Xで書いた妄想物語まとめ27

3/1
「僕は気づいたんだ。まだ天気予報がおまじないだった古代において雨が予測できた能力者は、多分、頭痛持ち」
「お? 真理か?」
「頭蓋骨が軋むようなこの感覚を予知ととらえるなら、それはつまり能力だろ」
「真理だな」
「頭痛ーるに甘えるな。己の痛みを信じろ。人間は気圧を感じられる」

(了)

3/10
桜の時期に急に寒くなることを、花冷えと呼ぶらしい。昔のひとの表現力には感心するが、そんな風雅な響きでは片づけられないほど、シンプルに寒い。三月だぞ。
冬に寒いのは耐えられる。冬とはそういうものだから仕方がないと、身も心も受け入れる胆力がある。
でも、三月に寒いのはいけてない。春への期待値上昇と、体の寒さへの耐久力減少は連動しているものだ。外気温の低さを受け入れる心もすり減る。
だって、寒くなり始めた十月から数えるともう五ヶ月以上「さむい」をやらされているんだぞ? さすがに長い。飽きも感じる。
いきなり暖かくなれとは言わないけれども、せめて、三寒四温フェーズへ移行しようという兆しくらいは見せてほしい。
慣用句と季語を無視するな。春らしくあれ。寒い。くそ。三月。花冷えだって、春は暖かいという前提条件のもと急に寒いことを言うのであって、ずっと寒いのは違うんだぞ!
僕はキレ散らかしながら布団に潜った。あすの朝寒かったら空気を殴る予定。
(了)

3/18(月)
「ねえ、この世界にあふれるゲームにおいて、必勝法があるものはどのくらいの割合で存在すると思う?」
ニヤニヤしながらコーヒーフロートのアイスを溶かす彼女の、その質問の意図が、僕には読み取れなかった。
「ビンゴには必勝法がないって、どこかのネット記事で見たことがあるな。ジャンケンもないと思う。読書感想文は『先生に気に入られること』を勝利条件とした場合、必勝法はある。桃鉄はモモタロウランドが取れれば勝ち同然。だけど、必勝とは言えないかな」
彼女がストローを上下するたび、溶けたアイスがマーブル模様となって沈み、攪拌され、コーヒーに溶け込んでゆく。
「君を落とす方法は分からない。いや、恋愛はゲームじゃなかったな。失敬」
「そゆとこ好きだよ」
さらっと言い放った彼女の楽しそうな顔を見て、僕は硬直した。
「い、いま、好きって言った?」
「はい。好きって言ったよ。勝利おめでとう」
言葉に詰まる僕を見て彼女は笑う。
「勝ちというのは突然に、あっけなく訪れるものなんだよ。そして多くの人間は、勝ち筋を人に教えたくはない。でしょ?」

この世界に必勝法の存在するゲームがどれほどあるかは分からない。
ただひとつだけ――唐突に5年越しの恋が実った僕に分かるのは、大勝利をおさめた人間が再びそのゲームに挑むことはないんだな、ということ。
(了)

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