妊婦のトキメキ

妊娠7ヶ月が終わろうとしている7月の話。
仕事を終えた私は最寄りの駅から自宅まで歩いている。
本日のコーデは膨らんだお腹に黒のタンクトップ、ウエストがゴムの黒いタイトスカート。
エコバッグにスーパーで買った食材をパンパンに詰めた私はすっかり人妻しっかり妊婦。

あと数分でマンションに着く頃、小走りで青年が話しかけてきた。

すみませんっ
道に迷ったのかと思い振り返った

無印良品にありそうなTシャツにチノパンを履いたその青年は、学校帰りなのか大きめのトートバッグを持っていて20代前半の大学生に見えた。
前髪のあるサラサラヘア、色白茶髪。
おどおどしているのか焦っているのか分からないが立ち止まった私にびっくりしている。
いやこちらの方がびっくりだ。

いきなりすいません
お綺麗だったので話しかけました！
数分だけで良いのでお話ししたいです

頭を下げている
緊張しているのがこちらまで伝わってくるような
なんとも見事なさわやかさで。
ドラマだったらここで確実に桜吹雪が舞ってるはず

なるほど。おそらく丁寧にナンパされたので私も丁寧にお断りすることにした。既婚者で妊娠中であることを彼に伝えると、お腹の大きさにも、私が10近く歳上だとも思わなかったみたいだった。

諦めなきゃだめですよね。
と青年は言い



ごめんね。ありがとう。
と私はなぜかお礼をして立ち去った

もしこの時連絡先を交換してたら。近所に友達が居ない私のお散歩仲間ぐらいになったのだろうか。そんな妄想だけでお腹いっぱいだ。
トキメキから遠い場所にいる私に声をかけてくれた礼儀正しい青年、どうもありがとう。
おかげでトキメキホルモンが分泌されたよ。