精神覚醒ノ肥後虎 ACT.7「麻生北高校」
前回までのあらすじ
箱虎美は大竹を再び撃退すると、サラマンダー財団の副代表らと共にマスコミを批判した。
2週間後、震災で休校していた虎美の学校生活が再開する。
再び親友たちに会うと、彼女たちは車を所有していた。
虎美たちの学校が再開する1日前の出来事。
暗闇に包まれた夜10時の箱石峠。
道路の上に2台のクルマが立ち、どちらも昭和に作られた古いクルマだ。
往路方面には赤い日産の510型ブルーバードが立つ。
復路方面には白い三菱のスタリオンが止まっている。
2台のクルマにはそれぞれのオーナーと思われる女性が立っていた。
510ブルーバードにはクルマと同じ色の赤髪の長いツインテールに、首から指先まで包んだ白い全身タイツにその上に紫のジャケットを羽織っている女性がボンネットの上に腕組みしながら立つ。
スタリオンにはクルマの色とは対照的な黒い長髪に、和風アイドルを思わせる腰まで包むワンピースに下半身は黒のタイツが暗い夜に隠れている女性が運転席前のドアに立っている。
まず、ブルーバードの女性が口を開いた。
2つのチラシを向こう側の女性に見せる。
「震災復興の大会として、スプリントレースが開催されるばってん、玉子も参加すっばい?」
続いて玉子と名乗るスタリオンの女性が口を開かせた。
「もちろん参加しますよ、ヨタツさん。あなたには負けるつもりはありませんから。それまで時間はかなりありますから、その間まで腕を落とさないでください」
「あんたもな。あたし以外にもライバルはたくさんおるばい。あいつらに負けんとな」
ヨタツと名乗る女性から2色のオーラが出る。水の流れるような青色と風のように舞う萌葱色だ。
「あたしの走りは痛か……」
玉子の方もオーラが出る。
燃えるような赤色と凍えるような水色だ。
2人共、覚醒技超人らしい。
3年B組の教室。
震災後初めてのホームルームが始まった。
うちら生徒は担任の小日向佐助先生の話を聞く。
「皆様、おはようございます。
震災で色々心が傷付きましたけど、それを乗り越えて楽しい学校生活を過ごしましょう」
8時50分になると、1時限目の授業が始まった。
教科は日本史だ。
「1598年に豊臣秀吉が亡くなり、石田三成(秀吉の側近)や小西行長(肥後のキリシタン大名)をはじめとする文治派と加藤清正や福島正則(秀吉の家来)をはじめとする武断派の対立が発生しました」
清正公の名前が出た。
「宿老の前田利家(織田信長の家来、加賀藩の領主)がいた頃は対立の表面化を防げたものの、1599年に利家が亡くなると武断派は三成の暗殺を企てました。命を狙われた三成は徳川家康の元へ逃げ込んで一命をとりとめました」
清正公、派手な行動をしたな。
失敗したけど。
「秀吉死後、有力大名たちは国元へ戻ります。
1600年、上杉景勝(上杉謙信の甥)の家臣·直江兼続は家康を批判する手紙·直江状を送り、それを読んだ家康は上杉に謀反の疑いを掛けて挙兵します。
その隙に三成は西国大名を結集させ、家康打倒を呼びかけます。
家康が秀頼を見捨てたことを糾弾し、毛利輝元(毛利元就の孫)は担ぎ出され、宇喜多秀家(備前(今の岡山県東部)の大名)と連名で諸大名に家康打倒を呼びかけました。
これを知った家康は兵を引き返し、美濃国(今の岐阜県南部)で石田三成と激突しました。
この戦いを「関ヶ原の戦い」と言います」
「これは結構知っとるばい。清正公関連は分かるからな」
「虎美、こんなに自信満々に振舞うと、テストで油断するわよ」
「飯田ちゃん、大丈夫ばい」
午前の授業は何も障害もなく無事に終了していき、昼食の時間へ突入した。
うちら3人は屋上で昼ご飯の弁当を食べていた。
ご飯を食べ終えたけど、一部は残していた……。
椎茸だ。
その食べ物が嫌いな飯田ちゃんに喰わせようとした。
「飯田ちゃん、椎茸いる?」
