最後の梅干し
私の好きな食べ物の中で
「梅干し」というのは
特にこだわりのある食べ物だ。
梅干しと言っても種類が何種類もある!!
はちみつ、かつお、しそ、カリカリ、ふにゃふにゃ、薄い色、真っ赤。
その中でも私は「真っっっ赤で紫蘇」の塩っ辛い田舎梅干ししか愛せないへんくつな女だ。
昔、商店街にかさいという八百屋があり、そこのおばあさんが漬けた梅干しが大きな赤い蓋の瓶に入って8000円で売っていた。その梅干しが絶品で、兄と競うようにして食べ、常に2人の口の中にはこの梅干しの種が入っていた。私が小学校を卒業するころ、梅干しの達人のおばあちゃんがなくなってしまい、販売されなくなってしまった。泣いた。
その伝説の味を求めてスーパーを探し回り、ついに見つけた近い味が道の駅に見知らぬおばあが作った梅干しであった。
山野きぬゑ
名前だけでおいしい梅干しを作りそうである。
兄と私はこのきぬゑの梅干しを大きな赤い蓋の瓶に入れ大切に食べた。
しかしそんな幸せも長くは続かない。
きぬゑの梅干しは道の駅から消えてしまった。
中学2年生の時、お父さん方のおばあちゃんが見かねて梅干しづくりを提案してくれた。梅干しを作るなんて、考えてもなかった。てっきりあんなにおいしいもの、天からの授かりものか何かかと…
6月。
おばあちゃんからいいブツが手に入ったと連絡がきた。
甘い香りのするみどりのおしりを丁寧に拭き、傷つけないように、つまようじでヘタを取り除いた。お酒を振りかけながら塩をすりすりしたらまた今度。
それから2週間ぐらいたってから赤紫蘇を加える工程に入る。
私がプールで凍えながら練習している間、おばあちゃんが面倒見てくれていた、やわらかくなった梅に紫蘇を塩もみして入れていく。おばあちゃんのしわしわの手がピンクに色づいて、私の手をきれいな手と言って拭いてくれた。
それから3日間干したりとかいろいろして完成した真っ赤な紫蘇梅干し。「手塩に掛ける」を体験した一口目の梅干しに脳天ぶち抜かれた中学2年生の夏だった。
妹は今まで梅干しが嫌いだったが、この梅干しのフルーティーな美味しさをキッカケに好きになってしまい、私と兄に梅干しを争うライバルが増えてしまった。
それから何年かして大宰府に行った時、大宰府の梅の木になる梅で作った梅干しに出会った。ある季節にしか手に入らないこの梅干しは、あのおばあちゃんと作った梅干しにそっくりで驚いた。パツパツの薄皮に包まれたフルーティーな梅肉がみずみずしくはじけて中学2年生の夏に戻ったような気分だった。
みんなも大宰府に行ったら探してみてほしい。大宰府天満宮は梅干し屋さんです。今年も受験生が必死に手をたたく中、私はおばあちゃんとの味を求めカラフルなお守りが並ぶ列に並ぶ。
ビートルズ味のあるメロディ。
梅干したべた~い!
おばあちゃんと梅干しを作ったのはあれが最初で最後だった。最後に大切にとっておいた梅干しは紫蘇に隠しておいたのに、まんまと兄に食べられてしまった。
ゆるさない。
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