作家犬と影武者の僕5 イラスト
僕の飼い犬、白いフレンチブルドッグのぷうは、ミステリー作家だ。
ネットに投稿していた小説が注目されて、去年の春にデビューした。
もちろん犬が書いているということは内緒なので、僕が影武者役だ。
最近ぷうが、やたらに、iPadを貸して欲しいと言ってくる。
何かと思えば、絵を描いているのだ。
器用に肉球の間にペンを挟み、しゃかしゃかと線を引いている。
ひょいと覗くと、池の周りにたんぽぽが咲いていている、絵本の挿絵のような感じだった。
「わあ、だいぶ上達したんじゃない? 可愛いよ」
「そ、そうか……?」
少しよれた線は、鉛筆風のブラシで、スケッチしたような風合いになっている。
最初はペンを持つこともできなくて、前足にガムテープでぐるぐる巻きにしていたくらいだったから、本人としても、頑張った自覚はあるのかもしれない。
ぷうは画面に目線を落としたまま、気恥ずかしそうに言った。
「……絵も誰か人間に見てもらいたいんだが、小説のように、犬だとばれずに投稿できるところはないだろうか」
「うーん? 色々あるけど、犬だって隠す必要ある? ゾウが絵を描いてニュースになったりするくらいだし。描いてるところを撮ってあげるよ」
僕としては名案だったのだけど、ぷうはむつかしい顔で、短い首を横に振った。
「犬にしては達者だとか、そういうことではなく、純粋に絵を発表したい」
「そっか。芸みたいに言ってごめんね」
脇腹をなでると、ぷうは気持ちよさそうにして、僕の腕に顔を擦りつけてきた。
「何か良い案はあるか?」
「じゃあ、小説の挿絵みたいにすれば? 文と画像を一緒に載せられるようなところに投稿したらいいと思う」
「なるほど……。では、済まないが、そのサイトに登録……してくれ……」
自然とまぶたが閉じて、ぷうはそのまま眠ってしまった。
あーあ。あとで一緒に、曼珠沙華を見に行こうって言ってたのにな。
犬らしからぬことを次々するのに、こういうふうに眠気に勝てず寝てしまうのは、すごく犬らしい。
「ぷうは犬だよ」
もたついた首のしわに顔を埋め、よいしょと抱きかかえて、ベッドに向かう。
重みと温みが、たしかに、僕のぷうだった。