勇者たち一行~床屋編~
勇者たち一行、きょうは大魔王を倒す冒険はお休みし、各々が自由に過ごすことになった。四六時中一緒にいるわけだからそんな1日があったっていい。
戦士はサウナに行き、賢者は図書館、遊び人はまだ宿屋で寝ている。
そんな中、勇者は休みができたら床屋に行こうと決めていたので、町の住人に床屋の場所を聞いて髪を切りに出かけた。
町の住人に教えられた床屋は見た目も内装もよくあるスタンダードなお店だった。
店主の親父が1人でやっていて、地元民を長年相手してきたことが店内に貼られている客と一緒に写った写真からも伝わってくる。
席に座りカットの要望を伝えると、分かりましたと鏡に映る勇者に向かって店主は返事をした。
礼儀正しい店主で、お喋りも上手く、髪を切っている間、軽妙なトークで勇者との時間を盛り上げてくれた。
店主『こないだ海を渡った先にあるお城の姫様がウチの町に買い物に来るって言うんで、もう町総出で準備に取り掛かったんですよ。「ようこそ」って書かれた看板を立てたり、キラキラした派手な装飾で着飾ったり、それから急遽踊り子チームを作って踊りの練習をしたり』
勇者『それは大変ですね』
店主『姫様と顔を合わせるかもしれないからって髪をセットしたいって人も多かったからウチは繁盛して有難かったけど』
勇者『へぇ。そしたら姫様が来た当日は凄い盛り上がったんじゃないですか?』
店主『それがさぁ。来たのは姫様じゃなくて、シメサバ。海を渡った先にある隣の町から大量のシメサバが届いたの』
勇者『そんなことってあります!?』
店主『どこかでシメサバがヒメサマに変わっちゃったみたい』
そんな話しをしていたら、いつの間にかカットは終わっていて、店主が背後から両手に持った鏡を広げて、鏡に映る勇者の顔を見ながら聞いてきた。
店主『後ろ髪こうなっていますが、いかがでしょう?』
勇者『はい、大丈夫です。ありがとうございます』
返事をした勇者が少し前屈みになって目の前にある鏡を更にのぞき込むと端っこに緑色の物体が映っていた。
そう、勇者の前にバブルスライムが現れた。