史上最速三題噺『片想い・ゴミ箱・恋人』
片想いの相手の家に行ってまずすることは、ゴミ箱を漁ることである。
ゴミ箱の中身、手入れの具合、詰め方……人の性格や生活の痕跡がこれほどまでにあらわれるものは、他にないんじゃないかと思う。
一生を添い遂げたい好きな相手ならば、綺麗なところや素敵なところばかり見ていてはいけない。
ゴミの分別のひとつで、自分の波長とどれほど合うか――何を許し、何を気にせず、何を不要だと考えるか――を知ることができる。
これはとても重要なことだ。だって人は死ぬまで、何かを排出しながら生きる。
いつか恋人となり伴侶となる予定の彼の、寝室のゴミを漁る。
水道料金のコンビニ払いの領収証が出てきた。
料金はひとり暮らしにしては高めの、2ヶ月で4000円。
支払い期日ギリギリの日付の印が押してある。コンビニは徒歩1分なのに。
めちゃめちゃルーズだ。なんだ、もう、めちゃめちゃ好きだ。
ゴミ箱を漁るごとに、彼の適当な生活が見えてきて、愛が募っていく。
この人と添い遂げられる人生は、ゆったりとしていて、それでいてはちゃめちゃで、退屈しないはず。
もしかしたら、人類史上最高のQOLを叩き出すかもしれない。
ゴミ箱に顔を突っ込む。
「好きだ……」
つぶやいた瞬間、背後から声が振ってきた。
「俺も割と、お前のそういう変態くさいとこ好きかもしんないわ」
彼はハハハと笑いながら、わたしの髪にくっついたレシートをつまみ上げ、満足そうに微笑んでいた。
(了)