雨月先生こどもの日SS。発熱中のじゅんすたが考えた捏造ゴールデンウィーク
5/5、ゴールデンウィーク真っ只中。
小説本編では、玲は弟妹たちと全力で遊んでいるところのはずですが、これは戯れのSSなのでその設定は無視され、不破の誘いで江ノ島に来ています。
海と車が大好きな不破修平は、しょっちゅう江ノ島に来ており、毎年恒例のスーパー大渋滞も見越してマニアックな道を進んできたため、正午の現在、快適に海辺でアイスを食べています。
コンクリートブロックに三人並んで腰掛けていて、雨月先生は子供化して足をブラブラさせてキュートな仕草を見せ……るなんてことは全くなく、普通に暑いだるい帰りたいオーラ全開で目が据わっています。
全く海遊びにふさわしくない、白シャツとスラックスにローファーを合わせてきているあたり、砂浜には一ミリも入らないという強い意志が感じられますね。
他方、不破くんはどうでしょうか。
シンプルなロゴTシャツに某有名アウトドアブランドのハーフパンツ、サンダルという完全夏の海スタイル。
サングラスをカチューシャ代わりにオールバックにして似合う男というのは、意外と限られているものです。
玲ちゃんはいつもどおり全身プチプラですね。
「雨月先生、なんかこどもの日の思い出とかありますか?」
「……質問の趣旨を教えてくれないと答えない。回答次第では一切答えない」
「ええ? ただの興味ですよ。双子の男の子のこどもの日なんて、さぞや盛大だったのだろう、とか」
「答えない」
(あ、もしかして、触れちゃいけない話題だったのかな……)
玲が首をすくめる横で、不破はなぜか「ふっふっふ……」と言いながら、ハーフパンツのポケットに手突っ込んでいます。
そして取り出したスマホの画面に映っているのはなんと、キラキラの双子の男の子の写真ではありませんか!
どこかの庭でしょうか。
バラのアーチが夢のようなイングリッシュガーデンで、まるでお人形のような5歳くらいの少年がふたり、向かい合わせで両手をぴったりとくっつけ、首だけ振り返ってカメラ目線という状態です。
「うわっ、これ雨月先生と残月さんの子供のころの写真ですか!? か、っわいー……けど、不破さん、なんでこんなもの持ってるんですか?」
「んー、なんかきょうは、作者のじゅんすたが熱出してるらしくて、テンションが変でさ。『白昼夢を見たい』とかなんとか言いながら、俺のスマホにこれを仕込んだわけよ」
「大丈夫なんですかね、じゅんすたさん」
「慣れないことして知恵熱出したとかなんとか」
大掃除をしていたらなぜか風邪を引きました。平熱~37℃台前半をいったりきたりしています。
まあ、じゅんすたのことはいいのです。話を戻しましょう。
玲はまじまじとスマホの画面をのぞき込みました。
「見分けつかないくらいそっくり……すご」
左の少年が花咲くような笑顔を見せている一方、右の少年は表情が固く恥ずかしそうで、おずおずとカメラ目線を向けている状態です。
「これ、左が残月さんで、右が雨月先生ですよね?」
「……」
当然のごとく雨月先生は何も答えず、ふたりの会話を完全に無視して、ガリガリ君を食べ進めています。
不破くんは二本指で拡大と縮小を繰り返しながら、すっかり感心しているようです。
「お前は年相応のガキって感じだけど、残月の方は子役みたいだな」
「…………ちょっと都会へ出るとすぐスカウトされるから、面倒で」
「あ! 双子だとドラマや映画の撮影が長時間できるみたいな話、聞いたことあります」
こんなに綺麗な顔をした瓜二つの子供が歩いていたら、スカウトマンが放っておかないでしょう。
「ふたり揃って催眠術使ってたら、てじなーにゃを超えてたかもしんねーな」
「てじなーにゃってなんですか?」
「うわ、玲ちゃん山上兄弟知らねえの? はー、急にジェネレーションギャップ感じたわ」
雨月先生の視線、不破を睨むそれが殺人鬼のものと変わらないレベルの眼光で、思わず不破くんがギョッとしたところで……。
ぽと。
ガリガリ君の残り数センチが落ちました。
「あ、先生当たりですよ!!」
玲ちゃんが大声を上げて指差した棒の先には、くっきりと、当たりの文字が刻まれています。
「おーおーおー、よかったなうーちゃん! アイス取り換えに行こう!」
「……はじめて当たった」
というその表情は、写真の中の雨月少年の面影が強く、内心ものすごくうれしいのか、雨月先生の仕草や言葉の発音が、ややお子様化しているような……?
いいところですがすみません、そろそろじゅんすたの体力が切れそうです。
主人公の有島雨月がほとんど会話に参加しない謎のSSになってしまいましたが、まあ、いいのです。
本当の白昼夢は見られなくても、こうしてスピンオフを書けばそこそこの形で妄想が具現化してくれるのですから、作者というのは良い身分ですね。
(了)