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鉛筆さんとシャープペンさんの討論会

「中身が勝手に変えられてるのに
それでもあなたは生き続けたいの!?
中身が変わったあなたは本当にあなたって言えるの?!
大切なのは、身を削ってでも書き記していくこの中身じゃない!!」


4B鉛筆さんが大声で叫びます。
HBさんも2Bさんも4Bさんを懸命に抑えながらも
うんうん。と大きくうなづき
Hさんは薄く固いからだを震わせて涙目になっています。

泣いてはいけません。
鉛筆さんが涙を流したら
二度と戻ることはできません。

そんな鉛筆さんたちの様子を硬い表情のまま直視し続けているのは
シャープペンさんたちです。
一本のシャープペンさんが、前に出てきました。

「これを見なさい。」

シャープペンさんが羽織っていたハンカチを取りました。

そのとたん鉛筆さんたちは息を飲みました。

持ち手の部分は黒く汚れ
カバーがボロボロになっています。

消しゴムを覆う小さなキャップはなくなり
身体のあちこちに傷がついています。


他のシャープペンさんたちも
少し涙目になりながら
前に立つシャープペンさんを見ます。

「この身体はもうボロボロです。
何度も机から落ち
机にたたきつけられ
くるくると回され
ある時には落とされたあげく
誤って踏みつけられることもありました。

こうなるまでに何度も何度も
中身を、私たち筆記具としての命である
芯を交換してきました。

確かに、鉛筆さんのように文字通り
身を削られて芯とともにその生涯を終えられること
それが我々筆記具の理想の形なのでしょう。

しかし、われわれにはその命を守るこの
固い身体があります。
傷は癒えることなく
消えることなくずっと残り続けます。

これは苦しいことです。
傷を持ち続ける苦しさ、鉛筆さんわかりますか?
鉛筆さんたちの傷は身を削ると言う行為によって
消える。
しかし、身体の寿命は短くなる。

身を削る鉛筆さんも
傷を抱えて生き続け我々シャープペンも

書くという
我々筆記具の使命を全うしてきた証なのです。

・・・いつか私は消えることなくただ・・
ゴミとして捨てられるでしょう・・。

しかし、それでも
受験という人間の人生の大舞台に向かう
持ち主を支え、何度も書き
痛みにも傷の屈辱にも負けずに
筆記具としての使命を果たしている我々は
鉛筆さん同様、命となる芯を全うしているのです。

この身体の傷こそが自分であるという証。
持つ傷は同じシャープペンといえどみなが
違うのです!
中身が変わっても、私は私だ!」

シャープペンさんたちから大きな拍手が起こりました。

コンコンコン!!

「静粛に。」

議長である定規が言いました。

「鉛筆さん。
シャープペンさん。

我々定規はあなたたちのような筆記具さんがいないと
生きていけません。
私たちは、ただ私だけではなんの役にもたたないのです。

あなたがたの話しを聞いて実に羨ましかった。
自らのその筆記具としての命を己だけで全うできること。
そして、その誇り。
本当に素晴らしい。

私の身体はこの通り真っすぐです。
鉛筆さんが書いても、
シャープペンさんが書いても、
真っすぐな美しい線を引くことができます。

私の役目は、あなた方筆記具を真っすぐに導くことです。

長く生きていれば
絶対に傷はつく。

その傷を自らの誇りとして苦しみながら抱き続ける
シャープペンさんも

傷がつけば、その身を削って己の美しさを保ち続ける
鉛筆さんも

どちらも自己がある立派な筆記具としての生き方です。

これからも、我々定規は
筆記具さんたちがいてくれることに感謝しながら
真っすぐに導いていきます。

これからも三者三様。
手を携え机という我々の人生のステージで
輝き続けましょう。」

鉛筆さんたちとシャープペンさんたちから
大きな拍手が起こりました。

鉛筆さんの代表と
シャープペンさんの代表は熱く
互いを抱きしめ合いました。

その様子を
ガラスペンさんの代表と
ボールペンさんの代表が見ています。

次はどんな討論になるのでしょうか。



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じゅり
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