第1回崩壊3rd引用元探訪 「保存ではなく、有したからこそ」

[名](スル)人の言葉や文章を、自分の話や文の中に引いて用いること。「古詩を―する」
出典:デジタル大辞泉(小学館)

崩壊3rdに登場する様々な引用文。その引用元と、周辺を散策するさまをここに記録しようという、言うなれば日記である

第1回ではアレクサンドラとミステルを繋ぐ言葉を訪ねてみよう

崩壊3rd原文は以下の通り
第33章より
「ヴェネツィアはもう昔と違う。美しいギリシャの島々も沈没していく。保存ではなく、有したからこそ、愛する価値がある」

この引用文、日本語で検索してもなかなか本体の姿が見えない
なので、いつも通り本国版の文章と百度一下に乗り換えていこう

本国版より

「威尼斯已经物是人非。最好的希腊岛屿已加速沉没。但正是拥有, 而非保留,才值得珍爱」

脇道にそれるが

威尼斯→ヴェネツィア
希腊→ギリシャ

であり

「但正是拥有, 而非保留,才值得珍爱」
→「保存ではなく、有したからこそ、愛する価値がある」
ここの対応については以下のようになる

非保留→保存ではなく
但正是拥有→有したからこそ
才值得珍爱→愛する価値がある

更にもう一歩裏道に入るのだが

hanyu.baiduによると
保留
(动)①保存不变:~完好无损。[近]保
存。[反]放弃。②留着暂且不作处理:~意见。

拥有
(动)占有;持有:~知识|~巨额的财富

らしい


脇道を抜けて大通りに戻ろう

本文を百度一下で検索すると、すぐに元ネタが見つかる
どうやらJack Gilbertというアメリカの詩人が元ネタのようだ

マジで知らねえ詩人来たんだけどウケる
でも世間的には有名らしく、英語版のウィキペディアはかなり充実している

Google検索に戻り、今度は
中文版タイトルが「被遗忘的巴黎旅馆」であることからパリと絡めて
「Jack Gilbert Paris」
「Jack Gilbert Venice」
などで検索する

するとこれも一瞬で見つかった
“The Lost Hotels of Paris”
と題された、一編だ

原文 “The Lost Hotels of Paris”より
「Venice is no more. The best Greek Islands have drowned in acceleration.But it’s the having not the keeping that is the treasure.」

英語は、みんな読めるだろうからこっちも辞書は引かないよ

こうしてたどり着いてみると
「翻訳の翻訳ってこうなるんだなあ、ほえー」
みたいな感想が最初に浮かぶよね
「インド仏典→漢語→日本語」じゃねえんだから(ガハハ)的なね

ただ、この原文を見るに、おそらく翻訳チームは(意図的かそうでないかは分からないが)中文をそのまま訳して、原文は見てないんじゃなかろうか
そうじゃなきゃdrownedを「沈没」とは訳せないだろうと思う。もうちょっとシャレた訳をしたくならない?わかんないけどね

いちおう元ネタ探訪として、実際にこれが載っている書籍まで確認しよう
『Collected Poems of Jack Gilbert』におさめられている
こうしてまた「広義の崩壊3rdグッズ」が生まれてしまった


さて、現地に着いたところでもう一つ疑問が生まれる。

なんでこの詩を引っ張ってきたの?

そこで改めてWeiboでジャックの評判を見てみると、どうやらこの詩を収録した一冊が《拒绝天堂》の名前で2012年から販売されていることがわかった

更に、2022年にもタブロイド紙、新京報に「杰克·吉尔伯特:从日常生活中打捞情感体验的重量」と題するネット記事が公開されている

また、件の詩の中にGinsbergなる人物が登場するのだが、彼もまた実際にジャックの友人であり、時代を代表する詩人であった。アーウィン・アレン・ギンズバーグ(Irwin Allen Ginsberg)その人である

(彼についての概略にまで手を伸ばしてしまうと散策から小旅行の規模に拡大してしまうのでここでは割愛するが、ベトナム戦争やヒッピー文化の時代の人とだけ触れておこう)

つまり、かの詩人は決して中華大陸でも無名の存在ではないのだということがわかる

もっと言うと、これだけのメディアで取り上げられている詩人であれば、ミホヨシナリオライターにとっては基礎教養の範囲なんだろう

ミホヨシナリオライターとの厚い壁に差し掛かったところで、今日の散策は終わりたいと思います


あー楽しかった


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