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SPAC『アンティゴネ』空間デザインノート(2)「法王庁恐るべし」

法王庁中庭に足を踏み入れた瞬間、私は自分の考えが甘かったことを思い知らされた。そこは決して「憧れの空間」などという生やさしいものではなかった。

まず、空間のスケールが尋常で無い。大きすぎるのである。40m四方の中庭の周囲には30m近い高さの城壁が聳え立っていた。それは9階建てのマンションの高さである。そこに加えて2000席の仮設の観客席がかなりの急勾配で、下から見上げると山の様である。これはもう、悪い予感しかしない。

私達に用意された座席は中央前寄りのいわゆる特等席であった。しかし、それでは視察の意味がない。この空間の課題をつぶさに見て対策を考えておく必要があるのだ。そのためにはこの、舞台が見やすい席では意味がなかった。フランス語が堪能なHさんはすぐさま客席を上って行き、最後列に近いところに座っていた二人の女性に声をかけ、座席の交換を申し出た。その申し出は快く受け入れられ、私達は中庭の空間全体を見渡すことのできるその席に腰を下ろした。そして悪い予感が的中した事を確信して、わたしは声にならない呻き声を漏らした。

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眼下に見下ろす舞台は遥か遠く、人はは豆粒の様に小さかった。その上、巨大な城壁が舞台上の俳優を押し潰さんばかりである。これは想像していた以上に手強い。いや致命的と言っても過言ではない。

SPACの作品、ギリシャ悲劇などの古典作品では、その登場人物はいずれも圧倒的な存在感を放つ必要がある。しかしこの空間ではそれを表現することが容易ではない。というより不可能に近い。どう取り繕っても、舞台上にいる俳優の存在は、巨大な壁に比してちっぽけで卑小な存在にしか見えないのである。

「宮城さんが心配していたのはこのことか…」
2014年、石切場での『マハーバーラタ』が大成功に終わった時、冗談まじりに「次は法王庁ですね?」と尋ねたところ、
「法王庁は難しいんだよね…」との答えだったのだ。それはこの空間のスケールとプロポーションのことを言っていたに違いない。

これは、、、厳しい。

~つづく

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