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「樹木台帳」

 街路樹の歴史は意外と古いらしい。一説には、紀元前からヒマラヤ山麓の街路に樹木が列状に植えられ、中国では周の時代にすでに壮大な並木があったといわれている。日本には遣唐使によって街路樹の様子が伝わり、奈良時代には畿内七の幹線に果樹が成る並木があり、行政による街路樹はこのころ始まった。

 現在街路樹は、「道路の付属物」と法的には位置づけられ管理されているが、それは結構厳格に管理されているのである。
 僕は別に植物がもともと好きだったわけでもなく、ましてや樹木の種類などイチョウやサクラ、梅ぐらいしかわからなかった。それでも撮ったものの名前ぐらいは知りたいと、図鑑を片手に知ろうとするのだが夜と人工灯に長時間露光という特殊な条件下の木々を写真をもとに特定するのは難しかった。時々木の名前を記載したプレートがついているときもあったが、代表的な街路樹のマテバシイの名前に辿り着くまで、随分と時間がかかったものだ。

    なんとか簡単に植わっている木を特定できないかといろいろと調べていたら、「樹木台帳」とか「植栽台帳」と呼ばれるものがあることがわかった。公園には公園の樹木台帳があり国道や県道にもそれがある。
 そこで国土交通省・東京国道事務所の代々木出張所に問い合わせてみると、確かに「樹木台帳」はあるし、事情を話したところ、それを見せてくれることになった。

    ビオトープを研究していたという若い女性の担当官と上司の方が気さくに対応してくれた。見せてもらった「樹木台帳」はかなり衝撃的で、路線別全体図、路線樹木集計表、路線樹木台帳、植栽樹木現況写真及び樹木特性、そして樹木支柱形式図まである。僕は特に国道20号線の幡ヶ谷から初台に植わる木々を知りたかったが、路線樹木台帳の特に詳細図に驚いた。平面図、断面図、立面図が500/1で作成され、植付間隔、樹高、枝張寸法、樹木名、そして植わる位置までも記載されていて、これはまるで木々の戸籍だと思った。そしてハラン、サザンカ、シャリンバイ、ヒイラギ、カクレミノと全くわからなかった木々の名前がたちどころに判明して行ったのだ。

    首都高の高架下に植わる木々は日当たりのせいか、なんとなく元気がない。人の都合で植えられ、植え替えられる樹木に僕は感傷的な印象があったが、厳格に管理されているということは、細心な心配りをしているということでもあり、なぜか少しうれしくなった。この訪問以降、足繁く公園の管理課や場所によってはマンションの管理組合にも「樹木台帳」を見に行くようになった。


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