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”Collective Impact(CI)”を体感するセッション開催(CI × コミュニティナース × 官僚 × システムコーチ)

 2019年3月に主催した国家公務員のNPOでの「公益兼業」マッチングイベントにて内閣官房の窪西さんと知り合い、Collective Impact(CI)に関心持ってくださったきっかけで、4月に主に官僚向けのCIを体感できるセッションを開催。

 窪西さんは以前島根県雲南にご縁あったコミュニティナースのお手伝いもされているということで、コミュニティナース@奈良県山添村の荏原さんがケース提供者として当日参加。CIはこの5年ほど学んだり一部実践したりしたものの、プライベートのイベントでCIを伝える&体感してもらうのは初めて。深淵なるCIの世界をどう伝えるのか四苦八苦しましたが、当日は最高に良い時間を過ごせました。

 まずCIの全体像を整理するというところからチャレンジ。今回は下記のような表で整理。


 CIは、2011年、スタンフォード大学が発行する専門誌 Stanford Social Innovation Reviewで“Collective Impact”という論文が発表され、CIを「異なるセクターから集まった重要なプレーヤーたちのグループが、特定の社会課題の解決のため、共通のアジェンダに対して行うコミットメント」と定義。

 今回伝えたCIのポイントは、社会問題の根本的な構造に対して社会変容を促すためにはI(個人)-we(組織)-it(社会)のつながりを意識すること、自分の価値観や心身の状態等内面に意識を向け自分自身から変容すること。(下記の引用記事参照)

 コレクティブ・インパクトには、ソーシャルイノベーションの2つの大きな系譜が合流している。1つが、ビジネスの手法を活用することで、ソーシャル分野のインパクトを上げていこうとする系譜だ。
 もう1つは、個人・組織・社会はつながっており、個々人の価値観やマインドセットの変容なくして、システム的な社会変容は起こらないと考える系譜である。
 これまで、あまり交わることがなかったこの2つの系譜が、近年、コレクティブ・インパクトに代表される形で合流し始めている。現在、世界では多くの慢性的な社会課題が待ったなしの状況となっている中、いまこそ、深いシステムレベルの変革が必要であり、それが市場や企業のイノベーションにも連鎖すると筆者は考えている。
(引用)DHBR 「コレクティブ・インパクト実践論 企業と社会の利益は一致する 井上 英之 :慶應義塾大学 特別招聘准教授」

 
 特に参加対象の官僚の方々は、一般的に日ごろから自分の主語を「政府」「省庁」「公務員」とすることを求められがちで、公的な役割といち個人としての自分が一体化している印象がある。CIは様々な主体がこれまでの慣習や既存の思考、主体ごとのエゴを超えて何が起きているのかを探求し、共通の願いから新しいシステムが現れるプロセスだ。今回のイベントでは、公的な役割の願いといち個人としての願いどちらも認知して、手放せたときに生まれる大きな共創のエネルギーを感じてほしかった。

<プログラム>
15:00- チェックイン
-主旨説明、チェックイン、場の合意
-CI紹介①
15:40- リアルケースを通したCI体感ワーク
-ケース紹介(コミュニティナース@奈良県山添村 荏原さん)
-ワーク①(Deep Democracy Process):いまver、こじらせver、共創ver
-ワーク②(紙面上のConstellation)
16:45- 日常へCIを取り入れる
-CI紹介②・全体議論(質疑、CI@日常)
17:05- チェックアウト
-ワーク③リソーシング、チェックアウト
17:30-18:30 自由懇親

 当日のプログラムは上記の通り。11名が参加(官僚7名民間4名)。当日の流れと共にCIを紹介していくと、チェックインとして「日常で感じている“Collective Impact“に関する痛み・怒り」を聞きながら場の合意(グランドルール)を確認。下記の質問を場に投げかけ。
Q、なにが「社会問題」を起こす?、社会問題解決した状態って? 
Q、自分の役割(行政、企業、NPO、市民)は何?


 CIについて紹介したのは、まず単なるコラボレーションとCIの違い。
 (1)課題に取り組むために関わりうるあらゆるプレーヤーが参画
 (2)共通のアジェンダを作成・適宜内容更新
 (3)成果の測定手法をプレーヤー間で共有
 (4)それぞれの活動が互いに補強し合うようになっている
 (5)プレーヤー同士が恒常的にコミュニケーションしている
 (6)これらすべてに目を配る専任のスタッフがいる組織がある
 そしてCIが目指すシステムチェンジの概論。CIは社会問題の根本的な構造変化を目指すアプローチのため、数程度の組織が1つの協働事業を実施するだけのようなコラボレーションとは異なる。5年、10年、15年以上と時間がかかり、協働のアクションとインパクトが持続する構造へと変容促していく。(CIの5つのフェーズの表を参照)

(引用)The Water of Systems Change

(引用)The Phases of Collective Impact(Collective Impact Self-Assessment and Planning Tool)

 上記のCIフェーズ表でも読み取れるように、フェーズⅠ~Ⅲまで各コミュニティの主体者を巻き込み深く関係構築していきながら、社会問題の構造を少しずつ明らかにしていく。それまで協力すらできていなかった者同士が互いを知り合い、データを持ち寄り互いの価値観を学び合いながら本音を吐露し、現場も体感して何が起きているのかのシステムを可視化。コモンアジェンダ作成やコミュニティの願いを形にしていく。要は、1、システム全体像を浮かび上がらせる(群盲象を評す)2、新しいシステム像を描き、実現のために試行錯誤する という流れ。


