Day2.9「ウミガメのスープ」 八日後、君も消えるんだね 正幸誕生日SS
(SSと言いつつ脚本形式です。有料版限定エピソード候補だった話です)
○二日目の夜、陽平の家。畳の上に布団を並べて寝ようとするも、みんな眠れない
SE:莉子が寝返りを打つ音
莉子「んー……寝れなーい」
正幸「うっせーなあ。言ったら余計寝れねえだろ」
莉子「だってさあ」
凪「色々考えちゃうよね」
陽平「(クスッと笑って)じゃあ、気晴らしに問題出すよ」
莉子「なんの?」
陽平「ウミガメのスープ。僕が出した問題に、みんなが質問して、僕はイエスかノーだけ答える。それを繋げて、正解者には……天端村が元に戻ったら、コーヒー牛乳おごる」
正幸「乗った!」
SE:全員布団から出て畳の上に座る音
陽平「じゃあ、問題ね」
正幸「……はあ? 意味分からん」
莉子「意味を考える問題だから(笑)」
凪「じゃあ、わたしから質問。プレゼントは大きいですか?」
陽平「イエス」
莉子「はいはい! 泣いたのは、悲しかったから?」
陽平「ノー」
正幸「んー? 殴られたとかか? 痛かったから泣いた?」
陽平「ノー」
莉子「じゃあ、うれしかったから?」
陽平「イエス」
凪「うれし泣きだったんだね。……ということは、なにか感動的なことが起きたのかな」
正幸「じゃ、違う質問。そのプレゼントは、男が選んだやつ?」
陽平「ノー」
正幸「はあ? 他人が選んだモン運んでうれし泣き……? その男は大人? ガキ?」
陽平「イエスかノーでしか答えられないよ」
凪「男の人は大人ですか?」
陽平「(楽しそうに)ノー」
莉子「あ、なんかちょっとあたし、分かってきたかも」
正幸「マジ? 莉子、なんか質問してみろ」
莉子「えーっとぉ。その男の人は、いつもモノ運んでる?」
陽平「イエス」
正幸「プレゼントいつも運んでるってことは、サンタクロースか?」
陽平「あはは、ノー」
莉子「短絡的すぎてウケる。いつも運んでるのはプレゼントだけじゃないよね?」
陽平「イエス」
凪「あ……。わたしも、もしかしたら分かったかも」
正幸「えー? 凪もかよ」
凪「男の人が誰なのかは、多分分かった。けど、『怒りながらプレゼントを運んだ』というところと、届け先でうれし泣きをした理由はまだ分からないかな」
正幸「んじゃ、場所を先に特定するか。えーっと、届け先は年寄り?」
陽平「ノー」
正幸「ふうん、若い奴の家に届けたのか」
凪「その男の人は、プレゼントを車で運びましたか?」
陽平「ノー」
凪「では、台車に乗せましたか?」
陽平「ノー」
正幸「ってことは、その男は怒りながら徒歩でプレゼントを運んだんだな」
SE:莉子が身を乗り出す音
莉子「ふっふっふ……。あたし、完全に分かりました」
正幸「マジ!?」
莉子「ここからは天才莉子ちゃんの無双ターンだよ。陽平、一気に質問するから、テンポ良くお願いね」
陽平「了解。では、天才さんどうぞ」
莉子「プレゼントは精密機器ですか?」
陽平「イエス」
莉子「運んでた人が怒っていたのは、重かったからですか?」
陽平「イエス」
莉子「そのプレゼントはサプライズでしたか?」
陽平「イエス」
莉子「運んだのは3月でしたか?」
陽平「イエス」
莉子「運んだ男の人は当時15歳でしたか?」
陽平「イエス」
莉子「これは天端村での実話ですか?」
陽平「(笑いをこらえながら)イエス」
莉子「じゃー答えいきます。届け先は陽平でしたか?」
陽平「イエス」
莉子「運んだのは正幸ですか」
陽平「イエス」
正「俺!?」
SE:莉子が指パッチンする
莉子「あれだよあれ。おっきいパソコン。中学の卒業祝いってことで、陽平のパパママがサプライズプレゼントを注文してて、それを正幸が運ん……」
正幸「あーーーー!?」
SE:正幸が勢いよく立ち上がる音
陽平「あはは。思い出した?」
莉子「うわ〜、正幸顔真っ赤じゃん。ウケる」
凪「(控えめに笑いながら)どういうシチュエーションだったのか、教えてほしいな」
正幸「……好きにしろっ(恥ずかしそうに)」
SE:正幸がドスンと座る音
陽平「ええと。僕の家の周りは森だから、道が悪くて大型トラックが通れないんだよね。だから、大きいものをネット通販とかで注文したときはいつも、新堂商店留めにしてもらってるんだ」
正幸「……陽平んちの荷物は、配達の車で親父が運ぶんだけど、その日は村の外に仕入れに行ってて居なかったんだよ」
莉子「それで正幸が、段ボール持って徒歩で行くことになったわけ」
凪「だから運びながら怒っていたんだ。重たかったから」
正幸「そりゃそうだろ。あのサイズをひとりでだぞ? 精密機器だからチャリも台車も使えねーし、担いで行くしかねえんだもん」
莉子「素直に陽平を呼べばいいのに、サプライズだからって意地になっちゃってさ。あたしは正幸が転ばないように、落ちてる石とか枝とかよけながらナビしてた」
凪「うれし泣きをしたのは?」
陽平「無事届けてもらって、家族みんなで居間に集合したときだね。僕は段ボールの中身がなんなのかは知らなかったんだけど、開封するときに、父さん母さんから『卒業おめでとう』って言われて。開けたらパソコンだったから、すごいうれしくて柄にもなくはしゃいでたら、なぜか正幸が横で泣いてた。よかったな〜卒業できて……って」
莉子「自分も卒業するのに、ウケるよね」
凪「優しいもんね、正幸くん」
正幸「あーあーあー、真剣に推理した俺がバカだった。これでコーヒー牛乳おごりは無しだろ。その状況知らない凪は絶対答えらんねえんだから。無効!」
(4人とも笑う)
莉子「(あくび)ふわぁ、眠くなってきた。そろそろ寝よっか」
SE:正幸が勢いよく布団をかぶる音
正幸「あしたは三橋地区探しまくるぞ。覚悟しとけ」
莉子「はーい。配達で道を知り尽くした正幸がいれば、大丈夫だね」
SE:全員布団に入る。三秒間静寂の中、壁掛け時計の音が聞こえる。
陽平「(小声)正幸、ありがとね」
正幸「……なにが」
陽平「ふふ。ありがとうって、ただ言いたかっただけだよ」
(了)