも、Aコープ、特にJA全農の今の考え方のままだといずれにせよ難しいと思っています。Aコープ店舗の経営理念は「地域社会の発展をめざす身近な拠点」「安全で新鮮な国産農畜産物の販売拠点」ということですが、後者は直売所で十分なわけです。前者を掘り下げるにしても、これ、「農家が元気に働ける拠点」のような考えのようで、やはり直売所で十分です。この経営理念を変えろ、とまではいいませんが、地方インフラを超える価値提供が今の考えのままだとできないと思います。スーパーとして存続していくには、再定義が必要ではないでしょうか。
とはいえ、私は地方のインフラとして、農産物と一般消費者をつなぐ架け橋として、Aコープは存続していくことが理想だと思っています。どうにかして、Aコープの新たな形、理想としては「スーパーマーケットの新たな形」を見つけていってほしいと思っています。農協傘下というのは、それができるだけのポテンシャルを本来秘めていると思います。
もう手遅れなんでしょうか。そうではないと、私はまだギリギリ信じています。趣味的には、Aコープはもしあれば行っといたほうが後悔はないかもしれません。