本当の理由シリーズ~鑑真執念の航海~
時は奈良時代。命の危険を顧みず、六度目の航海で日本にようやく辿り着いた唐の鑑真和上のお話です。
日本から唐にやって来た僧侶に、仏教を正しい道へ導いてほしいとお願いされ、来日することになった鑑真和上。しかし当時の航海は死と隣り合わせ。一度海に出たら、無事に辿り着ける保証はありません。実際、鑑真が弟子に旅の共を募ったが付いてくる者は1人もいませんでした。
そこで強い決意を持って、何度も台風に巻き込まれたり遭難しながらも、なんとか日本に辿り着き、鑑真は日本の若い僧侶たちを正しい道へ導きました。
しかし実はもう一つ、鑑真がどうしても日本に行きたかった本当の理由があったんです。
唐を出て数日、穏やかな凪の日が続いていたが、そのまますんなり日本に行かせてくれる訳がありません。
ちょうど日本まであと半分という所で、朝は晴れていたのに、時間が経つにつれ、強い横風が吹き出し、大粒の雨は降り出し、徐々に海は荒れだしました。遂には鑑真一行が乗る船はいつひっくり返ってもおかしくない様な状態になってしまいます。
お供「もう行くのやめましょうよ、鑑真和上~。まだここなら引き返すこともできますし~」
鑑真「うるさい、お前は黙って俺の言うことを聞いてりゃいいんだ」
お供「いくら鑑真和上でも聞ける話と聞けない話がありますよ」
鑑真「うるさい。これまで五度も失敗をしてきたことを思い出せ。これぐらいの波は大したことないだろ」
お供「もう和上は麻痺しちゃってるだけですよ。完全に舵を波に持っていかれて、いつ転覆してもおかしくない状態じゃないですか?」
鑑真「悪いことを考えるな。こういう時こそ明るく、歌でも歌ってたらそのうち晴れ間が覗くってもんだろ」
2人は体を船の太い柱に縄で括りつけ、なんとか持ちこたえています。
お供「本当にここでの判断が命取りになりますよ。和上、悪いことは言いません。引き返しましょう~」
鑑真「簡単に引き返すとか言うな。盛大に見送ってくれた人たちの気持ち考えたことあんのか」
お供「盛大に見送ってくれた人たちの気持ちって今回は誰も見送りいなかったじゃないですか。盛大だったのは1回目の航海だけ。そこから徐々に減っていって、今回は見送りゼロ、ゼロ人です」
鑑真「のべだ、のべ。大事なのはのべだ。1回目から見送ってくれた人の数を全部足したら、すごい数になるだろ。その人たちの気持ちを考えろって言ってんだよ」
お供「分かりましたよ。今、これまで見送ってくれた人たちの合計を計算してる場合じゃないでしょ。そんなことより本当に引き返すなら今ですよ」
鑑真「うるさい、絶対に引き返さない。何があっても絶対に日本にいくぞ~」
お供「なんでそんなに日本に行きたいんですか?もう日本にいる僧侶たちにも和上が日本を思っている気持ちは十分伝わってますよ」
鑑真「決まってんだろ。王に言われたからだ」
お供「はい?」
鑑真「王様の言うことは絶対!!・・・だろ」
お供「僕だけ降ろしてくれ~」
この後、日本にようやくたどり着いた鑑真和上とお供は、日本で割り箸に数字を書いておこなうゲームを流行らせることになるのだが、その話はまたどこかで・・・