「何よ?」
「椎茸食べんと素敵なレディになれんたい」
「や、やめなさいよ……とーらーみー! 椎茸は苦手なのよ!」
大嫌いな椎茸を見た飯田ちゃんが普段の真面目さと裏腹に子供っぽくなる。
彼女を見て、ひさちゃんは……。
「椎茸なら、わしが食うばい」
と割り込んだけど。
「いや、うちが食う」
「結局あんた、何がしたかったの?」
椎茸はうちの胃袋に入る。
弁当箱がついに空になった。
飯田ちゃんに対する嫌がらせは失敗だった。
昼食の後は午後の授業が行われ、午前のように障害もなく終わるのだった。
向かう風にあおられながら、窓に紙が入ってくる。
チラシだ。
放課後に突入し、うちら3人は部室にて自動車部の部活動を始める。
部を作ったばかりだから、机と椅子以外なんもない
愛車を自慢しあう。
「私からよ。愛車はCXD型スバル·アルシオーネSVX、中古で購入したわ。色は濃い赤色よ。言っておくわ、このクルマにはスーパーチャージャーを搭載しているわ」
「ボクサーエンジンにスーパーチャージャーか、速そうばい」
「次はわしたい。愛車はBG8Z型マツダ·ファミリアGT-R、家の手伝いで稼いだお金を使ってこっちも中古で購入したばい。色は深緑ばい。ドッカンターボとボディキットで武装しているたい」
「ドッカン仕様か。上手く扱えとったら速か。最後にうちばい。愛車はD27A型三菱·エクリプスのガルウイング仕様、これは中古で買うてなか。色は黒で、ターボの上にスーパーチャージャーで武装したツインチャージャー仕様たい」
「どこで買ったのよ?」
すごく気になる?
教えてやろうか。
「実は買ったというより貰ったばい」
「貰ったん?誰から貰ったんばい?」
「……サラマンダー財団という組織から貰ったたい」
「サラマンダー財団って……あの熊本地震の被災者支援に来ている竜宮沙羅子の組織でしょ? あんた、こういうすごい組織からどうやって貰ったの?」
組織の名前を飯田ちゃんは知っているのか。
そんなことをおいといて、うちがエクリプスを入手した経緯を話した。
「なるほど、マスコミから嫌がらせされたところを助けてもろたん?」
「助けられたと同時に、「欲しい」と言っただけでクルマを貰らえたってやるわね」
「うん、まるで初恋のような感じだったばい。うちが乗るべきクルマだと感じたばい。その後、このエクリプスと共にマスコミ、いやカスゴミを2回やっつけたけん」
嫌がらせをしていたマスコミのことを思い出すと、クソみたいな呼び方したくなる。
「よくやり返したわね」
「まだうちは下手くそばってん。代表の沙羅さんの力を借りて戦ったけんな」
「サラマンダー財団の代表が協力するとは羨ましか」
顔を赤くして見ないで、ひさちゃん。
速い走り屋になるため、うちはもっと上手くなりたいと考えている。
部室の前に、学校の窓からやって来たチラシが風で通りすぎる。
両方とも速そうなクルマが写っていた。
「うう……」
突然、ひさちゃんは両手で自分の急所を抑え出す。
「わしゃ……トイレ行きとうなった」
「どうぞ、我慢しなくてもいいわ」
ひさちゃんは走って部室を出ていった。
走ってトイレに着くと入り口にチラシが落ちていて、踏んでしまったひさちゃんは転ぶ。
「うわ………痛たたた」
ひさちゃんの目から滴がちょっと出てしまった。
しかし、転ばせたチラシを見ると表情を変える。
「スプリントレース肥後……?」
どうやら、チラシの内容は自動車レース大会の宣伝のようだ。
ひさちゃんはトイレを済ませると、チラシを持っていきながら部室へ戻ってくる。
「おかえり森本さん、スッキリした?」
「実は……これ」
トイレから戻ってきたひさちゃんが、2枚のチラシを渡す。
「なるほど……って自動車の大会じゃない!」
「これ……うち参加しとうなったばい!」
チラシを見ると、うちの心は熱くなってきた。
大会って強い走り屋がいるのか?