 イベントではシステムコーチング®のワークを2つ実施。ワーク①Deep Democracy Process®という実際のケースを使った演劇で、参加者が様々な主体の気持ちを疑似体験しながら、普段現れない声なき声(Deep Democracy)を認知し、またくり返し起きているシステムのパターンに気付く。ワーク②紙面上のコンステレーション®は演劇で見えたステークホルダーの関係性を紙に可視化して、今の関係性と今後在りたい関係性を整理する。その後参加者同士で、気付きのシェアと今後の戦略を立てていく。今回の参加者には演じる役の情報を殆ど伝えない中進めたが、ケース提供者の荏原さんからは「実際に起きていることととても近い。見えていなかった関係性や想いがわかった。自分の役割もみえてきた」と感想があった。



 その後CIの成功事例として、イギリスのLeeds市の取り組みであるLeeds Children and Young People’s Plan(CYPP)を紹介。Leeds市は2009年に「子供の安心安全な環境」について適切でないと判定・政府に改善勧告を受けるほどの状況から、5年で全英でも注目される都市になった。下記、CYPPのレポートより抜粋。図は順番に、1、成功事例までの道のり 2、コモンアジェンダ(更新後の2018-2023版) 3、運営体制。CYPPプログラムの関係者内では、コモンアジェンダに記載の通り、ビジョンやアウトカム、優先順位、評価指標、取り組み内容、大切にしたい価値観等を合意し、対外的にも公開、その進捗度と結果は下記のレポート等にも明記されている。

(引用)Leeds SCRUTINY BOARD (CHILDREN'S SERVICES)

(引用)Leeds 2018-23 Children and Young People’s Plan 

(引用)Children’s Services in Leeds

 なお、Leeds市の他にイスラエルの事例も紹介したが下記記事参照。
(参考)高度な数学を学ぶ高校生増やし、ハイテク人材確保のためイスラエルがしたこと|BUSINESS INSIDER


 最後にCI補足と感想。補足としては、CIはあくまで社会問題にアプローチするときの1つの手段に過ぎない上、実行が大変難しいので、「本当にCIが適切か?」を問うのが重要。FSG社は「CI実施前の5つの”readiness criteria”」として、下記を挙げている。

CI実施前の5つの”readiness criteria”
1、問題の緊急性について関係者内の共有
2、信頼できるリーダーたちの存在と、様々な主体のエンパワーメント
3、問題の明確な理解と、それをふまえた協働の取り組みや戦略の有無
4、内外からリスペクトされ中立的な招集者(convener)の有無
5、資金提供者等の同意のもとに、課題解決に向けたリソースの注力

(引用)Is Collective Impact Right for You?


 「官僚がCIを学ぶ意義は?」について感想つらつら。1つの仮説は、複雑な問題に対して深いシステムレベルの変革を促すというCIの方向性が、官僚の問題意識と合致していること。官僚の仕事は上述したシステムチェンジの”structural change(政策や法律)”を担う役割であり、しかしシステムの認知ができず現場の声を反映していない政策になったり、方針はよくてもステークホルダーの意識変容(行政自身も含め)ができずうまく運用されないという痛みがある。2018年から新公益連盟の仕事として国家公務員のNPOでの副業兼業のアドボカシーを担ってきたが、NPOへ副業希望する理由の1つは「現場をみて良い仕事がしたい」だった。自身のつくる政策がどのようなシステム構造の中に在り、ステークホルダーに影響していくのかが見えないという。また、影響力がとても大きな仕事をしており批判も多く、「公務員」の当事者性も強いため政府―国民という表面的な関係性になってしまいがちで本音を出し合って対話がしづらい。

 世界中には政府・自治体が大きく関わる/主導するCIの成功事例が多くあり、官民関係なくシステムチェンジ実現に向けた長い協働関係を築いている。政府が対話のファシリテートをする必要は必ずしもなく、得意な中立的な組織(バックボーン組織)にファシリテート等は任せて政府は政策のつくり手・資金提供者等の当事者として参加することもやりやすい。CIは様々な座組の類型があるため、日本らしい進め方を模索できればと思っている。なお、以前、アメリカのサマービル市の著名なCI事例(行政主導のCI)のヒアリングに行政職員へインタビューしたとき、彼女は「この仕事に誇りを持っている。素晴らしいプロジェクトと成果だ」と嬉しそうに自慢していた。このCI事例は15年以上続くものだが、彼女たちは行政予算以外の資金調達も担っており、関係主体間で適切な役割分担ができている印象を受けた。
(余談だが2人の行政職員のうち1人の女性は鼻ピアスをしていた)

 今回のイベントの感想は、CIの概要をさらうだけでも半日は必要という反省と、イベント当日予定していた「リソーシング」という自身の大事な源を感じるマインドフルネスのワークができなかったことはとても残念。ただ、CIの活用可能性を感じて頂き、ワークを楽しんでもらえたことに一安心。 また官僚向けに限らず、要望あれば実務で複数セクターの協働実施している方向けのCI体感セッションは開催できたらと思っている。



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