精神覚醒ノ肥後虎 ACT.1「エクリプス」

救世主の手助けでマスコミの魔の手から離れて、安心した。

「助けてくれて、だんだん(熊本弁で「ありがとう」という意味)です!」

「いえいえです。困っている人を助けるのが私の役目ですから」

「実はこれが初めてではなか、震災直後から何度も嫌がらせを受けたとです」

まさに救世主だ。
 被災地に光が指した。

次に彼女の事について尋ねてみる。

「あなた、誰でしょうか?」

「私はサラマンダー財団代表の竜宮沙羅子、現在"サラマンダー丸"にて支援をやっております」

彼女の放った言葉が気になってしまい、

「うち、加藤虎美と申します。沙羅さんと呼ばせていただきます。サラマンマン丸ってどげん所でしょうか、お城でしょうか、是非行ってみたかです?」

と頼んでしまった。

軽いノリに応じてくれるだろうか
 あと、朝ご飯ば朝鮮飴しか食べてないので空腹が恐ろしい。
 お腹と背中が引っ付いてしまう。

「はい、行きたいなら行かせますわ。あと、サラマンダー丸です」

「だんだんです! 美味しいもんあるんか、気になりまず。マスコミに邪魔されたのでもうハラペコです」

「あります。当財団は被災者に食べ物を提供しておりますから」
 
 これで助かる。

「サラマンダー丸に向かうなら、私の車に乗りましょう。駐車場にあります」

沙羅に連れられて、目的の場所へ向かった。
 そこにはものすごいクルマが停まってあった。

「すごか車たい……」
 
「私のクルマ、三菱·ランサーエボリューションファイナルエディション、通称·エボファイナルです」

威圧感を出す巨大な前後のウイングとボディキットで武装された外観は暴走族も逃げ出しそうな迫力であり、もばや車とは思えない。
 実はうち、実車が出るレースゲームをプレイすることが好きで、ランサーエボリューション、略してランエボの名前自体も知っている。しかし沙羅さんのクルマはそれに出てくる域を越えている。
 
 うちは沙羅さんのクルマの助手席に乗り込んだ。

「さぁ、行きましょうか」

紗羅さんがエンジンキーを入れて車を目覚めさせる。
 彼女のハンドルを握るエボファイナルはボンネットから2つのターボの音とスーパーチャージャーのコンプレッサー音を地面に鳴らすように発生させながら、目的地へ向かっていった。

沙羅さんは運転しながら、うちのある部分を見ていた。
 うちの身体には普通の人には見えない所があるのだ。

(この人、オーラがありますわね。"アレ"を使える人なのでしょうか!?)

どういう意味なんだ?
 もしかして、何かの才能があるという意味なのか?

一方のうちの眼にも、沙羅さんの身体からオーラと呼ばれるものが見えていた。

 出発して10分。
 うちを乗せた沙羅さんのエボファイナルは、青くて巨大なテントことサラマンダー丸へ着いた。

「到着です」

「すごか建物ばい」
 
 そこはまるでイベントを開催するようなテントよりも迫力ある建物だった。
 この建物ば災害の支援時に建てられているらしい。
 
 中にうちと沙羅さんは入っていく。

青髪サイドテールをした、和服姿の女性が迎えてくれた。

「お待ちしておりました、代表。あと、その人は誰でしょうか?」

「その人は加藤虎美という者ですよ、奈亜河」

「初めまして。加藤虎美、17歳、おいおいばい! うちばサラマンダー丸ば初めてけん色々教えて頂けたら結構です!!」

「私は毒蝮奈亜河、サラマンダー財団の副代表を務めている。分からないことがあれば、代表と共に聞くからな」

「初めてサラマンダー丸に来たなら、ここの設備を教えましょう」

沙羅さんと奈亜河さんがサラマンダー丸の案内を始める。

「これが宿泊用テント。
 それぞれ3つ用意され、被災した人を住ませている」

「これが代表本部テント。
 私たちの本拠地ですわ」

「なるほど、なるほど」

テントの中にテントがたくさん並んでいた。
 どれも覚えておこう。
 
 今いる場所の正面にあるテントに注目した。

「このテントって……なんか匂いがしますけど」

「これは食堂用のテントです。全国各地から調達した食材を被災者に提供しております」

「おおう、食堂ですか!? うちも食べてもよかですね?」

「どうぞ」
 
 うちのお腹がついに助かる!
 朝ご飯は朝鮮飴しか食べていないから、腹ごしらえをした。

「ごちそうさまでした」
 
 食堂テントから出ると、左にある2台の車に目に留まる。

「あの車ばなんでしょう」

「あのエスティマハイブリッドは電力供給用の車です」

「被災者に電気を提供している」
 
 エスティマハイブリッドってある番組で5年前に起きた東北の地震で大活躍したと聞いた。
 ここでも活躍し、被災者の電気になっていく。

 サラマンダー丸の中にある車ばこれらのクルマだけではない。
 本部テントからすぐ東の方向にあるガレージのクルマを見る。

点灯していないに開いているリトラクタブルヘッドライトのマスクと流星的なラインが特徴的な黒いクルマだった。
 派手に武装されたエアロパーツに、サイドに流れるバイナル、金色に光るホイールが付けられ、ドアは上に開くガルウイング仕様だった。

うちはレースゲームに対する憧れからクルマに興味を持っていたが、今までにない感情が心に現れた。

その車に対してうちの心にアドレリンが駆け抜け、走って本部テントへ向かった。

「この車、うちを呼ぶような感じがしとるばい」

後から沙羅さんと奈亜河さんが来る。

「このエクリプスですか?」

「これは中古車で売られていたが、震災で被災して廃車になっていたのをサラマンダー財団と長野のグリーン・グローヴの共同で修復したクルマだ」

その車を見たうちば、一目惚れのような感情を抱いた。
 その感情のあまりつい、説得してしまう。

「娘さんばじゃなくて、そん車ばうちの物にしてくださりまっせ!」

「お前、免許を持っているのか?」

ホットパンツのポケットから、免許を取り出す。

「免許を持っています! 実ばレースゲームの影響でクルマの運手に憧れたこつと、万が一のこつに備えるために自動車免許を持っとります! なので、このエクリプスをうちのクルマにしてくださりまっせ!」

沙羅さんの答えは、

「この車はオーナーがいません。あなたのクルマにしても構いません」

OKを貰った。

「だんだんです!」

こうして、エクリプスはうちのクルマとなった。
 このクルマと共に、様々な出会いや冒険と遭遇する。

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