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五感と生きる

 少し心が浮かない夕方。悲しみのニュースで心を壊さないように、散歩に出かける。カメラを持って。
 いつもの散歩道。私にはその散歩道の中でとっておきの場所がある。そこに着くのを楽しみに、歩く。自分の足で、自分の意思で。
 どこからか美味しそうな焼き魚の香りがする。お魚を食べるお家があるんだな。少し口角が上がる。
 どこからかリコーダの音が聞こえてきた。もしかして明日音楽でリコーダーのテストがあるのかな。がんばれ!心で応援する。
 どこからか優しい風が吹く。冬に頬に当たるのは寒いが、冬を感じられて嬉しい。
 どこからか小さな葉っぱが落ちてきて、手に当たる。この冬になっても一生懸命生きていた葉なんだ。そう思い、そっと植木の下に置く。

 着いた。少しの散歩道だが、五感を感じ、歩き、私のとっておきの場所である、夕焼け空が見渡せる場所に着いた。
 この景色を目に焼き付けよう。そして、私の生きている証を残すため、写真を撮る。

 悲しみに溢れている日々、明日を不安に思う日々、私が今日も行きたご褒美に、そして明日も生きるために、美しい景色を五感で感じる。
そんな冬の日。

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