タコとの甘美な絆について:「オクトパスの神秘:海の賢者は語る(Netflix)」
「オクトパスの神秘:海の賢者は語る」はことしのアカデミー賞長編ドキュメンタリー映画を獲得したNetflix限定配信作品だ。とても気に入ったので、紹介したいと思う。
南アフリカの美しい海を舞台に、映像作家の男性と1匹のタコの約1年間にわたる交流を描いたドキュメンタリー。映像作家のクレイグ・フォスターは人生に疲れ、癒しを求めて南アフリカの海に潜る日々を送っていた。そんなある日、海中で1匹のタコに出会った彼は、その驚異的な生態に魅了され、毎日そのタコのもとへ通い始める。クレイグはタコとの特別な絆を築いていく中で、自らの人生を見つめ直していく。第93回アカデミー長編ドキュメンタリー賞受賞。Netflixで2020年9月7日から配信。
引用元:映画.com
まったくそそられない無味乾燥のタイトルだが、内容は非常に面白い。仕事のストレスから精神を病んでしまった映像作家が、ふるさとに帰り、療養のために海に潜る日々を送る中で、一匹のタコに出会う。彼はそのタコを「彼女」と呼び、徐々にその魅力に取り憑かれていく…というお話。
タコと絆を築くおじさんの映画なんて聞くと、そんなわけあるかと思うかもしれない。タコが人間に懐くのだろうか。仮に知能があったとして、コミュニケーションなど図れるはずもない。僕も同じように思っていたのだけれど、この映画はそういうタコに関する固定観念を見事にくつがえしてくれる。そして、いつのまにか僕自身も「彼女」の虜になってしまった。見ているうちに、「彼女」の一挙一投足すら愛おしく思えてくるのだ。イヌやネコにたいする感情とも少し違う。それはすくすくと成長していく赤ちゃんを見守るときに湧いてくる親しみに近い。あるいは、映画のおじさんみたいに、甘美な恋心に近い気持ちを抱くひともいるかもしれない。まさか自分がタコにこれほど複雑に心動かされるとは思いもしなかった。ぜひとも多くの人に体感してほしい作品だ。
一方、この映画にまったくハマらないひともいるらしい。僕の友人がそうだった。これは個人的な意見だけれど、ロマンティックな恋愛映画が好きなひとはハマりやすいだろうと思う。人間とタコの圧倒的な寿命の差に、マイティ・ソーとジェーンの悲恋を思い浮かべるたぐいの心をお持ちの人には、ぜひともおすすめしたい。また、ドキュメンタリー映画だからといって、そこに映されるものが「真実」とは限らないことは注意しておくべきだろう。ドキュメンタリー映画にはドキュメンタリー映画の現実の切り取り方があり、また、それは監督の持つ感性や思想によって変わってくる。本作も、作り手の作為を感じる場面がないわけではない。
「オクトパスの神秘:海の賢者は語る」はドキュメンタリー映画でありながら想像を超えたドラマティックな現実に感動すると同時に、面白いがゆえの危うさも感じる映画だ。見るひとによって全然感想が変わってくる映画だと思うが、アカデミー賞も納得の内容なのはたしかである。ドキュメンタリー映画に興味がないひともどうぞ。
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一本のnoteで書くほどではないけれど、最近ふれて気になったコンテンツの話。
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「大豆田とわ子と三人の元夫」のエンディング曲。STUTSのトラックにのせて、毎週異なるゲストMCがラップを披露する。初回はKID FRENSINO、第二回以降はBIM、NENE、Daichi Yamamotoと続く。ドラマのおしゃれで都会的な世界観とマッチしているし、毎度のことキャスティングのセンスが絶妙だ。公式の音源はKID FRENSINO版しか配信されていないものの、そのうちアルバムとしてリリースされるのではないか。僕はPUNPEEの客演に期待している。
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