精神覚醒ノ肥後虎 ACT.32 ミスコン

あらすじ


 ターボが復活したファミリアと共に、開運グッズを身につけたひさ子は再び時田に戦いを挑む。
 今度は後攻を取り、風水を活かした走りで攻めていった。
 その走りで、彼を倒すことに成功する。
 敗北した彼は改心し、蛍食堂で働くことを決めた。

震災から2ヶ月が経過した6月15日。
 観測上、東日本大震災を上回る未曾有の災害は熊本中に大きな傷を与えた。
 200人を越える死者、2800人を越える負傷者を出した。

未だに立ち直れない人も多くいる。

学校設立記念の文化祭が近づく麻生北高校。
 午後5時には、生徒会室では会議が行われていた。

生徒会長の私が口を開く。

「今度開く文化祭のこつばってん、昨今の震災を受けた今にピッタリなアイディアはなかですか?」

「高菜料理や赤牛料理で盛り上げるのよかでしょうか?」

「却下。それらで盛り上げるこつは阿蘇市民なら誰でもできます」

答えが見えないまま、会議を終わった。

夜10時。
 SA22C型RX-7乗りの副会長の山中ルリ子、ギャランGTO乗りの書記の大石胤子と共に私は気分転換で箱石峠へ走りに行った。
 文化祭のアイディアが思い付くまで、ケンメリGT-Rを走らせながら、考える。

ある程度走り込むと、往路のゴール前で休憩に入った。
 見覚えのあるクルマ、黒いエクリプスが止まる。
 降りてきたのは、青髪ロングに黄色いタイツを履いた少女……麻生北3年の加藤だ。

彼女は自動車部の部長で、前に開催した学園ナイターレースで優勝した生徒だ。

「加藤か。私から相談がある」

「なんですばい?」

「今度の文化祭でやる企画のアイディアのこつや。震災で苦しかな今にピッタリなもんが欲しか」

加藤の口からすぐアイディアが出る。

「アイディアですか? ミスコンってどうなんでしょうか?」

「今何って言ったん?」

「ミスコンですよ。阿蘇ば救う英雄を決めるコンテストですよ。他校の文化祭では学校一かわいかな女子高生を決めるミスコンも開催されとります」
 
「よかアイディアたい。今度の生徒会の会議で提案すっばい」

翌日の6月16日も生徒会室で会議が行われた。
 加藤から提案されたアイディアを皆に出してみることにする。

「皆さん……文化祭の企画としてミスコンはどうでしょうか? 熊本地震で皆が傷ついている今、英雄が必要ですばい」

しかし、役員から反対意見が出る。

「ミスコン!? ミスコンって水着審査ばするコンテストでしょ? 不埒ですたい!」

「そぎゃんこつはせん。震災で苦しむここば救う英雄ば探すコンテストにします」

「ルッキズム(外見至上主義)ば助長しますばい」

「容姿だけのコンテストにはせん、知性や品格も重視にする競うこつにします」

こうして文化祭でミスコンテスト、通称「ミス麻生北」が開催されることになった。

部活の終わり、うちの友達である飯田覚こと飯田ちゃんから誘われた。

「虎美、私の頼みを聞いて欲しいの?」

「なんなん?」

「私の家に来ない?」

「はい、喜んで!」

うちは飯田ちゃんの家へ遊びに行くことが決まった。

「私のSVXについてきてよね」

学校を出てエクリプスに乗ると、飯田ちゃんのSVXを目印にして目的地へ向かう。
 運転して30分後には彼女の家についた。

「ここが私の家よ」

その建物はカフェとなっている。
 飯田ちゃんの家族構成は両親と妹。
 お父さんは熊本県警の交通課で働き、お母さんはここを経営している。妹は中学生だ。

家の中に入ると、自分の部屋に案内してくれた。
 そこはクルマや刑事ドラマ・走る大捜査線のグッズでいっぱいだ。

「ここが私の部屋よ」

「よかグッズがいっぱいやな」

「あの地震でダメージを受けちゃったけどね」

「ばってん、綺麗な部屋ばい」

飯田ちゃんのカフェは震災の影響でしばらく休業していたけど、今は無事に営業している。

「今度はうちから頼んでよか?」

うちの頼みとは昨日生徒会長に提案したことだが、部屋の外から男性の声が割り込んで来たため言えなかった。

「覚、入ってもいいか?」

「いいわよ、お父さん」

声の主である飯田ちゃんのお父さんが入ってきた。

「こんばんは、虎美ちゃん! いつも娘がお世話になっております」

「いえいえ、こちらこそです」

この人は飯田ちゃんのお父さん。
 フルネームは飯田直(いいだ・ただし)、年齢は59歳。
 彼女が生まれた時は40代だったため、お爺ちゃんと孫娘の関係に見えてしまう。

「晩御飯できたから、虎美ちゃんもどう?」

「勿論です。断る理由はありません」

うちも飯田家の晩御飯に誘われた。
 飯田ちゃんの家族全員でリビングのテーブルに集まる。
 ここで彼女のお母さんと妹と対面した。

「あら虎美ちゃん、来たのね」

「虎美お姉ちゃん、こんばんは!」

「こんばんは、お母さん、妹ちゃん」

「それでは手をあわせて、いただきます」

お母さんのフルネームは飯田千景(いいだ・ちかげ)と言い、年齢は40歳だ。
 お父さんとは年が離れており、祖父と孫娘に見える彼とは対照的に飯田ちゃんの姉のように見える若々しい見た目をしている。
 実家兼カフェの経営者なので、とても美味しそうに料理を仕上げていた。

妹ちゃんは中学生であり、フルネームは飯田角恵(いいだ・つのえ)と言う。
 姉を幼くした感じの見た目をしている。

一家は元々は熊本の人ではなく、東京都出身だ。
 父の転勤に伴い、今に至る。

食べる前に、お父さんの口から重大な発表が飛び出る。

「突然ですみませんが、家族皆様に発表があります。私は本日を持ちまして、熊本県警交通課を退職いたします」

「え? あなたどうして?」

「お父さんの生活はどうなるの?」

今まで勤めてきた仕事を辞めると宣言してきた。
 これには家族全員がどよめく。
 しかもうちの前で。

「何を考えているの、あなた?」

「それは……今度開催される熊本県議会選挙に立候補したいと考えているからです。熊本出身ではないけど、ここに恩返しがしたいです」

「せ、選挙に出るの!?」

「議員になった暁には熊本の復興を早めることに務めます!」

「あなた、大きな決断だわ……」

「警察を辞めるほどの覚悟をしているわ」

「お父さん、頑張って!」

家族からは拍手と激励が飛び出る。

「頑張ってください。うちも応援しております」

うちもエールを送る。
 
 晩御飯を食べ終え、午後9時頃にはエクリプスに乗ってサラマンダー丸へ帰っていった。

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