マミちゃんのゲーム #2000字のホラー
「今日、学校が終わったらうちに遊びに来ない?」
転校生のマミちゃんに誘われた、わたし達は山道を登っていた。横浜の小高い丘は、小学生のわたし達にはかなり険しい山登りだった。
肥満気味のキクちゃんは、もう汗びっしょりで肩で息をしていた。勝ち気なメグちゃんは黙々とマミちゃんに続く。狭い道の両側には、大きな木々がいくつも生い茂って陽も届かない。
ところどころ、ぬかるみもあって足を取られないように登り続けると突然、視界が開けた。
なんと、そこには大きな洋館がたっていた。
「わああ、大きな家」
「すごーい、ここにすんでるの?」
わたし達は驚いてマミちゃんに尋ねた。
映画に出てくるような古いお屋敷がマミちゃんの家だった。カギッ子のマミちゃんは首に吊るしているカギを手に取ると、古い鍵穴に差し込んだ。そして、重そうな扉をギイイと開けた。
そうっと中を覗いてみると、目の前には舞踏会でシンデレラが降りてきそうな大階段があった。
うさぎ小屋と呼ばれるような狭い家に住んでいるわたし達は、歓声をあげながらあたりをぐるぐる見回した。
そして、階段を上ったところにあるマミちゃんの部屋に入った。
マミちゃんの勉強机の横の棚には小さな水槽があった。不思議なことに、水は入ってるのに金魚も何もいなかった。
「シーモンキーだよ」
後ろからマミちゃんが言った。
顔を近づけてよく見るとミジンコみたいな半透明な生き物がふわふわ泳いでいた。
「気持ち悪ーい」
となりで一緒に見ていたメグちゃんが言う。
キクちゃんはというと、ガタガタとおもちゃの箱を引っ張り出して「これやりたい」と、部屋の真ん中にある小さなテーブルに置いた。
綿菓子マシーンだった。
「わたしもやりたい!」と、わたしは右手を高く挙げた。
おもちゃの綿菓子マシーンを取り囲んだわたし達は、キッチンにザラメを取りに行ったマミちゃんを待った。
マミちゃんはおもむろにザラメを流しいれるとマシーンのスイッチを入れた。
すると、マシーンはうぃーんと鳴りだして、たちまちクモの巣のように白い糸を張りだした。ぎこちない手つきでマミちゃんは、それを割り箸にからめ取る。
「ピンクの綿あめがよかったなぁ....」
メグちゃんの言葉を無視してマミちゃんはひたすらにからめ取る、からめ取る。
「はい!」いびつな形の白い綿あめが、わたしの目の前に差し出された。
ひとくち頬張る。
「甘ーい」
わたしはマミちゃんに微笑みかえした。唾液が付いた部分が溶けて綿あめはキラキラ光っていた。
わたしは砂糖で、べたついた手を洗おうと部屋をでた。すると、目の前の大きな廊下に男の人が歩いていくのを見た。
わたしはビックリしてマミちゃんに「男の人がいたよ!誰?」と聞いた。
「ここに住んでる人」とマミちゃん。
「他の人が一緒に住んでるの?」
「そう。知ってるけど知らない人」
わたしはマミちゃんの家族だけが住んでると思ったので、とても驚いた。
「次はこれで遊ぼう!」キクちゃんは別のゲームの箱を取り出して言った。
「泥棒ゲーム?何それ?」わたしが聞く。
マミちゃんはゲームの遊び方を説明した。泥棒の人相、服の色、体型などのカードを引いてボードに描かれた沢山の人の中から誰が泥棒かを当てていくゲームだ。
夢中になって遊んでいるうちに外はもう薄暗い。泥棒当てなんかしているうちに、だんだん薄気味悪くもなってきた。
「なんだか怖くなってきた」と勝ち気のはずのメグちゃんが突然、言った。
夕暮れの古い大きなお屋敷にいるせいもあって怖がりのわたしも何だか落ち着かない。
「ねえ、13階段って知ってる?」とキクちゃんがいきなり言った。
「この家の階段かぞえてみようよ」
「やろう、やろう」誰ともなしに言い出した。
ここの住人のマミちゃんも乗り気だった。
4人は大階段の1番上に横に並び、階段を1 段降りるたび「1、2、3」と数えていった。シンデレラが降りるであろう大階段でまったく何を始めたのか。
「7、8、9」
何だか嫌な予感がしてきた。
「10、11、12」
最後のステップが床に着いた瞬間、皆で声を揃えて「13!」と大声で言った、と同時に誰かが「ギャーーー!!!」と悲鳴をあげた。
次々に、皆で屋敷中につんざく悲鳴をあげると我先に玄関に向かって走り出した。小学生の私たちの恐怖はマックスだった。
重い玄関の扉をバンと開けて、私たちはマミちゃんに「ゴメン!」と言い残すとお屋敷から弾けるように飛び出した。
そして、さっき登ってきた暗くなった山道を3人で転がるように駆けおりて行った。
一目散に駆けおりながら、マミちゃんのシーモンキーや泥棒ゲームの泥棒たちや、廊下で見た男の人が断片的に頭をよぎった。
それらが、綿菓子マシーンの回転に合わせてグルグルとわたし達を追いかけて来るのだ。
ギャー、ギャー悲鳴をあげながら、暗い山道からやっとで下界にたどり着いた。
そして、わたし達は息も切れぎれにそれぞれのうさぎ小屋へと戻って行った。
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